タブレット時代の理科観察記録は写真だけでOK⁉️ 絵は描かなくてもいいの? 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#44

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
進め! 理科道(ロード)
〜よい理科指導のために〜

理科の授業において、植物の成長などの観察記録は、定期的に紙に描いて記録する、ということが多かったのではないかと思います。そこには日付や天気、気温などと調べている植物などの成長の特徴、気づきを書き込んでいました。
最近はタブレットが学校に導入されたことにより、絵を手書きして記録する方法に代わり、写真で記録する方法も、当たり前のように選択できるようになりました。しかし、本当にすべてを写真に置き換え、絵で描くことをやめてもいいのでしょうか?

執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.写真で観察記録をするのは “記録を早く、正しく残す” ため

写真と手描きでは断トツに写真の方が正しく情報量があります。よく見て絵で描いて記録したとしても、写真にはかないません。絵を描く際には、観察者が描くべき情報を選択するため、選択しなかった情報は記録されないからです。また、記録者の観察力の高さや、絵を描く力量にも影響されているとも言えるでしょう。

このように、「情報を記録する」という点においては、写真で記録する方がよさそうです。
写真で記録するメリットを挙げると、以下のようなものが挙げられます。

早く記録ができる(絵を描いていると時間がかかる)
何枚でも記録ができる
自分の端末に記録が残るので、後からでもすぐに調べられる(振り返られる)
自分が記録したい情報以外の情報も記録に残っているので、後から別の視点で見直すことができる

このことから、写真で観察記録をするのは “記録を早く、正しく残す” ためであるといえるでしょう。

2.観察記録を絵で描くのは “観察する力をつける” ため

写真で記録するメリットを見ると、絵で描く必要がなくなるのではないか? と感じるかもしれませんね。いやいや、そうではありません。観察記録を絵で描くことにも大きなメリットはあります。それは、“観察する力をつける” ためです。

絵を描いて記録する場合、対象をよく見ないと描けません。理科は「自然事象をしっかり見る教科」です。子どもたちに “見る力” をつけさせる1つの方法として、絵で観察記録をする時間をつくりたいものです。

最初は、子どもたちは「しっかり見たつもり」になって絵を描くと思います。例えば、メダカの卵の様子を記録するとしましょう。卵にはいくつかの泡があったり、卵の周りに毛みたいなものがついていたりします。子どもたちは、泡があることや毛があることは認識しても、絵を描く際になるとそこに無いのに適当に泡を描いたり毛を描いたりしてしまいます。

見る力をつけるには、ここで「自分が適当に見ていたということに気づくようにする」ことが大切です。先ほどの卵の記録のように実際には適当に描かれているものをみて、先生が「この毛はこの数なの?」「泡の数や大きさは合っているの?」など聞いてみます。すると「しまった、しっかり見ずに描いたかも」と気づくのです。ここで初めて「しっかり見る」という気持ちが働き、記録するための眼が養われると思います。

このように考えると、観察記録を通して「見る力を養う」ことを重点に置いているといえますが、しっかり見ていないことに気づかせ、さらにその力を高めることもできます。

3.観察記録の目的の違いで「写真で記録する」か「絵で描く」か選択しよう

ここまでのそれぞれのメリットを考えると。「写真か手描きか」という二項対立ではなく、それぞれのメリットを活かし、目的をもって使い分けるというものであるといえますね。便利な時代になり、「早く正しければ写真だけでいいのではないか」と考えやすくなりますが、そもそも理科の授業で子どもたちの何の力を育成したいのかが第一に来なければなりません。

写真で記録をしてたくさんの情報を扱うならば、記録した写真を整理し解釈する場面で子どもたちの力を育成すると思われます。一方の手描きの記録では、記録を通して子どもたちの自然事象をみる力を育成しているのです。

メダカのたまごの観察をする子供

イラスト/難波孝

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寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。

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