第59回 2023年度 「実践! わたしの教育記録」特選作品 三好達也さん(⼤阪教育⼤学附属池⽥中学校教諭)

特集
教育実践コンテスト「実践!わたしの教育記録」特集
関連タグ
全員が当事者意識を持って語り合う校内研修(校内研究授業)の実現を⽬指して
~教科、役職、学校、校種を越えて学び合える環境作り~

1 はじめに

これからの未来社会を⽣きていく児童・⽣徒を育成するために、教員の資質能⼒を⾼めることが重要である。教員の資質能⼒を⾼めるために有効な⼿段として、研修の充実が国の⽅針でも重要視されている。

今回は、研修の中でも最も⾝近である校内研修(校内研究授業)の質を⾼めることで、授業者を含めた参加者全員の⼒量形成をめざすこととした。中学校の課題として、教科担任制であることから、他教科等の校内研究授業・事後研究協議会において専⾨教科外の教員の関わる度合いは⾼くないことが挙げられる。

そこで、「⼦供の姿」を中⼼にした授業観察とICT を活⽤した授業記録、それらを基にした事後研究協議会を⾏うことで授業者を含めた全員が当事者意識を持って取り組める参加型校内研修を実施した。その結果、全員が当事者意識を持って語り合うことができる研修を実施することができた。さらに、研修時間外にも主体的に取り組む教員の姿が現れることとなった。

また、本取組は、他校や校種を越えての実践においても効果を発揮することが明らかとなり、汎⽤性のある取組であることが⽰唆された。

研究の背景

「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(令和3年1月)において、教職員の姿について整理された。その後、令和4年12 月に『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について〜「新たな教師の学びの姿」の実現と、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成〜 答申(概要)が出され以下の3つの方向性が示された。

  1. 「新たな教師の学びの姿」の実現
  2. 多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成
  3. 教職志望者の多様化や、教師のライフサイクルの変化を踏まえた育成と、安定的な確保

3つの方向性を踏まえ、5つの改革を実施することになった。その中で1つ目に挙げられているのが「令和の日本型学校教育」を担う教師に求められる資質能力である。教師において共通的に求められる資質能力の柱を5項目に再整理され、それらは研修により高めることとされた。

OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2018報告書によると、教員の職能開発のニーズは参加国平均や前回の調査を比べても高まっている。一方で教員の職能開発にかけられる時間は、参加国の中でも非常に少ないことが実態である。

研究の目的

学校現場で働く教員にとって最も身近にある研修と聞かれれば、校内研修(校内研究授業)を思いうかべるのではないだろうか。校内研究授業は全国の多くの学校で実施されており、その充実度合いが教員の授業力の向上に大きく影響すると考えられる。

そこで、本研究では、教員に求められる資質能力の向上を目指して、全員が当事者意識を持って語り合う校内研修(デジタル指導案⦅画像・動画⦆を活用した子供の姿で語れる校内研修)に取り組むこととした。本研究において、校内研修は、「校内研究授業・事後研究協議会」とする。

4 実践

R:調査

実践を始めるにあたって、所属校教員(管理職・主幹教諭・教諭・常勤講師・養護教諭)を対象に校内研修(校内研究授業)に関わるアンケートを実施した。有効回答数は22名であった。

専門教科ではない授業を見学する際に、視点をもって見学できますか
専門教科ではない事後研究協議会で、自身の考えを伝えることができますか

アンケート結果を見ると、専門教科外の授業見学や事後協議会において3割から4割の教員が課題を感じていることが明らかとなった。これは教科担任制を実施している全国の多くの中学校や高等学校でも同様のことが言えるのではなかろうか。また、専門教科であっても経験年数が少ない若手の教員は、否定的な回答が目立った。筆者は公立小学校に勤務していた経験もあり、この回答、結果と同様の経験を小学校教員時代に感じたことがあった。

P:計画

アンケート結果から、これまで行なってきた校内研修(校内研究授業)の形を変える必要性が確認された。確認された課題は大きく次の2点である。

1.教科を越えて語りあえる校内研修にできていない。
2.経験年数や立場を越えて語りあえる校内研修にできていない

この課題を改善するために以下の5つの取組を行うこととした。

  1. 授業見学の際にはデジタル(ロイロノート)の指導案等資料を使用する。
  2. 授業観察の視点は、本時の目標と研修の柱を軸に、生徒の姿をみとる。
  3. 授業記録は、写真や動画で記録する(文字を含んでもよい。文字だけは不可)。
  4. 話合いは、根拠(授業記録)に基づいて行う。
  5. 事後研究協議会では、少人数(複数教科や様々な経験年数が同一グループ)で話し合う時間を設ける。

