今、求められている「探究の授業」とはどのようなもの?<前編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#32】

連載
教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」

文部科学省初等中等教育局主任視学官

田村学

先生方のご相談について國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は、生活科・総合的な学習の時間の全国大会開催を前に、急遽、今、求められる「探究の授業」についての実践事例を紹介していきます。

 子供が将来にわたって主体的に伸び続けていくためには、探究学習が重要だと先輩から聞きました。今、求められている「探究の授業」とはどのようなものでしょうか。小学校の生活科や総合的な学習の時間(以下、総合学習)で具体的に教えていただけませんか?(20代、小学校)

京都市立御所南小学校の授業「一緒につくろう! 御所南ストリート!」

 11月9、10日に京都市において全国小学校生活科・総合的な学習教育研究協議会の全国大会が開催されます。9日は全体会で、翌10日には京都市立御所南小学校、京極小学校、待凰小学校を会場に授業公開や大会別分科会が開かれる予定ですが、これらの実践を見ていただければ、今、求められる探究の授業とはどのようなものか分かりやすいのではないかと思います。そこで今回は、この大会につながる御所南小学校の授業の様子やそこに込められた学校の考え方や先生の思いなどを紹介していくことにしましょう(以下、編集部取材)。

10月上旬の取材日、御所南小学校の4年1組の教室では谷口真由教諭が、「一緒につくろう! 御所南ストリート!」という単元の授業を行っていました。学校区内にあり、魅力はあるものの来客数が減ってきている商店街を活性化するため、商店街のイベントに合わせて、子供たちも自分たちでできることを考えて協力していくという単元です。

授業冒頭、まず谷口教諭は前時に学年全体で集まって行ったことは何だったかを問い、「あつまれ! 御所南スト プロジェクト」というプロジェクト名や、それによって「御所南ストリート(商店街の名称)に人を呼ぶ」ことを再確認します。そこから、「みなさんは、どんなことをしようとしているの?」と投げかける谷口教諭。「キャラクター作りをしたいと思います」「キャラクターのサインを作りたいです」「提灯とか行燈を作りたい」「ランタンを作る」「ポスターとかパンフレットを作りたいです」「キャラクターを作った後の話ですけど、キャラクターを使ったイベントをやりたいです」「僕は新聞を作りたいです」など、子供たちが相互指名でやりたいことを発表していく間、谷口教諭は子供たちの考えを内容や目的に沿って大きく分けながら整理し、板書していきます(写真1参照)。

(写真1)子供たちの意見を構造化、可視化して板書するため、内容や目的に沿って分けて板書していく谷口教諭。

そこでAさんが、「私は旗を作りたいです。パッと見て、こういういいところがあるお店なんだと分かるような旗を作りたいです」と話します。すると谷口教諭は「今、Aさんはこれをしたいというだけじゃなくて、これで何を伝えるって言った?」と問い返し、「パッと見て、お店の良さが分かる」というポイントを確認。色を変えて板書に整理していきます。

そこから、やりたいことだけでなく、それを通してどんなことをねらうのかという発言も増えてきます。「キャラクターも御所南ストリートだからこそ、という特徴があると行ってみようという気持ちになる」「伝統的な雰囲気をキャラクターに生かせないかな」「おしとやかな品のある感じ」「ていねいな言葉遣い」「和風」「木の感じの色」…ここで「舞妓さん」という意見が出ると、「舞妓さんは京都やけど、御所南とは違うところやし」「御所南ストリートだけのものやないと」との修正意見も出てきます。「やっぱり、夷川通り(本来の通りの名称)らしさがないと」と、改めて何を大事にすべきか意見が出ます。それらも色を変えて、板書する谷口教諭。

「元々の行事と絡めてやる。ハロウィンの時期やからカボチャにするとか」と意見が出ると、賛同する声も上がる一方で、「ハロウィンは和風感がないし、季節が変わったらやり直さなあかん」「どんな季節でもできないと」と言う意見が出る一方で、「いつも同じだとおもしろくないから季節ごとに変えたらいい」という意見も出てきます。

「ポスターは何を発信しようとしているの?」などと、要所要所で子供たちに問いかける谷口教諭。「ポスターは長い文章だと見ないから、パッと見て分かるようにする」と言う一人の子供。続けて、すでに出てきた複数の内容をつなげ、「ポスターに行燈とか提灯とかの写真を入れて(通りの)雰囲気を伝える」「お店の歴史とか、良さが一目で分かるようにする」「言葉と写真でお店で売っているものや良さを伝える」との意見が続きます。

一目で分かるようにすると言う意見が続いたところで、「ポスターは細かいことは書かなくていいってこと?」と問い返す谷口教諭。すると、「ポスターに長い文が書いてあっても見ようと思わない」「一文だけで分かるようにする」「細かいことは新聞を見てもらう」と、ポスターやパンフレットと新聞のすみ分けについての意見が続き、そこから、キャラクターと旗、紋章の関係など、個々が取り組もうとしていることの関係性について意見が続いていきます(写真2参照)。

(写真2)相互指名で意見を出し合い、次第に互いの意見をつなげながらより良い意見へと質が高まっていく。

「みんながこうしたらいいという意見を出してくれたけど、それぞれが何をやるにしても、これは大事にしたいということはどれ?」と投げかける、谷口教諭。子供たちは板書を見直して考えた後、挙手していきます。

「御所南ストリートの良さは外せない」と言う意見に、「お店の前にストリートの良さを知って、行きたいと思うことが大事だよね」と意見がつながります。さらに、「人が行きたくなるような…」「確かに。良さを知ってもらって、結局、人に来てほしいんだから」との声。納得の声が多く出る中、「何をするにしても、お店の人の思いと違うとダメだから、話して確認することが大事」「またインタビューしに行こう」と子供たち。谷口教諭は、そうした意見を受けて次時以降の学習活動のポイントを再確認した後、(残り時間10分少々のところで)情報端末を出して、学習のふり返りを書くよう指示します。

