発達障害のある子が学びやすい学習方法の工夫とは?
「学校での勉強の仕方がうまくいかない」「学び方に困っている」という子供は学級に数人いると言われています。そのような子供たちをどのように支援していくのか、学び方の工夫をどのようにすればよいのか、前文部科学省特別支援教育調査官・田中裕一氏にうかがいました。

目次
困り事は大きく3つ
――学び方に困っている発達障害のある子は、その困り事が千差万別とのことですが、例えば、どのような困り事が多いのでしょうか?
田中 細かく分けると様々な困り事があるのですが、大きく3つに分けることができます。1つ目は学び方(入力)の困難、2つ目は出力の困難、3つ目は頭の中の整理の困難です。例えば、学び方の困難は、読むときの困難、聞くときの困難、出力の困難は、書くとき、話すときの困難などが考えられます。
また、学習の困り事でよく聞くことは、「紙と鉛筆」の問題になります。書くのが遅い、字が崩れて後から読み返せないなどです。
これらの視点で再度子供を見ていただければと思います。
――小学校の担任が、「この子は勉強(読み書き、算数など)が苦手かもしれない」と判断した場合、どのように対応すればよいのでしょうか?
田中 そのように気付いたときに、学校の中などで情報を集めます。勉強が苦手そうだ、努力が報われていなさそうだと分かれば、スクールカウンセラーに相談したり、校内委員会で検討したりします。これを例えば1週間以内に行うようにします。何か月もかかっていたらその子が学習できないまま時間が経過することになるからです。
気になる子を見付けるための学校の取組は、年間スケジュールに入っていると思いますが、例えば、その取組が4月であれば、そこで終わるのではなく、5月以降も継続的に見ていくことが大切です。子供は、4月はとてもがんばるので、見付けられない可能性があるからです。
――法律的に発達障害の子供たちをサポートする仕組みがあるとのことですが、どのような内容でしょうか?
田中 小学校学習指導要領総則には「障害のある児童などについては、特別支援学校等の助言又は援助を活用しつつ、個々の児童の障害の状況等に応じた指導内容や指導方法の工夫を組織的かつ計画的に行うものとする」と示されています。それを受けて、すべての各教科等の解説には、工夫の仕方が例示されていますので参考にしてください。
もう1つは、合理的配慮の提供です。
すべての授業において、一人一人の教育的ニーズに応じたきめ細かい指導や支援を行うことが学校に義務付けられているということです。
その際、どのような指導や支援がよいかについては、学校が、本人・保護者・関係者と話合いをするなかで判断していくことが大切になります。
――子供から、学び方が合わないと伝えられた場合、担任はどのように対応すればよいでしょうか?
田中 まずは、何が合わないのかをその子と話し合ってください。今まで実施したことがある工夫の中で、合いそうなものがあれば、その方法で試し、それが合わなければ、また別の方法でというように試行錯誤を繰り返します。子供がやりたいという方法で行うことで、子供のモチベーションが上がります。
子供が何をしてよいか分からないときには、先生が提案してみてください。その子がどのような場合に分かって、どのような場合に分からないのかなど、観察を続ければ、その子に合うものが見付かると思います。
また、医療等の関係機関に力を借りる方法もあります。
自分に合う道具を探す工夫
――発達障害のある子が学びやすい学習方法の工夫を具体的に教えてください。
田中 例えば、「消しゴムで何度も消すと疲れる。鉛筆の文字を消すのに苦労する。消したいところだけ消せない」という困り事に、こんな工夫をした子がいます。それは、自分に合う消しゴムを探したことです。「軽くこすれば消える消しゴムを探す。いくつもの消しゴムを試して疲れないかの検証をする。類似商品を比べる」という工夫をして、自分に合う消しゴムを見付けました。
今ある道具に合わせて自分ががんばるという前に、一度、自分に合う道具を探す工夫を子供に提案してはいかがでしょう。消しゴムのほか、鉛筆や定規などにも言えますね。
――小学校の担任は、学びに困りのある子に対して、どのようなところに留意すればよいでしょうか?
田中 まずは本人と話をすることが大切です。情報を集めるとともに校内委員会で話し合って、医療や福祉等と連携するようにします。もちろん保護者の理解も必要です。また、場合によっては、子供の発達のバランスを知るためのWISC(ウィスク)検査やKABC-Ⅱ検査など客観的な検査も試してみてはいかがでしょう。検査によって、これまで見落としていたことが、分かる場合があるからです。