今どきの子供心をつかむ!小学3~4年へのカウンセリング術

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昨今、学校教育においても、子供の人格形成やさまざまな問題解決に有効なカウンセリング心理学に基づいたアプローチが注目されています。問題を抱えている子供と関わり、子供自身の問題解決力を引き出すカウンセリング術を紹介します。

原田眞理

玉川大学教育学部教授・原田眞理

原田眞理(はらだまり)●玉川大学教育学部教授。保健学博士、公認心理師、臨床心理士。日本精神分析学会認定心理療法士。『子どものこころ、大人のこころ 先生や保護者が判断を誤らないための手引書』(ナカニシヤ出版)など著書多数。

子供の問題行動にはアプローチのタイミングと日々の声かけが重要

そのサイン受け取ったよ!

私は精神科・心療内科において約30年臨床をし、さらにスクールカウンセラーとして学校現場で、いじめや不登校に悩む親子や先生方と接してきました。その中で感じたことは、小学校の先生との出会いは子供にとって、非常に大きな意味をもつということです。

目に見えない心のサインにいかに大人が早く気が付くか、理解しようとするか、そしてどう対応するのかが、子供の心に大きな影響を与えるからです。

心は目に見えませんが、子供はさまざまな形でサインを送ってきます。先生方も常に少しでも早く子供の心の変化に気付こうと心がけていると思います。しかし、早期解決を意識しすぎるがために、サインを見付けた後の対応を間違えてしまうことがあるように思います。

例えば、先生方は問題行動があると、すぐに声をかけ、話を聴こうとしがちです。しかし、子供は今は話したくない、もしくは話す準備ができていないことも多いのです。話を聴く側も、なんの準備もしていなければ、的外れな質問をしてしまうことが多くなるでしょう。

まずは「おはよう」などと普段通りの声かけをしながら、その子のことを注意深くよく観察してみることをおすすめします。さらに、調査票を見る、交友関係や家庭のことを確認するなど、迅速に情報収集します。

そして、ある程度自分の中で「この子の問題は、こういうことなのかな」と予測が立った時点で、具体的な面接をします。そのほうが、的外れな対応をせずに済み、カウンセリングの効果が上がるのです。

日頃の関わり方もポイントです。三・四年生は、心が大きく揺れ動いている時期。だからこそ自己評価と自己肯定感を高めることがとても重要です。「自己肯定感を高める」と言うと、子供をほめようと考えがちですが、実は「Aさん、おはよう」などと何気ない言葉がけをするだけでもよいのです。

心の中がモヤモヤしている時や「いじめられているから学校に行くのが嫌だな」と思っている時に、先生から「おはよう」と何気なく声をかけてもらうと、「先生に話してみようかな」と心が動き、話し出せるということがよくあるようです。

大事なことは、毎日その子の存在を認め、「先生は叱ろうとしているのではなく、自分を見ていてくれているんだ」と感じさせることです。

【関連記事】子どもへの声掛けの仕方について具体的に知りたい方はこちらもチェック!→「泣く」「怒る」「騒ぐ」ネガティブな感情表現をする子どもへの対応とは

心の成長を促すために発達促進的関わりを増やす

もう一つ大事なのは、「発達促進的な関わり」をすること。本人のもっている力を伸ばすということです。困難があった時、先生が解決してあげても、本人ができるようにならなければ、心の問題にとっては意味がありません。本人がどのようにその困難を乗り越えていくのかということが、その子の成長につながるのです。

例えば「下の子が生まれてからちょっと不安そうなので、保護者にスキンシップを取るようお願いしよう」という支援は、心理療法的に言うと、「環境調整」です。一時的にスキンシップを増やしても、両親が下の子をかわいがると、また問題が起きてしまいます。なぜならその子の心が成長していないからです。心を成長させるためには、「自分で解決できた」という実感をもたせることが重要です。

心理療法では、「妹ができてから、お父さんやお母さんが取られちゃった気がするのかな?」「どんな気持ち?」「『妹が憎たらしい』とか言いたいけれど、言っちゃいけないと思っているんだね」などと問いかけ、気持ちを言語化していきます。

その中で、本人が自分の気持ちの変化を実感し、取るべき行動を選択していくのが、発達促進的関わりで、効果的な解決法なのです。

子どもの話を聴こうとしている先生

いじめ対応は双方からじっくり話を聴くこと

いじめについても、原因を追究し、謝罪をさせるといった、表面上の解決を急いでも根本的な解決にはなりません。

被害者の子供に寄り添い、話を傾聴し、「私はあなたの見方である」という姿勢を見せて、安心感をもってもらえるような存在になることが必要です。

さらに、被害者の了承を得たら、周囲から情報を集めるなど、本人からの密告だと思わせない配慮をしながら、早急に加害者からもじっくり話を聴き、その後も継続的に理解指導していくことが重要です。

当然、担任の先生が一人で対応するのは無理があります。一人で抱え込まず、複数の教員やスクールカウンセラーなどチームで対応していく必要があります。

子供の心を理解する三つのポイント

先生が子供の心を理解するポイントとしては、①学校内、②家庭、③本人の問題の三つの視点で見ていくことが大事だと思います。

①学校内での視点

これは、子供たちの発達課題を理解することが役立ちます。三・四年生の特徴として、心身ともに大きな変化が始まることが挙げられます。

特に女の子の成長は速く、グループ化が始まります。低学年までは、男女一緒に遊んでいたのが、次第に女の子同士で遊ぶようになるのです。これは「母親との分離」という発達段階の成長です。それまでなんでも母親に話していたのが、友達と話すようになり、エネルギーが次第に友達にシフトしていきます。