5つの取組の理由

①デジタル端末を活用することで、記録に写真や動画を残すことができる。また、事後の話合いにおいても即時に映し出したり共有したりすることができる。また、保存性にも優れ、校内研修の記録として残すこともできる。

②全教科共通の視点を設けることで、全員参加型の授業観察ができる。また、全授業に共通するのは生徒の姿である。生徒の姿を中心に授業観察することで全教員が視点をもって参加することができる。

③授業は一瞬一瞬で変化し、消えていくものである。また、参観者の教室での立ち位置や着目生徒によって見ている風景が異なる。映像記録に残すことで、自身が見えていなかった場面や生徒の姿に気づくことができる。授業の観察の新たな視点になる。授業者であれば評価の一助になる。

④根拠(写真や動画)に基づくことで、客観的な話合いを実施することができる。経験の少ない若手教員であっても事実を基に話すことで語りやすくなる。

⑤自己の意見を語る場を設けることで、参観者一人一人が当事者意識を持つことができる。

D:実施

5月に行われた本年度1回目の校内研修(校内研究授業)において実施した。

授業前

授業記録記録シートは、本事案と本時の柱になる内容を示した1枚シートで作成した。

授業記録シート

授業中

授業開始時は、教室の後方にいた教員も生徒の姿を見とるために、徐々に生徒の近くで授業参観をする姿に変わっていった。また、生徒の姿を見逃さないようにメモや写真や動画を取りながら記録する参観者で、授業者がどこにいるのか分からないような状況になるほど、参観者が主体的に関わっていた。

授業開始時の参観者の様子
生徒の近くで参観する参観者
生徒の姿を記録する参観者

授業後(事後研究協議会)

事後研究協議会では、授業者が自評を語った後に、少人数グループで授業について話し合う時間を設けた。その際、自然と授業記録をもとに語り合う姿が見られた。若手教員も積極的に語る姿が見られた。
また、養護教諭やALT、管理職も同じ視点に立って話合いに参加することができ、協議会後に、ALT から「こんなに楽しかった研究授業はじめてだった。ありがとう」と伝えられた。土台を整えることで教科を越えて教員同士がつながった瞬間であった。

若手教員が語る様子
記録をもとにALTが管理職や教諭に語る姿

さらに、当日は、他校の教員も授業見学ということで参加していた。当日急遽、学校用の予備のタブレット端末を準備し、本校教員と同じように使用してもらい参加してもらった。下の写真の赤丸で囲っている教員が他校の教員である。

所属校教員と一緒になってタブレット端末を使用し、主体的に語り合う姿が見られた。帰り際に他校の教員から、「今日は授業参観にきたのですが、新しい研修の方法まで学ぶことができました。ぜひ、この方法を取り入れてみます」という嬉しい言葉もいただけた。はじめて取り組んだ教員であっても、簡単に取り組める方法であることが明らかとなった。

他校の教員が語る姿
選択して一覧にすることで比較や関連付けができる

また、ロイロノートでは複数枚を一覧にして見ることができるため、自分の気づきを語り合うだけでなく、グループの記入全体を見ることで共通性を見いだし語り合うことで、さらに話合いが広がっていった。

授業後(事後研究協議会終了後)

協議会終了後も記録の活用が見られた。研究協議会の時間は限定的であったため、授業者は全ての教員の意見を聞くことができなかった。しかし、記録として残していたこともあり、授業後に全員の記録から自己の授業実践を振り返ったり、職員室で再度話し合ったりしている姿が見られた。その際にも、授業者も記録者もデジタル記録をもとに話し合っていた。

さらに、授業者だけではなく参観者にも同様の姿が現れた。その夜、ある若手教員が同じグループにならなかった若手教員の記録を見て、質問をしていたのである。さらにそこにもう一名(中堅教員)が加わり3人で議論を深めていたのである。

最終的には、その姿を見ていた授業者も参加し、熱い議論が繰り広げられたのである。まさに、参観者が当事者意識を持ち、主体的に学ぶ姿だと言える。そしてそれは、学びの拡張とも言える。誰もが参加し、見ることができる記録にしておくことで、教員の更なる学びの機会を創出できることが確認された。

