今、求められている「探究の授業」とはどのようなもの?<中編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#33】
先生方のご相談について國學院大學の田村教授にお答えいただくこの企画。今回は、生活科・総合的な学習の時間(以下、総合学習)の全国大会が行われる京都市の学びの特徴や、生活科と総合学習の「探究」の相違点などについて、説明をしていただきます。
子供が将来にわたって主体的に伸び続けていくためには、探究学習が重要だと先輩から聞きました。今、求められている「探究の授業」とはどのようなものでしょうか。小学校の生活科や総合的な学習の時間(以下、総合学習)で具体的に教えていただけませんか?(20代、小学校)
身近にあるはずの特徴を生かした独自の実践をする
前回、全国大会の開催もあるため御所南小学校の総合学習の実践を紹介しましたが、京都市は古くからかなり教育に熱心な町であるとともに、彼らが暮らしている町自体にもかなり特色があり、自分たちの暮らしや地域を学習対象にしやすい場でしょう。生活科や総合学習はそうした生活や暮らし、地域を学習対象にしていますし、それらを実感的に学んでいくことは、おそらく小学生にとってとても魅力的で学習するにふさわしいものだと思います。
もちろん、総合的な学習の時間でエネルギーの問題が課題だと考えることも大事ですが、そのときにいきなり、外国の風力発電の話をされても子供たちにとっては遠くの話になってしまうでしょう。それよりも、「自分たちの町には古くからの伝統文化が宿っていて…」となれば、子供たちはそこに心を動かされ、目を向けていくはずです。さらに、「それらがとてもモダンなものとして開発され、世界の人々が買い求めに来ている」となれば、そこからグローバルな視点も出てくるのだと思います。その意味では、京都という伝統を大切にしてきた場において、生活科や総合学習における暮らしや地域との接点が色濃く出せているのが、御所南小学校の実践を含めた、京都市の実践の特徴だと言えるでしょう。
多くの人はそれを聞くと、「やっぱり京都だからね」と思われるかもしれませんし、「京都だからできるんだよね」と思う方も少なくないかもしれません。確かに、京都には特徴的なお宝とも言える学習材がたくさんあるとは思います。だからと言って、他の地域にお宝が何もないわけではないとも思うのです。お宝はちゃんと眠っているのだけれど、それを日常的に感じる機会が少ないだけではないでしょうか。
最近、ある学校の先生とお話をしていたところ、「うちの学区にはそういうもの(探究に値する学習材)がないんですよ」とおっしゃるのです。しかし、地域のいろんな人と出会って話をしてみると、その地域で古くから大切にしてきた町内会の取組があるかもしれないし、地域の環境保全のために取り組んでいるような行為があるかもしれないし、例えば婦人会で花を育てて地域に植えているということがあるかもしれません。何もないということはないと思います。
その点において、京都市の実践は暮らしや地域を素材に、子供たちが本気で学ぶ姿が垣間見えるという意味では分かりやすいモデルです。しかし、それは京都市でなければできないものではなく、日本全国どこでも十分できるはずです。そうした実践を進めていくために、地域の人と関わり、地域の特色が見えてくると、おそらく実践者の先生方にとってもおもしろいのではないでしょうか。普段は気付かなかったことに気付くとか、見えにくかったものが見えてくるというのは楽しいのではないかと思います。「ああ、こんな魅力があったんだ」とか、「こんなおもしろい人がいたんだ」とか、「こんなふうな自慢があったんだ」ということは、魅力的なことです。
その意味では、この京都市の特徴を生かした実践をモデルにして、全国の先生方にも身近にあるはずの特徴を生かした独自の実践をしていただくことができるのではないでしょうか。
生活科は体験で得たものの言語化により、より確かな認識に至るのが重要
ちなみに今回の質問には、生活科と総合学習の「探究」ということがありましたが、両者の「探究」には違いがあります。生活科は簡単に言えば、子供たちの思いや願いを実現するということ、総合学習は問題解決が連続的に発展するということで、少し質が異なるのです。総合学習では「探究」の4つのプロセス(「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」)を踏んでいくことが、より質の高い「探究」に向かうというイメージがもてると思います。
それに対し生活科では、そのような細かなプロセスを踏むというよりも、子供たちの思いや願いを大事にして、それを実現していくということに力点が置かれます。「もっときれいな花を咲かせたい」ということで栽培活動に取り組むとか、「おもちゃがもっとよく走るように工夫、改善したい」ということで、おもちゃ作りに没頭するなどということが大事なのです。ただそのときに、体験と言葉(表現)が行きつ戻りつするというイメージをもつことが大切です。
生活科も総合学習も体験がベースになるのですが、総合学習は先に説明したように4つのプロセスを踏むことで学びが深まっていきます。それに対し生活科は、体験そのものが重視されるのですが、その体験で得たものを言語化することによって、より確かな認識に至るということが重要なポイントなのです。
ちなみに幼児期には、体験をすればOKだったわけですが、生活科では体験したことをもう一度、絵にしたり、図にしたり、言葉にしたりすることによって、体験をより確かに認識したり自覚したりするのです。あるいは言語化することで、思考が伴うような形で考えるとか、表現することで他者と共有してより質の高い学びにするということが起こります。ですから、体験と言葉(表現)をうまく行きつ戻りつしながら学びの質を上げるというイメージが出てくると、小学校の入門期の学びとしてはふさわしい学習になると思います。
生活科は、幼児期の学びと小学校での学びのつなぎであるとともに、大切な土台となります。つなぎ的ではあるのですが、自分で自覚的に学ぶとか、他者と協働的に学ぶということを意図的に設定することで、学習者が「学習するって、こういうことなんだな」ということを実感していくわけです。幼児期は遊びは遊びのままでよかったのですが、生活科の学びは遊びから入るけれども、「遊びの中にこういう学びがあったんだ」ということが分かってくるからこそ、教室でお話を聞くことや、先生の説明を受けてから行動すること、友達同士で話し合うことの大切さや意義が実感できるのだと思います。それが、幼児期の学びと小学校での学びのつなぎであり、かつ大切な土台であるということです。ですから、そのような学びが、しっかり生活科の中でできていると、3年生以降の学びにも大きく効いてくることになります。
※
今回は、京都市の実践の特徴とそこから学べることや生活科と総合学習の相違点などについて説明していただきました。次回は、今「探究」が求められる理由や、先生方が取り組む上で大事にしてほしいことなどについて説明していただきます。
また、11月9、10日に開催される生活科・総合的な学習教育研究協議会の全国大会京都大会に関する詳細情報は、以下をご覧ください。
https://kyoiku.sho.jp/seminar-calendar/date/20231109/
【田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、10月26日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之
好評発売中!!
探究的な学びを実現する
「生活・総合」の新しい授業づくり
田村 学 著
ISBN978-4-09-840225-0
「学習指導要領がめざす」子を育む!
『「ゴール→導入→展開」で考える「単元づくり・授業づくり」』
田村 学 著
ISBN 978-4-09-840226-7