運動会の号砲を怖がる子どもへの対応|6月【特別支援学級の学級経営】

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兵庫県公立小学校校長

関田聖和

特別支援の知識や経験が乏しいまま、手探りで特別支援学級を担任している先生も多くいるのではないでしょうか。この記事では特別支援学級の学級経営について、日々の学級内でよくあるケースを挙げて、その道の専門家がポイント解説をします。今回は、運動会の練習時に留意しておきたいことについてのお話です。

構成・執筆/兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザー 関田聖和

登場人物

皆川先生:自閉情緒クラス担当。教師生活25年ベテラン。特別支援学級主任・特別支援教育コーディネーター

島原先生:知的クラス1担当。教師8年目。特別支援学級担任1年目

根本先生:知的クラス2担当。教師3年目。特別支援学級担任2年目

しゅんたさん:皆川先生担当。独特な自分の世界をもっていて、彼なりのルールがある。他人とは打ち解けるまでにかなり時間がかかる。粘土や工作などは緻密で動物などは本物そっくり、大人顔負けの作品を作りあげる。
長期目標:同じクラスの友だちといっしょに作品作りをすることができる 
短期目標1:大人といっしょに作品作りをすることができる

るなさん:島原先生担当。よく動く。出し抜けにしゃべる。思いついたことをすぐに伝えてしまう。言わないでいいことまで言ってしまうことがある。発想が豊か。次から次へと案が浮かぶ。
長期目標:会話のキャッチボールを楽しむことができる 
短期目標1:先生としりとりなどの遊びに取り組むことができる

ゆうかさん:根本先生担当。不注意。衝動性が高い。よく忘れてしまう。様々なことが気になってしまい、失敗することが多い。いろいろなことに気が付いてくれるので、友だちが忘れていたことを思い出してくれるようなことがある。
長期目標:タブレットで記録を取ることができる 
短期目標1:タブレットで必要な事柄を写真に撮ることができる

運動会練習の直前でのワンシーン

(根本先生)
運動会の連日練習で私もくたくた……。ゆうかさん、なかなかダンスを覚えられないなぁ。

(島原先生)
るなさんは、綱引きがダメで……。練習なのに、負けてしまうとものすごく怒るんです。あれ? しゅんたさん、泣いてますね。どうしたんだろう。

次の時間は運動会練習の学習なのですが、

(しゅんた)
行きたくない! 絶対。耳がきんきんする。先生がぼくをねらってるんだ。

と、しゅんたさんが泣いています。そこへ皆川先生が、イヤーマフを持ってきました。

(皆川先生)
しゅんたさんは聴覚に過敏さがあるの。大きな音や突然の音が苦手で、エアコンの音や点いている電気からも音が聞こえているらしいの。

イヤーマフを島原先生と根本先生に見せながら、続けて話をしました。

(皆川先生)
イヤーマフをつけて活動ができる場合は、これを使っているの。でもね、重要な音や言葉がけを聞き逃してしまうこともあるので、私が合図をするようにしているのよ。号砲を使うときには、「今から、パンって鳴るよ。先生は、空に向かって鳴らしてるよ」って伝えているの。
また、バトンパスの合図は、顔を見て受け取ることを私がジェスチャーで伝えているのよ。でも、あの号砲のピストルそのものを怖がっているので、見えないように私が立っているの。

【POINT1】子どもたちの感覚の過敏さや鈍麻さを知っておく

子どもたちの観察や保護者との話から、感覚の過敏さなどを知っておきましょう。聴覚は代表的な例ですが、視覚・触覚・嗅覚・味覚、そして聴覚。それぞれの刺激を受け取るときに脳が過剰に反応したり、または反応しなかったりで日常生活に支障が出るレベルになると、感覚過敏・感覚鈍麻と呼ばれ、支援が必要になってきます。

【視覚】
・光が気になる
・少しの明かりでもまぶしく感じる
触覚
・洋服のタグが気になる
・服の着心地が気になる
・軽く触っただけでも痛がる
・歯磨きや髪を整えることを嫌がる
・血が出ている怪我なのに痛みをあまり感じない
・熱湯に触れているのに、やけどになるまで気づかない
・あざができるほどぶつけているのに痛がらない
【嗅覚】
・乗り物や香水、様々なにおいが混じるような場所が苦手
・特定のにおいが苦手
・石鹸や芳香剤など、いいにおいと言われるものでも、そうではないことが多い
【味覚】
・特定の味や食感が受け入れられない
【聴覚】
・大きな音が苦手
・突然鳴るような音が苦手
・蛍光灯、時計、冷蔵庫やエアコンなどの小さな生活音が気になり集中できない
・イヤーマフなどを使用した場合、そのために重要な音や声を聴き逃してしまう

などがあります。これらの基本的な支援の方針は、「無理強いしない」ことがベースになります。今回の号砲も、考え直してもいいかもしれません。号砲のために、競技用ピストルを使わないといけないのかどうかということです。

個人的にはホイッスルでもいいように感じます。サッカーやラグビーなどで使うような競技用のホイッスルは、大きな音になるので代替としていいなとは思いますが、子どもによっては大きな音となってしまうので注意が必要です。

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運動会で使う号砲は……?