全記録を全員が一覧できる
若手教員らが語り合う姿

成果と課題

C:測定、評価

実践後に、所属校教員(管理職・主幹教諭・教諭・常勤講師・養護教諭)を対象に校内研修(校内研究授業)に関わるアンケートを実施した。有効回答数は20名であった。

子どもの姿を見とる(写真や動画)授業参観方法は、よかったですか
視点を持って授業を参観することができましたか
授業参観方法についての参観者の意見〜抜粋〜

●討議をする際に、具体的な話ができたその瞬間の子どもの様子を確認することができた。
●他の先生がどのような目線で見ているのかが見られて面白かった。
●指導案だけより生徒の活動を記録しやすかった。
●何を見とるのか具体的に提示されていたから参観しやすかったです。
●とてもよかった。今までの形式だとベテランの先生や、在校年数の長い先生に発言が偏り、全体の学びになっていないと感じていたから。
●これと思った時に写真を撮る方がメモするより早い。指導の流れとリンクさせやすい。
●▲振り返りと自分の授業の観察の視点が定まる。ただちょっといそがしい。
▲撮るタイミング図るがなかなか…。慣れれば解決するのかもしれません。
▲焦点化しすぎてしまって、撮っていることが同じになる気がする。発揮している場面を撮ろうとすることに注力して、自分だけの発見や自分の思考をする時間がなかった。

アンケート結果から、全ての教員が視点を持って授業参観をすることができたことがわかった。また、多くの教員が今回の参観方法に手応えや良さを感じている結果となった。一方で、操作性や活動量の問題、視点を絞ることについて課題が残る結果となった。今後、参観者のニーズ等を考慮した上で検討する必要がある。

ICT機器を校内研修で活用することはよかったですか
少人数で話し合う時間を設けたことはよかったですか
ICTを活用したことについての参観者の意見〜抜粋〜

●全員のメモを見られるのが良かったです。
●話合いが具体的にできた。
●少ない時間で中身の濃い交流ができた。
●同じ視点でも異なる観点での評価等が見やすかった。
●映像と文字の記録が両方使えるので自分自身の振り返りにも効果的でした。
●コンパクトに情報整理ができたから。
●皆平等に意見を言うから。
●紙だとすぐ行方不明にしてしまうので管理しやすい。

ICT を活用したことについては100%肯定的な意見であった。初めて活用した教員がいたにも関わらずこの結果であったことから、有効な手段と言えるのではないか。また、少人数での話し合う時間についても100%肯定的な回答であった。全員が語り合える状況と場を設定することでこのような結果を生み出したのではないだろうか。

一方で少人数での話合いに時間を多く取ることで全体協議の時間が短くなってしまうという課題もある。今回の実践では、協議会全体の時間と割合についての分析を行っていない。そのため、今後は少人数で話し合う時間と全体協議の時間の割合についても検討し、バランスよく協議会を運営する仕組みについても検討していく必要がある。

また、本実践は所属校だけで実践できるだけでなく、汎用性があるかを検証していく必要がある。多くの学校で効果的に活用することができることが重要であると考えるからだ。

展望

A:対策、改善

本実践が、他校においても実践できるかを調査するために、堺市の公立小学校で実践してもらうこととした。また、校種を越えても効果を発揮するのかを明らかにするために隣接する附属小学校と附属高等学校池田校舎の教員にも協力してもらい実践を行った。

堺市の公立小学校では、ロイロノートを使用していないため、代わりにMicrosoft Whiteboard を活用し
た。小学校4年生の算数の授業で実践をした。研修当日は多くの書き込みと意見が出ていた。本時案と
参観の視点を1つにしたシートを活用することで、事後研究協議会では、普段以上に活発な議論が起こ
った。

堺市の公立小学校で実施した様子

附属小中高での実践は、それぞれの学校で実践をするのではなく、小中高の教員が10人で1つのグループになり、それぞれの授業を見学し合う相互授業見学の際に実施することとした。つまり、小学校の授業をグループの小中高教員が参観して、授業記録を残すということである。同様に中高でも実践した。実践は、小・中・高の共通アプリ(google jamboard)を活用した。

小学校 給食指導の実践/記録者:高等学校教員
高等学校 国語科の実践/記録者:中学校教員
中学校 数学科の実践/記録者:小学校教員

実施した結果、学校種が変わっても同様に実施できることが明らかとなった。また、小学校の栄養教諭がグループにいたこともあり給食指導の記録も実施してみたが、授業同様に実施することができた。

実施後に小学校と高等学校の教員に感想を聞いた。すると小学校教員からは、「子どもの姿から見とるのであれば、学校種を越えてもできる。」という意見をもらった。また高等学校の教員からは、「写真を見ると、小中高の子どもの姿には共通する部分があることがわかった。」という声が聞かれた。

この実践から、学び手(子供)を見とることを中心に据えれば、学校種を越えた学び合いも実施できることがわかった。また、記録として映像を残すことで、小中高の共通点を見いだすことができるという、新たなよさが明らかとなった。

