小4国語「山梨↔埼玉」他者との交流で子供が相互主体的に学び始める新しい言語活動

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全国規模のオンライン教師ネットワーク「授業てらす」を活用して画期的な国語授業を展開している、山梨県公立小学校教諭の黒瀬貴広先生の実践を紹介します。オンラインを媒介とすることで、空間の制約を超えて全国の子供たちが学び合う場をつくり、言語活動において切実な“他者”との交流から子供が主体的に学び出す「新しいかたちの国語授業」の提案です。

執筆/山梨県公立小学校教諭・黒瀬貴広

オンラインを活用して他校の子供たちと学び合う「新しい国語授業」

はじめまして。山梨県の公立小学校で教員をしている黒瀬貴広(くろせ・たかひろ)と申します。教員向けオンラインコミュニティ「授業てらす」で国語部のリーダーを務めています。

今回は、この教師コミュニティを活用することで生まれた、子供たちがオンラインでつながり学び合う新しい国語授業のかたちをご紹介したいと思います。

教員研修プラットフォーム「授業てらす」が提供する教師のための学びの仕組みとは?

1. 従来の国語授業における「他者不在」という課題

皆さんは、国語授業での言語活動の設定に苦戦した経験はありませんか? おそらく多くの先生方が、悩んだ経験をお持ちなのではないかと思います。何を隠そう、私もそうした経験を持つ教師の一人です。

例えば、授業づくりの情報を収集していると、書くことの単元で「自分の地域の良いところを伝えよう」といったような言語活動を設定している実践をしばしば見かけます。すぐに思いつくのは、「学校の廊下に自分の地域の魅力について紹介するパンフレットを掲示する」といったような活動でしょうか。

仮にこのような言語活動の場合、皆さんだったらどんなことに配慮しますか? きっと多くの先生方は、指導事項を意識しつつ、「誰に向かって書くのか?」や「何のために書くのか?」ということについて熟考すると思います。子供たちにとって必然性のある言語活動は、国語授業の生命線とも言えるからです。

しかし、これも多くの先生方が経験していると思いますが、このような言語活動をしただけでは、子供たちはなかなか主体的に学び出すことはありません。中には授業の途中に「先生、何を書けばいいですか?」と質問してくる子供もいることでしょう。

どうしてこのようなことが起きるのか。それは、子供たちにとって「どうしてもこのことを伝えたい」と思えるような他者が、教室や学校という空間に存在していないことが大きな要因の一つとして考えられます。

先ほどの例に戻ってみましょう。子供たちは自分で調べた情報を基に地域の魅力を伝える文章を書きます。しかし、子供の立場になったとき、同じところに住んでいる学校の友達に地域の魅力を伝えたいと思えるでしょうか。必要感がなければ、子供たちにとっては単にやらされているだけの活動になってしまいます。教室空間に自分にとって切実な他者がいないと言語活動が十全に機能しないという事態が起きるのです。

2. 教員ネットワークが実現する地域交流を取り入れた授業

言語活動における「他者不在」という問題。これは、従来の学校現場ではかなり解決が難しい問題だと思います。新しい単元のたびに切実な他者を見付け、学校に招待するというのは、現実的な案ではありません。また大規模の学校になると、他のクラスのことも考慮しなければならない場合があります。

このように、学校のカリキュラムやシステム上の都合によって、これまでの国語授業はある面、可能性を閉ざされてきました。

しかし、新しい授業づくりのかたちが今、日本には広がっています。そしてそのきっかけの一つに、オンラインの教員向けプラットフォームの存在があります。私が参加している「授業てらす」には、現在全国から約500名の先生が参加しています。そこでは、北は北海道、南は沖縄まで、多様な先生方とオンラインを通じて学び合うことができます。

