終わりのない探究が続いていくのが、生成AIを活用した授業【実践のポイントを分かりやすく解説! 生成AI活用の授業づくり「まずはココから」#04】
前回は、茨城県つくば市立みどりの学園義務教育学校で生成AIの活用が開始された経緯や、その中でどのような実践が重ねられてきたかを紹介しました。当初、取材日に生成AIを活用した授業は予定がなかったため、後日、授業取材(小学校の実践を中心)に再訪する予定でした。しかし、たまたま7年生(中学1年生)の国語の単元『詩の心 発見の喜び』で、生成AIを活用する授業を行うとのことで、急遽取材をさせていただくことができました。そこで今回は、この7年生の国語の授業を紹介していきます。
目次
AIウィー子ちゃんに質問を入力
国語の富田直道教諭は、授業冒頭、子供たちに次のように話します。
「今日は、『詩の心 発見の喜び』の2時間目です。(前時に確認、共有した)単元計画にのっとって、まずは個別の学習をしっかりした上で、自分たちの考えを共有したり、そこから新たな発見をしたりしていくように学習を進めていってください。まずは単元計画をもう1度読み直して、始めてください」
すでに1時間目に単元計画(資料1参照)を送信され、学級全体で確認している子供たちは、富田教諭の指示に沿って手元の資料を再確認した上で、学習を進めていきます。
【資料1】 富田教諭が生徒に示した単元計画(評価対象、評価基準、学習プロセス)
⚫︎評価するもの
PowerPointかWordによるレポートの提出
1 詩の著者(3人)の思い(この詩は何を表現しようとしているのか。伝えたいメッセージは何か。タイトルに込められた意味など)。
2 著者(嶋岡晨さん)の伝えたいことのまとめ。
3 「人間の作る詩の良さ」とは何かについてのまとめ。
以上の3つの構成でまとめること。
⚫︎評価基準
B 人が作る詩の良さを3つの詩の良さを踏まえて説明している。
A Bの評価に加えて、AIの作った詩などと比較して人が作る詩の良さを理解し、説明できる。
⚫︎学習のプロセス(手順・流れ)
① 本文の詩の解説を踏まえて詩の著者の思いを根拠をもって想像し、まとめる(この詩は何を表現しようとしているのか。伝えたい内容は何か。その他、タイトルに込められた意味など)。
② 本文のまとめを参考に、この文章で伝えたいことをまとめる(学習のチェックポイント)。
③ 「人が作る詩の良さ」とは何かという問いに対する自分なりの答えを見付け出す(本文の内容の最後の1文や詩の意味も踏まえて考えるとなお良い)。
さらに富田教諭は、子供たちからの質問を受け、1人で黙々と調べたり考えたりして追究するだけでなく、友達同士で机を並ベて対話したり、学習過程で離席して友達の意見を聞いたりするなども、適宜行ってよいと説明。子供たちは早速、1人でノートパソコンを開いて調べものを始めたり、友達同士で机を並べたりしながら学習を進めていきます。
個別学習開始から数分経ったところで、子供たちの学習状況を見ながら、次のように声をかける富田教諭。
「生成AI(Microsoft Copilot)を使いたい場合は、私に声をかけてください。皆さんの質問を入力していきます。また、みなさんが使えるAIの、AIウィー子ちゃん(ChatGPTを活用し、小学生向けカリキュラムに基づいて作られたAI)を使ってもいいですよ。まずは①と②を進めていってください」
そう話しながら、事前に生成AIに作らせておいた『虫』という教材と同じタイトルの詩を見せる富田教諭。ちなみに子供たちに対し、1時間目に生成AIに詩を作らせてみることもやってみてよいと話しているそうで、そうした生成AI作成の詩と教材の作品とを比べながら考えている子供も見られます。
7年生になったばかりの子供でも活用できるAIウィー子ちゃんに、質問を入力していた子供の1人に話を聞くと、次のように説明してくれました。
「この詩を読み込ませて、ウィー子ちゃんはどう思うのかを聞いてみて、自分が思ったことと、ウィー子ちゃんが思っていたことがどれくらい違うのか、どこが違うのを確認し、そこから考えていこうと思っています」
また、別の子供は詩の作者である三好達治の一般的な作品傾向について生成AIを使って調べていました。その活用意図について、その子供は次のように説明してくれました。
