管理職は先生方が主体的に『使おう』と思えるようにすることが大事【実践のポイントを分かりやすく解説! 生成AI活用の授業づくり「まずはココから」#06】

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生成AI活用の授業づくり「まずはココから」
【実践のポイントを分かりやすく解説! 生成AI活用の授業づくり「まずはココから」#06】
管理職は先生方が主体的に『使おう』と思えるようにすることが大事

前々回前回と、茨城県つくば市立みどりの学園義務教育学校における、小学校、中学校段階それぞれでの生成AIを活用した授業実践の実例を紹介しました。今回は、そうした授業実践を通して見えてくる生成AI活用のためのポイントや、学校運営上のポイントなどについて中村めぐみ教頭にお話を伺いました。

子供たちに向けても「生成AIとの共存」に関するガイダンスを行う

多様な授業実践がなされている、みどりの学園義務教育学校ですが、生成AI活用上のいくつかのポイントについて、中村教頭は次のように話します。

「現在、本校では全教員が生成AIの活用意義を理解し、あらゆる教科等で活用してはいますが、もちろん必ずしも毎日、授業で活用しているわけではありません。あくまで生成AIを活用することが学びを深める上で効果的な場面で活用しているわけですから。

当然、活用する場合は、文部科学省のガイドラインにのっとっています。小学校の低学年ならば、先生が『AIに何て聞きたい?』と聞いた上で、子供たちの代わりにプロンプトを入力するとか、それ以上の学齢ならば、小学生なら小学生向けに作られた生成AIを活用する、13歳以上なら保護者の許諾を得た上で活用するなどということを徹底しています。

授業の様子1
授業の様子2
文部科学省のガイドラインに沿って、学齢に合った活用の仕方がなされている。

ちなみに、生成AIを活用する上で重要なプロンプトの入力については、それだけを取り立てて教職員向けの研修を行ったわけではありません。あくまで先生方自身が校務や授業の試験的活用を通して、どのように入力したら期待する回答が得られるかを身に付けてきています。その上で、授業で子供たちが活用する場合も、プロンプトが適切なものではないために求めていた答えが得られなかった場合、『じゃあ、どんなふうに詳しく聞いてみようか?』と投げかけながら、情報活用能力の一部として身に付けられるようにしているのです。

生成AIの導入に当たって、教員向けにMicrosoftによる研修を行ったことは前に説明しましたが、それと同時に子供たちに向けても、『生成AIとの共存』に関するガイダンスを行っています。そのときに非常におもしろかったのは、『AIとの共存はなぜ必要か?』というMicrosoft側からの問いに対して、子供たちから『AIは人間を退化させるものだと思っていた…』という意見が出たことです。これは、生成AIの活用に反対する大人が言いがちなことですよね。子供たちも最初はそう思っていたわけですが、ガイダンスを通して考えた上で先の言葉に続けて、『AIを動かすには、まず(プロンプトを入力する人の側に)知識(や思考)が必要だと分かった』と言っていました。

実際に生成AIを適切に働かせるには、自分の考えを的確に言語化することが必要だし、その言語も論理的に正しい語順であることが必要になります。子供たちは現在までの学習を通して、プロンプトのちょっとした表現の違いによって返ってくる答えが大きく変わることを如実に体感しており、そのために、より適切な語順で正しい日本語を使おうと意識していると思います。当然、問いたい内容を相手に正しく伝えるために、自分の考えを論理的に整理する力や、その考えを正しく伝えるための国語力も付いてきていると思いますが、当初のガイダンスを通してそのようなことにも気付いていたわけです。

さらに(前回紹介した)3年生の理科でもファクトチェックを行う過程がありましたが、これは生成AIを活用する上で重要なポイントです。このファクトチェックは、本校で作成している情報活用能力の体系表の中にきちんと位置付けてあり、適切に押さえるようにしています(資料参照)。

