孤独な苦闘が続く年度末。多くの校長が感じる冬の憂鬱感「ウインター・ブルー(冬季うつ)」を乗り越えよう

皆さん、お元気ですか。この冬の季節になると、なぜかとても気分が重く憂鬱な日々が続く、という方が多いのではないかと思います。この冬の時期の憂鬱な気分は「ウィンター・ブルー(冬季うつ)」と言われており、多くの人が感じているのだそうです。今回は、なぜこの冬の時期に憂鬱でブルーな気分になるのか、それをどう乗り越えたらいいのかを、少し考えてみたいと思います。
【連載】タバティのLet’sスマイル(レッツスマイル) 学校づくり #17

目次
ウインター・ブルーの原因とは
この時期には大きな負担となる業務が待ち構えています。心が重くなる要因は、以下に述べる6つの業務内容にあると捉えています。
⑴ 人事評価作成の孤独な葛藤
一つは、1月には最終的な人事評価をしなければならないことです。資料作成のため、教職員と個人面談を行います。大規模校に勤務していたときは、35人ほどの教職員と個人面談をやらなくてはなりませんでしたから、その負担たるや壮絶でした。
まず面談だけでも、1人15分で終わらせたとして、全部で約8時間はかかります。
突然の出張が入ったり、突然の来客があったり、電話対応があったり、トラブル対応があったり、計画通り進まないのが世の常です。
さらに、個々人の人事評価シートに、評定や所見を記さなければなりません。私は原則、記入欄を埋めつくすほど書きます。評価者の言葉こそ次の職務への意欲や、生きていく励みになると信じるからです。
したがってどんなに急いでも、1人あたり最低60分程度は評価にかかります。通算で35時間以上が必要になります。
所見を書く際は心の中で葛藤が渦巻いています。
「評定の根拠は何か」
「この文言でよいか」
等、自問自答を繰り返し、悩み続けながら言葉を紡いでいきます。
人を評価することは相当の覚悟を要します。自分の考えに裏付けを求めようと、教頭に相談することも多々ありました。しかし最後は、やはり自分自身の責任において評価をつけなければならない孤独な戦いです。校長室があるのは、この仕事があるためではないかと思うほどでした。
もう一つは、自らの自己評価シート作成です。学校評価等のデータを分析して、A3サイズの大きなシートに、伸張したところや次年度への課題などを記していきます。このような校長としての学校経営の自己評価を年3回、教育長面談で行います。
面談は教育委員会幹部も列席して行われ、各担当幹部から記述内容に関して指摘を受け、多くは書き直しを命じられます。評価や質問と称して最終的には課題を突き付けられます。この負担感は相当なもので、いつもストレスを感じていました。校内の経営・運営に関してはもっと校長の裁量権を認め、信頼して任せる寛容さがあっていいと考えています。
⑵ 檄が飛ぶヒアリング
人事評価と同時に行われるのが、教職員の人事異動に関する業務です。
県教育委員会の規定による年次異動を基軸に、各教職員からの異動希望と、目指す学校づくりが叶えられるような校内人事配置を考えます。「人を動かす」ことは、その人の人生を左右することに繋がりますから、そのプレッシャーは計り知れないものがあります。
しかし、こうして悩みに悩んだ上、教育委員会の人事ヒアリングの場で人事配置の希望や構想を伝えると、労いの言葉よりも先に、驚くような檄を受けることがありました。学校の人事構想や学校経営上の相談ができる場は一体どこにあるのでしょうか。今振り返っても、よく耐えたと思います。
校長には人事権がありません。ヒアリングを終えた後は、いつも何とも言えない徒労を感じていました。
⑶ 教育課程完了をさり気なくフォロー
年明けから学期末までは、校内では各教科・領域等の学習内容がすべて完了したかを確認し、見届ける時期です。
職員室で教員一人一人を労いながら声をかけたり、個人面談をしたり、教頭と協力して教室訪問を行ったりして見届けていきます。多くの先生たちは各教科・領域等の年間指導計画に沿って着々と完了に向かいますが、中には取りこぼしをしている教室もあります。そうした際に授業時間数を確保したり、市教委に対応したりするのは、大きな負担です。3月末までには何としてでも終わらせなければならないからです。不利益を次年度に先延ばしすることは極力控える必要があるからです。
もう一つ、校内研修のテーマである「主体的・対話的で深い学び」に向かう授業改善が展開されているか、子どもたちが生き生きと授業に取り組んでいるか、この授業が次年度担当する教員にバトンタッチできるかを子どもたちの姿や作品から見届けます。これが次年度の人事構成の大きな基軸になっていきますから、端折ることなく丹念に見ていかなければなりません。
⑷ 学校評価の辛辣な言葉
様々な学校評価のデータを分析していると、公明正大に教育活動を評価してくださる方が大半ですが、中には厳しい内容もあります。プラスの言葉は励みになり自信につながりますが、厳しい文言には、たとえ正当性があっても受け止めるには勇気がいりますし、時間もかかります。それが人情だと思います。
この感情を乗り越えて、次年度の教育課程を編成していきます。そのためには思考する時間を要し、三役会議、企画委員会等、教職員間で相談するための時間や会議が増えてきます。