「この詩(『土』)は様子を表しているけれど、三好達治さんの詩は自然や人間の心情を書いていることが多いというから、そういう視点から(改めて『土』の詩を)読み直してみます」
そうした学習過程では、プロンプトの入力が不十分で「『虫』という詩は誰の詩のことですか?」と問い返されたり、ちょっとしたプロンプトの文章の違いで、回答に違いが生じたりすることも体験しています。そうした過程を体験しながら、生成AIをどう活用することがより有効なのかも、試行錯誤を経て体得している様子が見て取れます。
生成AIも学習仲間の1人というイメージ
子供たちが適宜、生成AIを活用している様子を見ながら、富田教諭は次のように説明します。
「生成AIから視点をもらって、読んでいく上での糸口にするのも1つの方法だし、自分なりの解釈がある上で生成AIの回答とのズレがあって、『あれっ? 自分が思っていたのとは違うぞ』というところから追究がさらに深まっていく場合もあるでしょう。生成AIも学習仲間の1人というイメージです。生成AI自体が人の知識の集合体という側面がありますからね。もちろん、生成AIが示してくれる知識はあくまで一般的な知識ではありますが、AIを設計した人の偏り(クセや考え方)が反映される場合もあるでしょう。そうした側面から考えても、学習仲間の1人と考えて使うことはできるのだと思います」
学習時間が中盤に差しかかってきたところで、学習プロセス②のチェックポイントまで進んだら自分に声をかけるように、と話す富田教諭。少しして、1人の子が自分なりのまとめを携えて「チェックポイントまで来ました」と富田教諭に声をかけ、対話しています。
富田教諭「あなたは、雲に対してこんなふうに言う?」
子供「言わない」
富田教諭「じゃあ、どんな感情があるからこんなふうに言うんだと思う?」
子供「雲を見て、雲はそのときによって色や形が変わったりするから、どういう違いがあるんだろうと…そこに思いを込めて…」
富田教諭「なるほど、なるほど。例えば、そういうところを加えてあげるとよいと思うよ」
また『虫』の詩に対するまとめを読んで、このように対話しています。
富田教諭「ここで鳴いている虫は何をイメージする?」
子供「スズムシかな」
富田教諭「虫が、スズムシが鳴いています。それを聞いてあなたは、『はぁ…』って涙を?」
子供「ならない」
富田教諭「ってことは、そこにはこの作者の何がある?」
このように、子供が読み取ってまとめた意見に対して問いを投げかけながら、より深く読み取っていくためのヒントを与えていく富田教諭。さらに机間を回って子供たちに声をかけたり、子供たちから声をかけられて読みを深めていくための対話をしたりしていきます。
そのように個別あるいは共同で追究を進めていき、残り5分を切ったところで、ふり返りを書かせ、次時の学習について簡単に説明をして授業を終えました。
AIに批判されたり、AIを批判したりするのはやりやすい
授業後、富田教諭は、まずこの単元づくりの意図や、その中における生成AIの活用について、次のように説明します。
「これまでの授業は、教師が先導・誘導することが多かったと思います。しかし、これからの大学入試を考えると、『自分たちで問題を発見し、解決を図る学習』が求められるわけです。しかし、いきなりそこまでいくのはむずかしいので、まずは与えられた題材や課題に対して、子供自身が多様なアプローチをかけて解決していくことから始めているところです。実際にこの単元も、単元計画を私が作成して、3時間の中で何をやってほしいかや評価の対象、評価基準も示しており、それを踏まえながら各自が考えて学習を進めるようにしています。
学習のプロセスで言えば、①と②は既存の学習に近いもので、正解らしい正解が出るものだと思います。『この詩を通して筆者の伝えたいことは何か? 何文字以内でまとめよ』というのは、既存のテスト問題にもありそうな問題ですよね。しかし、③のような『人が作る詩の良さ』を問う問題には正解はなく、生成AIの活用で中心になるのは、学習のプロセス③のところだと思います。