そもそも私が「授業てらす」に参加したきっかけは、全国の実力のある先生たちと授業づくりについて一緒に考えたいという想いがあったからでした。もちろん、今でもそうした先生方との交流を大切にする気持ちに変わりはありません。ですが、このオンラインコミュニティには、先生同士で学び合うことができるという点に加え、もう一つの重大な利点があることに気が付きました。それが、空間の制約を超えて、全国の子供同士が学び合う場が生まれたという事実です。

先にも述べた通り、このコミュニティには約500名の先生が全国から参加しています。すると当然、その背後には先生方が受け持つ学級の子供たちが存在していることになります。仮に、1学級あたりの人数を30人だとしましょう。すると、30人✕500学級=15000人の子供たちが繋がる可能性を持っていることになるのです。そして、これだけ多様な子供同士が交流し合う機会を学校現場に導入することができれば、国語授業のあり方も大きく変わっていくのではないかと考えるようになりました。

すなわち、オンラインを媒介とすることで、言語活動において切実な他者との交流を生み出すことができるのです。

では、どのようにしてそのような授業が可能になるのか。以下、全国の子供たちが繋がり学び合う国語授業について、小4「伝統工芸のよさを伝えよう」(光村図書)の場合で具体的にご紹介したいと思います。

3. 協力者の募集から授業実施まで

「伝統工芸のよさを伝えよう」は、前単元の「世界にほこる和紙」における「要約」の学習を踏まえながら、事典やインターネットから必要な情報を取り出し、リーフレットにまとめるという単元です。

「世界にほこる和紙」では、筆者が和紙の魅力を伝えるために、「特ちょう」や「よさ」が述べられています。したがって、子供たちが自分の都道府県の伝統工芸のよさを伝える文章を書く際にも、この「世界にほこる和紙」の書かれ方が非常に参考になります。読むことの学習で身につけた「資質・能力」を踏まえて、書くことの学習を発展させていくことが重要になるのです。

これまでの授業であれば、自分の都道府県の伝統工芸のよさをクラスの友達に伝える文章を書く活動で終わりになっていたことでしょう。しかし、今回は「授業てらす」というオンラインコミュニティの利点を活用し、「他県の4年生に、山梨県の伝統工芸の魅力を紹介しよう」という言語活動を設定しました。これにより、子供たちは「自分たちの県の魅力を他県の子供たちに知ってほしい」という必要感をもって授業に参加するようになるのです。

まず事前準備として、「授業てらす」のサロン内で本言語活動に参加したい先生を募集しました(写真①)。その結果、私を含めて4人の先生がこの企画に参加を表明してくれました。各学校の学級数、行事予定、教科、学年段階等を考慮し、山梨と埼玉、愛知と千葉の組み合わせで子供同士がやり取りをすることに決定しました(本記事では私が直接関わった山梨と埼玉のやり取りに焦点化してご紹介します)。

写真①「伝統工芸を伝えよう」共同オンライン授業企画の参加者募集
写真① 「伝統工芸を伝えよう」共同オンライン授業企画の参加者募集

いよいよ授業の中身に入ります。「世界にほこる和紙」の学習が一区切りついた後、私は子供たちに「①埼玉県の子供たちに山梨県の伝統工芸の魅力を伝える文章を書く」ことと「②埼玉県の子供たちと互いの文章を読み合い、オンラインで感想を伝え合う交流会をする」ことを伝えました(写真②)。

写真②「世界にほこる和紙」の板書
写真② 「世界にほこる和紙」の板書

すると、子供たちからは「すごい!」「早く書きたい!」という声が上がりました。さらに、「埼玉の4年生はきっと山梨に来たことないだろうな」とつぶやく子供もいました。

このようなつぶやきを全体で取り上げることで、「どんな情報が必要かな」(=「要約」の学習スキル)や「どんな文章だと山梨の魅力が伝わるかな」(=「表現と構成」の学習スキル)という問題意識につながっていきます。

つまり、「埼玉県の4年生の子供たちに伝える」という活動が設定されることで、読むことの学習で身につけた「資質・能力」を、書くことの学習の場で生かそうとし始めるのです。ここで、実際に子供たちが作成した文章を紹介します。