【POINT2】学年の先生方と競技のルールを確認し、保護者と合意形成をしておく

(皆川先生)
リレーも学年の先生がルールを工夫してくださって、しゅんたさんはみんなと同じルールで走ることになったの。チームの中で2種類のコースがあって、しゅんたさんは短いコースを走ることでOKになったの。
隣のチームは、50m走6秒台のお友だちと同じ順番で走るのだけど、各チームの平均タイムは同じなので、どちらが勝つかわからないので楽しみになったわ。しゅんたさんのお母さんもとっても喜んでくれているの。

私が30歳のとき、電動車いすを使っていた子どもと出会いました。運動会でのリレーのルールを考えているときに、その子から「私もいっしょに走りたい」と言われました。どれぐらいの距離ならば、みんなと大差なく走ることができるのかを考えました。

その子に何度か走ってもらって、いっしょにタイムを計り、競技トラックのカーブラインの内側にワープコースを設定しました。そしてチームの中で事前に決めた2人が、特別にそのコースを走ることができるというルールで実施しました。保護者からは「うちの子がリレーに出られるなんて」と喜ばれていたことを覚えています。

時代はインクルーシブ教育です。特別支援学級の子どもだけが特別なルールではなく、ルールを少し工夫すれば、みんなと同じように取り組むことができます。これらの手立ては、特別支援学校が知恵を絞っていろいろ実践しています。

【POINT3】運動会支援でもICTツールを生かす

(根本先生)
ゆうかさんはダンスをなかなか覚えられなくて……。練習中の様子の動画をタブレットに保存したんですが、左右反対に覚えちゃうんです。

(島原先生)
それなら、GIGAタブレットに入っているVLCメディアプレーヤーでその動画を再生すると、左右反転させて再生できますよ。

(根本先生)
そうなんですか!? ではそれで試してみます。一から作り直さないといけないと思ってたので、助かりました!

GIGAスクール構想で子どもたちには端末が個々に配付されています。自治体によってインストールされているOSやアプリは違いますが、ここでは有名なフリーソフト「VLCメディアプレーヤー」で左右反転して再生する方法を紹介します。ほかにもいろいろありますので、ぜひお試しください。

VLCメディアプレーヤーで左右反転して再生する方法

【POINT4】負けたときにはどうするのかまで考えておく

(根本先生)
そういえば、るなさんの綱引きの件は大丈夫?

(島原先生)
綱引きを全力で引いていて、るなさん頑張ってるんです。でも、引っ張られて負ける感じが綱からじわじわと伝わってくるようで……。負けるとものすごく怒ってしまうのです。どうしましょう……。

(皆川先生)
そうですね。綱を引っ張られているとそう感じてしまいますね。今まで気づかなかったわ。うまく折り合いをつけられるといいのだけど……。勝ったときは自然にみんなで喜べるけれど、負けたときは拍手をすると決めておくとか。様子を見て、これから考えないといけませんね。

「勝負は時の運」ですが、負けたときにはどうするのかということを決めて、その練習をしておくことも必要です。このことについては、特別支援学級だけではなく、通常の学級の体育で取り組むゲームでも同じことがいえます。勝敗の結果が決まった後でも、最後まで競技が続いているという気持ちで取り組むことが大切であると、子どもたちへ伝えましょう。

(皆川先生)
今日は、毎時間運動場で練習ですね。私たちが熱中症にならないようにしましょうね。

(島原先生)
はい。帽子とタオル、水筒は必須ですね。

特別支援学級の子どもが多いクラスだったり、全学年の支援児がいるようなクラスだったりすると、運動会の練習シーズンは担任がずっと運動場に出ているということもあります。熱中症など身体の不調を防ぐためにも、支援体制を組んだり、可能ならば支援員を配置してもらったりするなど、管理職へ事情を話して対策をしてもらうことも大切です。


いかがでしたか? 競技ルールの工夫やICTツールの活用などで、子どもや教師の負担感がグンと減らせそうですね。子どもたちの特性を理解し、細やかなケアで運動会の成功へ導きましょう。

イラスト/terumi

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