そのため、子供たちには『生成AIに詩を作らせてみてもいいよ』と言ってありますし、実際に作らせていた子供も複数いました。私も事前に教材の詩と同じ『虫』や『土』などのタイトルで詩を作らせており、本時はそれを示したわけで、これを参考にしてもらってもよいし、自分で作らせて比較しながら考えていってもよいわけです。
実際に生成AIに詩を作らせてみると表面的、あるいは一般的なイメージで詩を作ります。例えば、『虫』というタイトルで詩を作らせると8割、9割といった高い割合で、『虫』の強さや生命力が詩で表現されてくると思います。しかし、八木重吉さんの詩は死を意識した詩になっています。そこには、作者の体験や感動があるわけで、それは絶対に生成AIにはできないことです。そこに気付いてほしいと思い、プロセス③を設定しているのです。
ちなみに事前に行った他学級の授業では、生成AIに作らせた詩と比較しながら、『事実しか書かないよね』『人らしい部分がない』と気付いたり、『(教材の作品には)感情のある人間だからこそできる表現の良さがある。そこが人の良さなのかな』と言ったりする子供たちがいました。あるいは、そこまで言語化できなくても、『生成AIの詩も表現の一つなんだけど、何か(人の詩と)違うんだよな』『それはどこが違うんだろう』と、新たな追究が始まり、探究になっていくような場合もあると思います。そのような学びが深まってきているところです。
なお次の学習では詩を作る内容になっていくので、そこでは子供たちが作った詩を生成AIに評価させようと思っています。この単元の授業では、共に学ぶ学習者という視点で生成AIを活用したわけですが、次は対立する立場にするわけです。人同士、子供同士の批判はやりづらい面もありますが、AIに批判されたり、AIを批判したりするのならば、やりやすいでしょう。実際に本校では、そのような観点で授業づくりをしている先生もいますし、私も次はそのように活用してみる予定です」
「正直言って、授業をつくることは怖い」
最後に、富田教諭は生成AIのようなものを活用する授業づくりについて、次のように話してくれました。
「これまでの学習は、何か新たな知識を得て、それを活用して終了という側面が強かったと思います。しかし、このように終わりのない探究が続いていくのが、ICTや生成AIなどを活用した授業の特徴の一つと言えるのかもしれません。そのように終わりのない探究が続く学びは、私たち教師にとっても怖いと感じることもあります。既存の授業のように絶対的な知識を教えて活用させれば終わり、という事前に明確なゴールがあるわけではなく、ゴールがどんどん先へ、深い場所へ行くわけですからね。ただ、そうした学びをつくることが必要だと考え、今日のような授業を工夫しているのです。
もちろん、私が現在やっている授業も絶対の正解ではないし、他にも多様なアプローチの仕方があると思います。例えば、現時点で私から出している問いも、最終的には子供たちの中から生まれてくるようにしなければならないと思っています。ただし、学習指導要領に示されている内容や付けたい力があるわけで、その内容に気付いて理解できるようにし、力を育むことはしなければなりません。そこをどう押さえながら子供たち主体の授業をデザインしていくのか、ということは非常にむずかしいところです。
正直言って、授業をつくることは怖いと感じることもあります。私たち教師の中には、こんな姿を見たい、ここに行き着いてほしいということがあります。しかし教師が導くのではなく、アドバイスの中で、子供たち自身に行き着いてほしいわけです。そのために授業を工夫するわけですが、全員がB評価に到達するようにするのはむずかしいことです。それについては私自身の力不足もあると思いますが、まだまだ授業づくりを考えていかなければならないと思っています。
ここまで話したことは必ずしも生成AIの活用と直結するわけではありません。しかし、ICTなどがあるからこそ生まれてきた変化でもあると思いますし、その活用も含めて今後、さらに工夫し続けていかなければならないと思っています。今日実践したり、お話ししたりしたことは活用例の一部であり、今後はまだまだ私たちが思いも寄らないような活用方法が出てくるのではないかと思っています」
取材・文/矢ノ浦勝之