すると、書きたい内容が頭にたくさんあって、もどかしいくらいの様子で書いていく子供や、改めて板書を見直しながら考えてから書き始める子供など様々です。10分弱の時間ですが、速い子は400字をはるかに超えるほどの長文のふり返りを書いていきます。ゆっくり書いている子供でも200字を超えるくらいには書いています。授業時間の残りが数分になったところで、それぞれのふり返りを聞いていきます(写真3参照)。

(写真3)わずか数分で長文のふり返りを書いている子供。

「やろうとしていることには、御所南ストリートだけにある特別なものを入れて、作るときに良さが伝わるようにしたらよいと思いました」「やっぱり元々の良さを残すことが大切だと思います。例えば、キャラクターを作るときにも静かで落ち着いた雰囲気を伝えるのに、おしとやかな性格にしたり、伝統があることを伝えるためにおばあちゃんにしたりすることができると思います」など、書いていることのポイントをコンパクトに整理して発表していく子供たち。「では、しっかり考えたことを次の活動につなげていきましょう」と谷口教諭が話し、授業を終えました(写真4参照)。

(写真4)この日の谷口教諭の板書。このように構造化、可視化された板書は、子供がふり返る上での思考を深めるための助けになる。

「今回の全国大会では、京都市の『熟成課題』を見ていただきたい」

写真右より京都市立御所南小学校の鈴木登美代校長、谷口真由教諭。

授業後、まず谷口教諭にこの単元の学習活動や本時、全国大会での授業などについての話を聞きました。

「地域の町づくりについて学ぶ中で、子供たちが学校の近くにある夷川通りという通りを御所南ストリートと呼んでいるのですが…そこにはすてきなところがたくさんあるのに良さがあまり知られていなくて、来客がなかなか増えなくて困っておられる実態を知り、自分たちにも何かできないだろうかと考え、地域と子供たち(学校)が一緒になってより良くしていこうというのが、この単元の学習活動です。最終的には、そういう関わりを通して、自分たちの故郷であるこの町をより大好きになっていってくれたらいいな、と思っています。

今日の授業は、町の方と活動するときにどんなことができるかを考えているところで、10月末から11月にかけて、御所南ストリート(商店街もこの名称を使用)で絵画展のイベントが企画されており、タイアップして実践してみることになっています。11月の全国大会の授業では、この活動をやり終えた後、実際に自分たちが提案したことが町の方にどう伝わったかとか、人が集まったかなどを情報収集して分析し、フィードバックしたものを基に、その後、どうしていくかを考えていくことを見ていただく予定にしています」

こうした単元づくりのベースとなる考え方について、鈴木登美代校長は次のように話します。

「本市の総合学習では、探究のプロセスにおける『課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現』というサイクルを5サイクルで単元構成するように考えており、各サイクルは、発見課題、追究課題、提案課題、熟成課題、発表課題となっています。これまでの総合学習では、何かに取り組んだところで終わることも少なくなかったと思いますが、いったん何かに取り組んでみて(提案課題)、その後で例えば、町の人や専門家の意見も聞いてみて、アンケートなども含めて子供たちが省察し(熟成課題)、さらに改善を加えて再度、イベントならイベントを行う(発表課題)というような学習過程を大事にしているのです。今日の授業はその最初の実践に向けた提案課題の部分で、全国大会では熟成課題の部分を見ていただこうと考えています」

10月末からの地域でのイベントをやってみないとどうなるか分からないところもあり、全国大会当日の授業実践がむずかしい部分もあると思いますが、それについて谷口教諭は笑顔で次のように話します。
「まず自分たちなりに考えたことでやってみるので、実際のイベントでうまくいかないこともあって当たり前だと思います。1回、失敗の経験をすることも含めて大事な経験ですし、そこからどう考えていくか(熟成課題)が重要なところだと思っています」

続けて、鈴木校長は次のように話します。

「失敗も経験し、改善を図ることが社会参画の重要な意味だと思います。これまでは子供だからと許されてきたこともあったと思いますが、実際に社会に出たら社会のルールがあり、思い通りにはいかないこともあります。それを知ることもとても大事なことだと思います。子供にとって、何か1回やって『やった』『できた』というのは、『ほんまもん』の達成感ではないと思うのです。実社会の『ほんまもん』の人やものと関わり、『コケた』『失敗した』『できなかった』から『どうしてなんやろ?』と考えて、できたことからこそ『ほんまもん』の達成感が得られるのだと思います。だからこそ、京都市は『熟成課題』を入れているわけですし、今回の全国大会でもそれを見ていただきたいのです」

「うまくいかないことを経験した後であるからこそ、子供がこちらの想定を超えた考えを言ってくれることもあるわけで、それが大会でお見せできればよいのですが」と谷口教諭。

最後に、鈴木校長は全国大会に向けて次のように話しました。

「大会では、全学年の子供たちが課題に対して、真剣に話し合っている姿を見ていただきたいと思います。また、そうした話合いの言葉は音声で流れていってしまいますから、どの子もしっかりふり返りが書けるように板書を構造化し、対話を可視化していくことにも取り組んでいます。ですから、そのような構造化、可視化された板書についてもぜひ見ていただきたいと思っています」

11月9、10日の京都大会に関する詳細情報は以下をご覧ください。
https://kyoiku.sho.jp/seminar-calendar/date/20231109/

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、10月19日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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