しかし、グループができることで問題も増えていきます。分かりやすい例は、「仲間外れ」。しかしこの段階での仲間外れは、悪気があるのではなく、「自分たちがこのグループの所属員だ」ということを確認・主張したいことがほとんどです。ですから、「仲間外れはいじめだからダメだ」などと、いきなり叱ってしまうのはよい指導とは言えません。

まずは子供の「私はこのグループの一員だ」という所属の喜びを認めることが必要です。

「とても素敵なグループができていて、交換日記なんかも楽しいのはすごく分かるよ。それも大事にしてほしいんだけど、仲間外れにされた人のことも考えてほしいんだよね。どう思ったと思う?」と、子供の気持ちを認める、それから他者を考えさせるという、二段構えで指導することが重要です。

②家庭への視点

いじめが起きた時、例えば、夫婦が不和なために落ち着かない心理状態になっている加害児童に対し、先生が「いじめちゃダメでしょ。人を傷つけていることに気付かないの?」などと一義的な指導をしてしまうと、その子は自分の過ちを省みず、さらに「先生は分かってくれない」という思いを引きずりながら、大人を信用せずに育ってしまいます。

改善策としては、「いじめがダメと分かってるのにやっちゃうのは、何かあるんじゃないかなと思って…」など、「君を理解したいから話を聴いているんだよ」ということを前面に押し出しながら話し、「本人が自分のことを話したい」と思える環境と関係をつくることが大事です。「お父さんとお母さんが、お家で喧嘩ばっかりしていて、嫌なんだ」などと気持ちを吐露してくれたら、その子の相談に入るチャンス。それ自体が発達促進的な関わりとなってくるでしょう。

③本人の問題への視点

中学年は、第二次性徴が始まります。周囲の子よりも身体の成長が速い子は、自分の身体の変化が嫌で登校渋りになることも多いのです。

また、性的虐待に関する知識や配慮も必要。授業で、「体のしくみ」について話した直後に様子がおかしくなる子がいたら、性的虐待の可能性があります。学校で得た知識によって、今まで自分がされていたことの意味を知ってしまい、動揺してしまうこともあります。それも心のサインです。具体的な知識によって、心が傷つくという二次的な心の被害にあっている可能性にも目を向けておきましょう。

不登校は情報収集してからアプローチを!

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「問題行動」「いじめ」「お腹が痛い」…子供の言動すべてがサイン

三・四年生は心身が揺れ始める時期です。子供の言動すべてが子供からのサインだと考えていただきたいです。問題行動、いじめもサイン。何も問題がない子は、問題がないことがサインです。子供のサインを早期発見するポイントは、「決めつけない」こと。

例えば、「忘れ物が多い」とは、どのようなサインでしょうか。まだ時間割を揃えることなどが身に付いていないために、忘れ物をすることもあります。しかし、保護者が忙しくてサポートできない、ネグレクト、発達障害などの可能性も考えられます。もしそうであれば、「もっとしっかり用意をしなさい」「忘れ物はいけません」という指導は、「忘れ物」という子供の出したサインの表面的な現象しか見ておらず、無理解な声かけと言えるでしょう。サインに気付いたら、その行動の意味を考え、情報収集し、そして話を聴くことです。自ずとなぜサインが発信されたのかが見えてくるはずです。

三・四年生は言語発達が未発達な子供もいるので、身体的なサインも多いでしょう。例えば「腹痛」というサインはすごく多いかと思います。

「腹痛」は多くの場合はストレスが原因なので、よく観察して、その子にアプローチする前に、どういう時に腹痛が増えるか、担任や養護教諭がそのパターンを見いだしてあげるとよいと思います。原因が分かったら、なるべくそういう状況をつくらないように環境調整を行います。

腹痛の症状が少なくなったら、「最近はお腹が痛いことが少なくなってよかったね」「何かよい方法あったの?」と本人にふり返らせるとよいでしょう。本人が自分なりの解決策を見付けていたら、「その方法はいいかもしれないね。またお腹が痛くなった時に試すといいね」と言って発達促進的関わりを試みます。

子供からのサインを受け取って!

なるべく早くサインに気付く。サインに気付いたら、なぜそのサインが出てきたのか考え、背景に対する対応もセットで行う。そうしたきめ細かなカウンセリングをするためにも、先生方のメンタルヘルスも大切。自分一人で抱え込まず、チームで対応し、自分が健康であることを大事にしていただきたいです。

中学年のカウンセリングのポイント

□ サインに気付いたら、迅速によく観察し、情報収集してから対応するほうが効果的。

□ 環境調整的な支援よりも、発達促進的支援を心がける。

□ 子供の行動はすべて「サイン」。サインがない子は、サインがないことがサイン。

□ 中学年から母親や教師からの「分離」が著しくなるため、反発は成長だととらえる。

□ 発達障害や第二次性徴、性的虐待に関する知識をもつ。

□「腹痛」など身体的サインは、ストレスとなる原因を探る。

□ 教師のメンタルも重要。一人で抱え込まず、上司・同僚・カウンセラーに相談を。


取材・文/出浦文絵 イラスト/宇和島太郎

『教育技術 小三小四』2019年12月号より

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