生成AIは正解のある場面での活用には適さない【実践のポイントを分かりやすく解説! 生成AI活用の授業づくり「まずはココから」#07 最終回】
これまで4回にわたって、茨城県つくば市立みどりの学園義務教育学校での生成AI活用授業の様子や、そのような実践を重ねるようになるまでの学校としての取組などを紹介してきました。最終回となる今回は、学校が生成AIを活用する場合、子供と教師それぞれの活用の適否を分かりやすく紹介するとともに、今年度、同校に赴任した山田聡校長の話も伺います。
目次
教職員が活用する上で便利なのは、画像の生成AI
これまで、授業での生成AI活用を中心に学校運営の方法などについても紹介してきましたが、ここで中村めぐみ教頭に、教職員の校務などでの活用について尋ねてみました。
「先生方は、ちょっとした文書作成の支援など、校務でも生成AIを活用していますが、例えば私の場合だと、特に児童・生徒のデータの重なりを解消する場面などでは重宝しています。本校は全児童・生徒数が約1800名になりますから、データ量が膨大なのですが、2重登録されているものをあげるようにプロンプトを入れると、一瞬で出てきますから、非常に助かります」
さらに、これから生成AIの活用に力を入れたいと考える学校で、ぜひ校務支援に使ったらよいと思える内容について尋ねると、同校での活用状況も交えながら次のように話してくれました。
「教職員が活用する上でまず便利なのは、画像生成AIではないかと思います。先生方は保護者に向けて『おたより』を出す機会は非常に多いのですが、そこにイラストを付けることはよくあります。しかし、そうした画像使用には著作権問題が生じやすいものです。そこで、画像生成AIを活用し、子供たちがこういう場面でこんなふうに学習している姿をイラストにしてほしいと入力すると、そのような画像が出てくるのです。それを試行錯誤し、調整して自分のイメージに近付けながら使用していきます。
その画像に著作権があるのかどうかは議論があるところだと思いますが、現時点のガイドラインではオリジナルということになっていますから、安心して使用することが可能です。このような画像生成AIの活用は、特に担任の先生方にとって重宝するものだろうと思います。
それから本校の先生方は、大量のデータの中から情報をピックアップするような情報処理、整理にはよく使っていると思います。例えば、子供たちや保護者にアンケートなどをとったとき、『〇〇(キーワード)』の含まれる文章をピックアップして、と入れるとすぐに出てきますから、整理と対応が非常に楽になります。
また、先生方は文章を書いて出す場合が多いので、文章校正も非常に役立ちます。叩き台となる文は、ざっと自分で書いた上で、こういう場面のこういう文例に沿う形で、何字以内にまとめてほしいと入力すると、すぐに校正処理してくれます。それを確認し、必要に応じて手直しして出せばよいわけです。
加えて、生成AIの要約スキルは非常に高いので、文章要約なども活用したいところです。私の場合であれば、文部科学省の教育デジタル化に関するワーキンググループに出席する前、送られてくる大量な資料の文書をすべてていねいに読み込むには時間が足りない場合もあります。そういうときには、まず生成AIにざっと全文を要約させて概要をつかんだ上で、資料に目を通すようにしています(資料1参照)」
【資料1】教師が活用する場合の活用方法
生成AIが効果的なのは、追究、探究、試行錯誤の場面
さらに授業における生成AIで、活用できる場面、できない場面について尋ねると、中村教頭は次のように説明します。
「子供が学習に活用する場面については、まず大きく言えば、正解のある場面での活用には適していません。知識の習得を図ったり、定着を図ったりする場面で有効に使えることは少ないと思います。それに対し、効果的に使えるのは、追究する場面、探究する場面、試行錯誤をさせる場面です。そういったフェーズに入ったときに使うと、生成AIが子供たちの視点を広げたり、思考を広げたりといった役割を担ってくれるので、そこで使うことが効果的なのだと思います。
単元構造には多様なものが考えられますが、例えば、シンプルに「習得→活用→探究」という流れの単元モデルならば、習得ではなく活用の後半から探究にかけて活用可能な場面と効果が増すというイメージです。もちろん、最初からずっと習得を目的とする単元であれば、あまり活用の効果はないでしょうし、最初から追究・探究を目的とする単元であれば、最初から活用が可能だろうと思います。追究・探究を目的とする単元は問いから始まるため、その問いの先に自分の好奇心を煽ったり、見方・考え方を広げたりするように、生成AIを活用することができるのです。
また国語の富田直道教諭が言っていたように(第4回参照)、思考を深めるために対立する意見を戦わせることが効果的な場面もあるのですが、子供同士だと感情的な対立につながることを恐れてうまく対話できない場合もあります。しかし、生成AIの意見を対象に議論をするならば、そういった感情対立が起こらないため、子供たちも安心して議論することができるわけです。
それから、本校では英語の授業で生成AIが活用される場面も多くあります。例えば、英語の発音や英文の完成度合いをパーセンテージで判定してくれるアプリがあるのですが、特に一部の子は、自分の英文を人に見せたり、発音を人に聞いてもらったりするのが苦手なものです。そうした情報活用のリテラシーができていれば、あまり不安を感じることなく活用することができると思います。もちろんそのためには、小さいうちから系統的に学びながら慣れていくことが必要なのだと思います」
【資料2】子供が授業で活用する場合の適否
先生方の校務では、生成AIは使い勝手が良い
最後に今年度、同校に赴任した山田校長は、現在の同校での取組状況を俯瞰しつつ、新たに実践活用を考えている学校へのアドバイスもしてくれました。
「子供たちが生成AIを使っている様子を見ていると、身近な相談役と言いますか、対話できる相手という感じです。当然、まだ信頼性の問題もあって間違ったことも答えてきますが、ファクトチェックなども含め、子供たちが生成AIの概念を理解して使えるように先生方も指導をしています。
校務では、先生方にとって生成AIは非常に使い勝手が良いと思います。先日、避難訓練があったときに、私も子供たちに何を話すべきか生成AIに質問してみたら、意外に的確な回答(文章例)が、ちゃんと項目立てて返ってきました。中には『ああ、この観点は抜けていたな』と思うこともあったので、それを参考にしながら、話す内容を整理し直したのです。特に本校は義務教育学校で、1年生から9年生(中学3年生)まで学齢の幅がありますから、対象を考えながら話す内容を考えるための参考になります。
他の学校でも管理職なら、多様な学校行事のたびに子供たちの前で話をする機会があり、会議で先生方に話す機会もあるわけですから、そうした場で話す内容の確認や柱立てなどでの支援ツールとして活用してみたらよいと思います。私自身、校長という立場になると教員に対しても、子供たちに対しても話したいことはたくさんあるわけです。しかし、それをダラダラ話したのではしっかり話が入っていきません。やはり焦点化し、整理して話す必要があるわけですが、そういう点でも生成AIを活用すると参考になります。それは管理職に限ったことではなく、子供たちに対して話をする担任の教員も同様ですから、先生方もまずそんな場面で使ってみてもよいでしょう。
いずれにしても、使う教員の側に一定の考えがある上でなら、生成AIに校務を支援してもらったらよいと思います。ただプロンプトの入れ方次第で、出てくる回答が大きく変わってくる場合もあるので、プロンプト入力の訓練は少ししたほうがよいでしょう。その意味でも、これから導入を図る場合は校務のDX(デジタルトランスフォーメーション)をどんどん進めながら、まず先生方が生成AIの使い方に慣れていくことから始めるとよいと思います」
取材・文/矢ノ浦勝之