2つの実践をした結果、端末や使用するアプリなどは違うものの、動画や画像で授業時の児童・生徒の様子を記録することが効果的であることが授業者や参観者へのインタビューから明らかとなった。
その中で特に大きかった効果として3点挙げられた。

可視化

本時の目標に対する児童・生徒の表情や言動が可視化されることで、文字や発言以上に授業時の子どもの姿を鮮明に表現することができる。

共有化

撮影した映像を教員全員で共有することで、話合いを焦点化することができ、議論を深めることにつながった。

保存化

校内研修記録や授業記録を簡単に保存することができるため、継続的な取組につなげることができた。また、授業者自身の振り返りにおいても客観的に実態を把握することができた。

今回の実践により、他校や学校種間を越えても有効な方法であることが示唆された。しかし、まだまだ実践数が少なく、不十分な点も多い。今後も様々な学校で実践をしてもらい、それがもたらす効果を調べ、汎用性のあるものをめざしていく。

7 おわりに

教師の働き方改革が言われる現在では、校内研修においても時間をあまりかけることができなくなってきている学校が多いように感じる。しかし、私たち現場の教員において授業力を高めることは、最も大切な営みの1つである。だからこそ、限られた研修の機会をより意義深いものにしていくことが必要なのである。

様々な経験年数、役職や教科の違いがある中で実施する校内研修において、教師の言動を中心とした校内研修から、可視化した子どもの姿を語る方法に変えていくことで、全員参加型の校内研修を実施することができる。それが、教員に求められる資質能力の向上を目指す今後の授業研究のあり方なのではないかと考える。

今後も実践を積み重ね、教員の資質能力の向上を目指した校内研修に取り組んでいきたい。

【参考資料】

千々布敏弥(2014) 授業研究とプロフェッショナル・ラーニング・コミュニティ構築の関連 -国立教育政策研究所「教員の質の向上に関する調査研究」の結果分析より-国立教育研究所紀要
千々布敏弥(2014)プロフェッショナル・ラーニング・コミュニティによる学校再生 教育出版
鹿毛雅治(2009)「誰による、何のための、誰のための実践研究か:教育心理学社による『授業コンサルテーション』を手がかりとして」
木原俊行(2004)『授業研究と教師の成長』日本文教出版
国立教育政策研究所(2020)教員環境の国際比較:OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2018報告書――学び続ける教員と校長――の要約
文部科学省『令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)(中教審第228号) 【令和3年4月22日更新】
文部科学省「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について~「新たな教師の学びの姿」の実現と、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成~(答申)(中教審第240号)
奈須正裕(2021)個別最適な学びと協働的な学び 東洋館出版社
小柳和喜雄・木原俊行・益子典文(2015)教員養成・現職研修への教育工学的アプローチの成果と課題.日本教育工学会論文誌,pp127-135
田村学(2017)「授業研究」の質的転換―「学校の学び」の観点から― 鹿毛雅治・藤本和久編『「授業研究」を創る 教師が学びあう学校を実現するために』秋田喜代美・大島崇・木原俊行・小林宏己・田上哲・田村学・奈須正裕・藤井千春著 教育出版

受賞の言葉

大阪教育大学附属池田中学校教諭・三好達也

この度は、大変栄誉ある賞に選出いただき、誠にありがとうございました。 

この実践の中で大切にしてきたことは、どこの学校でも実践できる取り組みにしたいということです。

「附属学校だからできる」、「中学校だけでしかできない」といった取り組みにしてしまうと、本取り組みの意味は半減してしまうと考えます。日本中の多くの学校で活用できるものにしたいという思いで取り組みました。そのため、学校種や地域、立場や環境を越えて多くの方にご協力いただき、実施してきました。まだまだ実践数としては十分ではないですが、多くの学校で実践可能な校内研修の在り方の1つとしてご提案できたのではないかと思っております。

校内研修をきっかけに先生方の授業力が高まることで、素敵な子どもたちの姿が溢れます。私は、素敵な子どもたちの姿を見ながら授業をすることが教師のやりがいであり、喜びだと思っています。

働き方改革の取り組みとして、働く時間を少なくすることも大切なことですが、私たち教員が教職の仕事にやりがいを感じて働くことこそが本当の意味での働き方改革なのではないかと思います。そんな環境を創り出せる様に今後も日々精進していきたいと思います。

最後になりましたが、本研究と実践は、私一人の力では実現できるものではありませんでした。所属校の教職員をはじめ、様々な先生方や関係者のみなさまのお陰で実施することができました。本当にありがとうございました。

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
特集
教育実践コンテスト「実践!わたしの教育記録」特集
関連タグ

授業改善の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました