【木村泰子の「学びは楽しい」#28】学級の荒れは担任の行動が引き起こす

連載
木村泰子の「学びは楽しい」【毎月22日更新】

大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子

子どもたちが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方について、木村泰子先生がアドバイスする連載の第28回目。今回は、前回(#27)木村先生が学習参観をしたある学級でのその後の子どもの様子を見ながら、学級が荒れる原因について考えていきます。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【毎月22日更新予定】

執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子

【木村泰子の「学びは楽しい」#28】学級の荒れは担任の行動が引き起こす イメージイラスト
イラスト/石川えりこ

ひと月前に感じた不安が的中……

「学級の荒れは担任の行動が引き起こす」。今月のテーマは非常に厳しい表現ですよね。(誰もが必死で頑張っているのに、何ということを言うの!)と思うでしょう。一生懸命やっているからこそ、みなさんで問い直しませんか。頑張っているのに結果が出ないことほど、むなしくなるものはありません。

前回(久しぶりに地域の学校の学習参観に行って感じたこと)の続きです。1か月前に感じた不安が、残念なことに的中してしまいました。

子どもが学校に行きたくないと言い出した。それも、担任が変わってからたったの1か月ほどで数人の子どもが学校に行かなくなってしまった。中でも支援学級に在籍している子どもは通常学級に入れなくなっただけではなく、怖がって家から出ようとしない。今まで優しかった友達が急に意地悪をするようになった。カバンの中に「しね」と書かれた紙きれを入れられて、誰が入れたか分からないで誰もが不安がっているなどです。

昨年度まではみんなで楽しく学校生活を送っていた学年の子どもたちなのに、担任が変わった途端、学級の雰囲気が一変するのはなぜなのでしょうか。

一例を挙げると、雲行きがおかしくなってきたきっかけは、終わりの会の指導です。帰る用意をして全員が背筋を伸ばして姿勢を正してキヲツケをするのが決まりだそうです。ここまでは(その目的は?)など疑問に思うところもありますが、ひとまずそこは置いておきましょう。その次です。できているグループから帰ることができるそうです。Aさんはその日は早く帰らなくてはいけなくて、誰よりも早く用意をして姿勢を正して立った。ところが、ほかのグループは帰れたのに、Aさんのグループだけ最後まで帰る許可が出なかった。グループの一人の子どもの背中が曲がっていたからという理由だそうです。Aさんは帰るなり母親に「もう、学校なんて行きたくない!」と言って泣いたそうです。

指導は一瞬で暴力に変わる

この事象から、批判ではなく、何が問題なのかを言語化しましょう。

・指導内容の問題

できているグループから帰ることを許可され、姿勢の悪い子(背中が伸びていない?)がグループにいるから、グループの連帯責任として、全員を帰らせない。そもそも体育の授業ではなく、一日の学校生活を終える時間です。この時間の目的は、「明日も楽しく会おうね」です。この時間に姿勢を正して起立をしなければならない指導は本末転倒です。

・この「指導」により、発生しうる問題

この「指導」は子どもの人権を侵害する行為であり、教員の体罰であることを認識する必要があります。終わりの会に背筋を伸ばして立たせることの目的は何なのでしょう。子どもを主語に問い直してみませんか? 子どもはなぜこの時間にキヲツケをするのか理解していますか? 早く帰りたいためにキヲツケをしているだけではないでしょうか。

以下の3点から問い直しましょう。

  1. 背筋を伸ばすことを強要する指導はすべての子どもができるものではなく(家庭環境の違い・身体の状態など)、集団の中で一斉に指導するその行為は子どもの人権を侵害するものです。決してしてはならないものです。
  2. グループの連帯責任を強要する指導は子ども同士を分断し、教員の目の届かないところでいじめ事象につながる事実を想定していないものです。このような指導が結果としていじめの事象につながってしまっています。
  3. 下校時刻に下校をさせずに子どもの行動を束縛する「指導」は体罰にあたることを教員として自覚しなければならないでしょう。指導という名のもとに子どもの行動を制限していることに気付かなくてはなりません。

子どもを信じましょう

教員が力を発揮して子どもを従わせる関係性をもちたいでしょうか。教員の言うことを聞かせて、教員の権力を発揮して、教員の指示通り行動させることが教員の指導力でしょうか。もう、こんな時代は終わりました。「自殺・不登校・いじめ」過去最多の子どもの事実を突きつけられています。だからこそ、教員の指導力が学校教育の主語であった時代から、子どもを主語にした学校をつくることが不可欠なのです。子どもたちが一斉にそろって、座る・立つ・礼をするような、見える姿が求められているのではありません。

今回のような教員の指示号令に従わせる指導を捨てて、目の前の子どもを信じませんか。

〇自分の行っている指導が、子どもの人権を侵害していないか、いじめにつながる指導になっていないか、体罰にあたるものではないか、指導の目的は何かを考え、子どもを主語に問い直そう。
〇教員が権力を振りかざし、子どもを従わせる時代は終わった。指示号令に従わせる指導を捨てて、目の前の子どもを信じよう。

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木村泰子先生

きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。

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