【資料】みどりの学園義務教育学校の情報教育体系

情報教育体系の知識・技能として、ファクトチェックなど、AIに関わるものもきちんと位置付けられている。

これについては非常におもしろい実践があって、2年生の算数の授業の中で、先生が『九九を生成AIに聞いてみよう』と投げかけたのです。そこで実際に尋ねてみると間違った答えが出たので、子供たちが『間違っているよ!』『AIはいつも正しいことを言うわけではないんだね』と言っていたそうです。実は事前に先生方が生成AIを活用して確認したときに、間違えることが分かった(内容があった)ため、意図的に仕掛けたわけです。このように、生成AIを活用する上でポイントの1つとなるファクトチェックについては、低学年から取り組むよう体系表でも整理をしています」

「実は本校には『生成AI反対派』だと宣言している先生がいます」

プロンプト入力やファクトチェックといった、生成AIを活用する上で押さえておかなければならないポイントなども含め、全教員で取り組んできた同校ですが、全教員が生成AIの活用を肯定しているわけではないと中村教頭は楽しげに話します。

中村教頭
中村めぐみ教頭

「実は本校には『生成AI反対派』だと宣言している先生がいます。その先生はありがたいことに、ただ反対を叫んでいるわけではなく、『生成AIには、人間に追い付けない部分がある。それを証明したいから』と言って、徹底して生成AIを活用しながら追究・探究してくれているのです。それによって、多様な実践がなされ、活用が適切な場面や不適切な場面もより明確に見えてくるので、本校全体にとって、とても意味のあることだと思っています。国が活用の必要性を説けば、『ああそうなのか』と思い、素直に活用してみようと思う人は少なくないと思います。しかし、そうではない立場から、クリティカルに実践を重ねるからこそ、より明確に見えてくることもあるわけです」

そのように考え方は異なるものの、全体として生成AIを活用するには、学校全体としての取組や取組を共有するためのシステムづくりも重要だと中村教頭は話します。

「現時点では、どのように活用するのがより良いか、文部科学省から具体的に示されているわけではありません。ですから、冒頭(同校実践1回目参照)でお話しした通り、学校のグランドデザインに明確に位置付け、共通理解を図った上で、とにかく個々の先生が自分なりの見方・考え方で活用実践を重ね、可能性を広げている段階です。

それによって各自が多様な活用実践を行うわけですが、それらを共有するためのメンター研修のグループを設けています。その少人数でのグループ研修の中で、『こんな活用をしたらこんな授業になったよ』とか『それによって子供たちがこう変容したよ』ということを共有しています。また、そのような実践については私も価値付けをしたり、付加価値を付けたりして、外部に向けても発信しており、それによって先生方も『自分たちの取組のこういう点が良かったのか』とか『こんな側面もあったのか』と捉えてくれています。さらに、発信したものを見直すことで自身の実践を相対的に捉えて、『この点はもう少し検討が必要だ』といったところも考えてくれているのはありがたいところです」

生成AIに限らず、このように学校全体で実践を深めていくためには、研修の実施や実践共有のためのシステムづくり、またそれらを共有し整理して、体系化を図ることの重要性が見えてきます。それと同時に、適切な管理職のリーダーシップも必要だと中村教頭は話します。

「学習において、先生にやらされるのではなく、子供自身が主体的に学習に取り組もうと思えることが大事ですが、それと同様に、先生方がICTや生成AIを活用することも、私たち管理職が先生方に『使いなさい』と言うのではなく、主体的に『使おう』と思えるようにすることが大事です。見ていただいた授業では、いずれも先生方は活用することの効果を自覚したからこそ、主体的に活用しているわけです。

ただし、そのような効果を自覚するためには、実際に使ってみることが必要ですから、最初は管理職が『まず全員使ってみましょう』と呼びかけることも必要でしょう。そのような、取組を始めるためのトリガーとなる管理職の姿勢も重要だと思います。本校の場合はそれが、グランドデザインに位置付けられるとともに、各教員に対し、校長が直接メールで伝えることだったということです」

最終回となる次回は、同校の実践を踏まえながら、子供たちに対しての生成AI活用が適する場面や適さない場面、また教師自身の活用を積極的に行ったほうがよい内容、さらに同校の山田聡校長の話などを紹介していきます。

取材・文/矢ノ浦勝之

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