侃々諤々の意見交換こそ民主主義の根幹ですし、話し合った結果、新しいアイデアが浮かんだときや、話し合いがまとまったときの喜びや爽快感はなかなか他では感じることができません。それが職務へのモチベーションになるのですが…、会議の繰り返しは脳が相当疲れます。
⑸ 惜別の感情
3月は別れの季節です。慣れ親しんだ6年生の子どもたちの卒業が控えています。3学期始業式後から、子どもたち一人一人との思い出や成長を感じながら、惜別に向けて心の準備をしていきます。何気ない日々の語らい場面が愛おしく、卒業式の式辞で何を語るか構想を練り始めます。手塩にかけた子どもたちとの惜別は、希望であると同時に、正直寂しさの感情が襲います。
さらに共に過ごしてきた教職員の異動書類を作成したり、発表したりしなければなりません。特に、教職員の人事に関しては悩み続けての組織編制の結果としての異動です。複雑な感情が渦巻きます。
人との別れの季節は感情の振り幅が大きく揺さぶられます。できるだけ感情を入れ込まないように粛々と業務を推進します。それでも、やはり様々な感情が走馬灯のように巡ります。
⑹ 今年度から次年度へ切り替え
学年末休業・春季休業日は、指導要録をはじめとする公簿の整理や教室整備、新しい教職員を迎える準備、新クラス編成・名簿作成・教室配置・新入生を迎える準備や会議等、気を休める間がほとんどありません。切り替えが大変な時期です。計画的に粛々と進めることが必要です。この時期は、教務主任のサポートが頼もしく感じられ、それを支える教頭にも深く感謝する時期であります。2人のリードに従いつつ様々な資料作りや環境整備に努める教職員たちに敬意を感じます。校長だけでは学校が回らないことを痛感し、教職員あっての学校づくりを実感するときです。もう少し長い期間の学年末が欲しいと願うのは私だけではないと思います。
以上の6つの業務から発生する心の動きを整理してみました。こういった業務の中でも憂鬱な気持ちを引きずりながらも、なんとか乗り越えてこられた対応策を4点お知らせします。
「ウインター・ブルー」を乗り越える対応策
⑴ とにかく人を頼って、言葉にして相談する
私は、とにかく人に頼れるところは頼ろう、という姿勢で仕事を進めてきました。教頭や教務主任とつねに相談し、多くの先生と話し合いながら、手伝ってもらえるところはお願いしてきました。
1人で抱えるには重すぎる業務だと正直思うからです。特に教頭のことは信頼し、腹を割って相談に乗ってもらいました。
話すこと、言葉にすることで、混乱した思考が整理されていくからです。校長は孤独と言われますが、苦しいときほど職場の仲間や気の合う校長仲間に話すことで、気持ちや思考が整理されました。
良きブレインや、信頼できる校長仲間がいたことが大きな支えになりました。
もう一つ、毎朝の校門指導で、子どもたちを迎えることです。
「おはようございます」
と大きな声を発することで、ストレスが緩和されました。また、私は校長室を開放しています。子どもたちが業間休みや、昼休みに遊びに来ます。この子どもたちとの何気ない雑談や遊びが、疲れた心を癒してくれたのです。
⑵「悩みノート」に書き、思考整理をする
私は、「悩みノート」を作成していました。
やるべきことが多くなると漏れが生じたり、優先順位を見失ったりします。
そこで、今、自分は何に悩んでいるかを箇条書きにしていきます。次に、行動に移す順番を付けます。これだけでも気持ちがスッキリしますが、さらに箇条書きしたものを構図化し、地図のようにして視覚化を図ります。関連性のある内容を線で結んでグルーピングしたりして、整理していきます。
すると、解決への「行動の道筋」が見えてきます。書いて思考の整理をすると気持ちが落ち着きます。すると、解決は意外に遠くないな、などと新たな気づきを得ることが多かったです。
⑶ 歩いて汗をかいて気分転換をする
徒歩・電車・バス通勤の私は、冬の帰宅時に学校から駅までの約5キロを歩くことがたまにありました。日頃の運動不足解消や外気に触れること、太陽の光を浴びることを意識しました。
冬はセロトニン分泌量が減り、ウインター・ブルーに陥りやすい時期だからです。また寒い時期には炭水化物や甘いものが食べたくなります。私はこの時期、まさに食欲が増し、甘いものを必要以上に摂取する傾向がありました。これは日照時間が短いことが影響していると言われています。さらに太陽の光を浴びないと、「メラトニン」という睡眠サイクルを調節する脳内伝達物質の分泌量が減少します。したがって、夕陽を浴びながら歩くという有酸素運動をすることで体調のリズムを回復させ、夜の質の良い睡眠につながるように努めました。
⑷ 規則正しい生活を意識する
できる限り就寝時間は21時から22時と決め、布団にもぐりこむようにしました。疲れているときは20時台でも布団に横になりました。起床時間は6時と決め、6時半には自転車で冷たい空気を切って駅に向かいました。可能な限りリズムある日々を送るように心がけたのです。良質の睡眠時間こそモチベーションにつながり、良いパフォーマンスができるからです。休日は朝の散歩をしたり、家庭菜園の土慣らしをしたりして、生活リズムと気分転換を図るようにしました。
朝は1杯のコーヒー。昼は11時半に検食を兼ねての給食。夜はコロナ禍以降で会食もほぼなくなったので、家で野菜を中心に、青魚や肉、大豆などの良質のたんぱく質やビタミンを多く含む果物を摂るように心がけてきました。