「1987年、甲州印伝を作ることが伝統工芸に認定されました。甲州印伝は、鹿皮を使って作られています。鹿皮に漆で模様をつけたものが甲州印伝です。私は、埼玉の皆さんにぜひ山梨県の甲州印伝の魅力を知ってもらいたいです。そこで、ここから甲州印伝の魅力や特徴を紹介します。

まず、甲州印伝の魅力は、「上品な質感」です。柔らかく軽い革には美しい光沢があります。しかも、長く使うことで輝きが増していきます。色もよりきれいに深みが出てくるため、長期間愛用する人が多いのです。

また、模様の漆は、「接着力」や「防水性」が高いという特徴があります。甲州印伝は美しいだけではなく、丈夫な革製品としても知られています。

このように、甲州印伝には、丈夫で長く使えば使うほど美しくなるという魅力や特徴があります。皆さんもぜひ山梨に来たら本物を見てください。」

この子供の文章は、「初め・中・終わり」の文章構成になっています。「初め」では、甲州印伝とは何かの説明と筆者の思いが書かれています。次に「中」では、「まず」や「また」という表現を使いながら「魅力」と「特徴」を書き分けて紹介しています。そして、最後の「終わり」では、まとめと投げかけの表現が使われています。

これらの構成や表現は「世界にほこる和紙」で学習したことがよく踏まえられています。実際、子供たちは書く活動のときに、何度も「世界にほこる和紙」を自分から読み直していました。読むことと書くことの学びが往還するのです。

このような文章を完成させ、クラス全員分のものをPDFにし、埼玉県の小学校にメールで転送しました。

しかし、子供たちの学びはここで終わりません。埼玉県の子供たちからも、「埼玉県の伝統工芸の魅力を伝える文章」がメールのPDFで届きます。例えば、次のような文章が埼玉県の子供たちから届きました(写真③)。

写真③ 埼玉県の子供たちから届いた「埼玉県の伝統工芸の魅力を伝える文章」
写真③ 埼玉県の子供たちから届いた「埼玉県の伝統工芸の魅力を伝える文章」

この送られてきた文章を読んでいる最中、「あ! つなぎ言葉を使っている!」や「初め・中・終わり」の構成が一緒だ!」ということを子供たちはどんどん発見していきます。

子供たちはこれまでに「世界にほこる和紙」を読んだうえで、「山梨の伝統工芸の魅力を埼玉の子供たちに伝えよう」という、書くことの活動をしてきました。そして、ここでは埼玉の子供たちの文章を読む活動をしています。

つまり、「読むこと」(「世界にほこる和紙」)→「書くこと」(山梨の伝統工芸)→「読むこと」(埼玉の子供たちの文章)というような学びの連動が起きているのです。「読むこと」の学びに「書くこと」の学びが生かされていくことで、「言葉による見方・考え方」が駆動し、子供たちの主体性が飛躍的に向上していきます。

4. オンライン交流会の実際

こうして、いよいよ子供たちは互いの文章を読んだ感想を伝え合うオンライン交流会に臨みます。

オンライン交流会では、まず埼玉の4年生から、山梨の子供たちの文章を読んだ感想を発表しました。「自分も山梨に行ったとき、見てみたいと思いました」や「とてもきれいだから欲しいと思いました」といったような感想をたくさん出してくれました。山梨の子供たちは、自分たちが紹介した山梨の伝統工芸の魅力が、埼玉の子供たちにも伝わったことを実感し、達成感に満ちあふれている様子でした。

なお、これは後日聞いた話ですが、埼玉の4年生の子供たちはこの機会を通じて、山梨県に非常に興味をもってくれたそうです。宿題の自主学習ノートでは、山梨のことを調べてくる子が多数いたことを埼玉の先生が話してくれました。書く活動において相手意識が高まっていたからこそ、子供たちが興味をもって、自分から学び出したのだと考えられます。

