保護者に信頼される学級掲示はどのようにすればよい?<前編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#28】

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教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」
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文部科学省初等中等教育局主任視学官

田村学

先生方のご相談について國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は、保護者会に向けて信頼されるような掲示を整えたいというご質問に対し、基本的な考え方や掲示の方法について説明していただきます。

 新卒の教員です。1学期の保護者会は本当に何が何だか分からないうちに終わった感じで、何も準備ができませんでしたが、2学期の保護者会は少し落ち着いて進められるかなと思っています。その際、学校に来られた保護者から少しでも信頼されるように掲示物を整えたいと思うのですが、掲示物整理のポイントはありますか?。(小学校、20代)

学級担任や子供たちのカラーが反映される掲示がよりよい

 掲示は学習環境の一部であり、学習環境の重要性というものは若い先生にはもちろんのこと、多くの先生方に捉えてほしいと思うところです。学習環境は掲示に限るものではなく、教師自身も重要な学習環境ですし、時間のようなものも重要な環境要素になってくると思います。いずれにしても学校生活において、大半の時間を過ごす教室という場所の雰囲気や快適さを演出する要素として、教室掲示が重要であることは誰しも感じるところではないでしょうか。それと同時に、先生の個性や子供たちのカラーなど、学級の固有性や独自性を演出することができる場ですから、若い先生方がいかに教室の壁面をレイアウトするかとか、いかに掲示物を作成しながら学習の記録を残していくかということは、教室という学びの場の学習環境をデザインする上で大事な着眼点だと思います。

昔から、「居は気を移す」と言われてきたように、快適な場所にいることは人間の安心や安定を演出することになるでしょうし、逆に不安定な状態や乱れた状態になってくれば、そこで暮らす人間の行動も不安定になってくるものです。実際に、ニューヨークの地下鉄では、落書きを清掃し、軽犯罪を取り締まって減らすことで、結果的には重大犯罪の発生件数を大きく減らしました(後に市全体に実施範囲を広げ、成果を上げた)が、それがその実例と言えるものでしょう。

ガラス窓まで、思わず楽しくなるような掲示がされている保育所の側面掲示。

その意味では、教室の重要な環境の一つである掲示物が何もないとか、あるけれども傾いているとか、破れたままになっているという状況が放置されているのは避けたいところです。もちろん、そのような基本的な問題は回避した上で、より望ましい教室掲示をどのように構成していくかについて考えることが必要です。

幼児期から高等学校までの教室を見渡してみると、とりわけ幼児教育に関わる皆さんは掲示物に配慮されていると思います。壁にカラフルで色とりどりの掲示がされているのを誰しも目にしたことがあるはずです。それは、情操教育の一環であり、感情に訴えることを意識したもので、「学習の場だから、机と椅子が並んでいればいい」とか、「掲示は文字が読めるように書かれていればいい」というのとは異なる配慮がなされていると思います。前回、新学期のリスタートの仕方について説明をしたときに、まずは「学校が楽しい」「また明日もみんなと勉強したい」と思えるようにすることが大切だとお話ししましたが、教室掲示にも、そんな楽しい学びの場にしようという、先生の意図が感じられるでしょう。

そう思いながら、幼稚園や保育所から高等学校までの教室を思い起こしてみると、学齢や学校種が上がるにつれて次第に無味乾燥になっているのではないでしょうか。しかし、学びの場の居心地の良さや快適さが用意されているかどうかは学ぶ側の子供たちからすれば大事ですし、とても楽しい場所だなと思えることは大事だと思います。やはり、誰しも汚れている場所よりも、明るく楽しいと思える場にいたいものではないでしょうか。いずれにしても居住空間が人に与える影響は大きいということを踏まえて、掲示について考えていくことにしましょう。

「絶対に前方に掲示してはいけない」と配慮しすぎる必要はない

具体的な掲示の整理の仕方については、学校によって決まりがあったり、学年で足並みを揃える約束事があったりする場合もあると思います。それ自体は悪いとは思いませんが、先に説明した通り、学級担任の個性やクラスの子供たちのカラーが反映される掲示であるほうがよりよいでしょう。ですから学校全体あるいは学年全体で、何から何まで一緒の掲示にはならないほうがよいように思います。