学校内で学びが閉ざされず、日本全国とつながることで、子供たちにとって切実な学びが拓かれるのです。これがオンラインコミュニティによって生み出された新しい学びのかたちだと言えるでしょう。

次に、山梨の子供たちも、埼玉の子供たちに文章を読んだ感想を伝えました。山梨の子供たちは、写真④のように、事前に「興味をもったこと」と「書き方の上手なところ」をICT端末でまとめていました。

写真④ 山梨の子供がちがまとめた「興味をもったこと」と「書き方の上手なところ」
写真④ 山梨の子供がちがまとめた「興味をもったこと」と「書き方の上手なところ」

ここでこだわったのは、「書き方の上手なところ」を発表の一つの着眼点にしたことです。「書き方」にフォーカスして相手の文章を読み、その良さを埼玉の子供たちに伝えることで、国語としての学びが一層促進されると考えたからです。なお、オンライン交流会では、このまとめた資料を提示しながら発表を行いました(写真⑤)。

写真⑤ オンライン交流会の様子
写真⑤ オンライン交流会の様子

埼玉の子供たちは、自分たちの書いたものが山梨の子供たちにどのように受け止められたのか、画面の向こうでワクワクしながら聞いているようでした。こうした他者がいるからこそ、山梨の子供たちも一層一生懸命に感想を伝えようとします。

オンラインなので実際に対面で会っているわけではありません。しかし、自分たちと同じ内容を学んでいる仲間が全国にいることを体感できるからこそ、学びがより切実なものになるのです。

例えば、単元終了後、次のような学習感想を書いた山梨の子供がいます。

「私がこの学習で大切だと思ったのは、伝える相手の気持ちを考えて書くことです。相手のことを想像すると、『どんなことを書いたらよいかな』とか『もっとわかりやすく書くにはどうしたらよいかな』ということを考えることになります。そうすると、これまで学んだことを生かしながら、文章がまとまって書けます。それに読むときにも、『筆者がどうしてこの言葉を使ったのかな』を考えて読むことも大切だと思いました。相手がそこにいるつもりになって読んだり書いたりすることで、今ままでの学習を使って勉強できていいなと思いました。また埼玉の4年生と一緒に授業をしたいです。」

オンラインでつながり学び合うことで、子供たちは単に「知識・技能」を習得することに留まらず、それを活用して考え出そうとします。「思考力・判断力・表現力等」は学びの必然性を伴って初めて駆動します。

そして、今回の言語活動には切実な他者の存在がありました。だからこそ、子供たちは自ら学ぼうと動き出したのです。

オンライン交流会が終わった後、子供たちの顔は充実感に満ちていました。


これまでの国語授業は、物理的な条件等に左右されて、なかなかリアリティのある単元構想を組むことができませんでした。しかし、「授業てらす」のようなオンライン教師コミュニティを活用することで、学びの可能性は格段に広がりました。今は約500人ですが、今後は2000人規模への拡大を目指しています。

また、最近は海外の小学校からも「授業てらす」に参加するメンバーが現れました。オンラインのコミュニティが世界にまで拡大しているのです。

今回は「書くこと」の単元でお話をしてきましたが、例えば海外とつながることができれば「伝統文化」の指導内容についてもアップデートできるのではないでしょうか。可能性は無限大なのです。

この記事を読み、1人でも多くの方が、オンラインを通じて子供同士がつながり合い、学び合う授業実践に興味をもってくださったら大変嬉しく思います。そしていつの日か、あなたの教室と空間的制約を超えて、共に学び合える日が来ることを楽しみにしています。


執筆者:黒瀬貴広(くろせ・たかひろ)
山梨大学大学院国語教育専攻修了。全国大学国語教育学会会員、日本国語教育学会会員、「授業てらす」国語部リーダー、文学研究✕国語教育の会運営委員。2024年7月現在、山梨県内の小学校で4年生の担任をしている。研究と実践を結びつけるため、日々研鑽している。

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