その上で掲示を考えていくときに、まず掲示可能な場所をイメージしてみましょう。教室内の壁は、黒板を含めた正面と背面と窓側ではない側面(+廊下側)の大きく3つが考えられます。側面については、学校によってはオープンスペースになっていて、なくなっている場合もあることでしょう。

この中で、優先順位としては、まず正面をどう作るか、次に背面をどう作るか、そして(ある場合もない場合もありますが)、側面をどう作るかという順序で考えていくのが適切ではないかと思います。

では正面の掲示をどうするかですが、黒板の上の場所が大きなスペースになるわけです。ここは教室の中央であり、いつも子供たちの目に付くところですから、学級目標だったり、自分たちが1年間(あるいは1学期間)を通してめざすスローガンなどを位置付けるのが順当ではないかと思います。以前、カリキュラム・マネジメントについてお話をしたときに、学校教育目標から学級目標や教科学習の単元目標までがつながっていくことが大切だ、ということをお話ししましたが、その学校教育目標をそのクラスの実態に落とし込んだものが学級目標になっているのがよいでしょう。

教室によって活用可能な面は異なってくる。この教室の場合は黒板の上部スペースがわずかしかなく、そこに子供たちが決めたクラスのキャッチフレーズが掲示されている。

ただし、その目標は大人の決めた大人の言葉ではなく、子供たちがイメージできる言葉、子供たちが読んで分かる言葉であることが大事です。ですから学校の教育目標や校内研究の短期目標といった大人の言葉が、子供の言葉にブレイクダウンされていることが大切なのです。学齢によっては、子供たち自身が学校の教育目標や短期目標などを参考にしながら、自分たちで学級目標やクラスのスローガンの文言を決めていくとよいと思います。

その上で、それをどのようにビジュアル化するかという問題があるでしょう。「大きく拡大して貼ればよい」と考えるのではなく、子供たちの関わりが見て分かりやすい作り方にするほうがよいのではないでしょうか。例えば、子供たち一人一人の似顔絵が貼られた所に、シンボリックな学級目標が言語化されて貼られているとか、子供たち一人一人の手形が貼られていて、そこにクラスのスローガンがあるというようにデザインしてみるとよいだろうと思います。そうすると、自分たち全員の学級の目標やスローガンだということが一目で分かりますし、対話を通して作り上げたなら、それも感じられますし、そこに自分自身の居場所があることも感じられるでしょう。そういったものが、前方のセンターにはあるのがよいのではないでしょうか。

子供たちが決めたクラスの名前を掲示した例。子供たちが学級の名前に合わせ、自分自身を花に例えて描いたイラストを添えている。

ちなみにここは目に付く場所ですから、最優先となるのは色調や文字がゴテゴテしていないことです。以前、ユニバーサルデザインが広がり始めた頃には、教室の正面にはノイズになるものを一切貼らないほうがよいと言われたことがありましたし、黒板の上には掲示をせず、黒板の両サイドはカーテンで隠すということが行われたこともありました。

学級の実態に応じて、教室前面の掲示を極力避けた例。

ユニバーサルデザインは、多様な子供の違いにいかに配慮し、対応するかということで、必要なものではありますが、そこまで過剰に考えすぎることはないと思います。もちろん常に目に付く場所ですし、多様な子供の認知特性に対応するということを考えれば、情報量を抑制するほうがよいと思いますから、先に説明した通り、色調や文字、デザインがごちゃごちゃしているのは避けたいところです。しかし、それも子供たちの実態によるものであり、当然、強く反応してしまうような特性をもつ子がいれば、配慮しなければなりませんが、「絶対に前方に掲示してはいけない」と(子供の実態を抜きにして)配慮しすぎる必要はないと思います。むしろ、過剰に考えて掲示はしないとか、黒い文字だけとなると、教室という楽しく学ぶはずの場所の彩りを削いでしまうのではないでしょうか。

ちなみに前面の黒板の横には学習する上で共有したい、見方・考え方を掲示しているような実践例もある。

今回は、掲示を行っていく前提として考えておきたいことや、掲示の考え方、前方の掲示などについて説明していただきました。次回は、教室の背面や側面の掲示について「快答」していただきます。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、9月21日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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