連鎖する「愛着障害」。保護者へのアプローチをしていこう

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マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
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元山形県公立学校教頭

山田隆弘

世の中の多くの人は『愛着障害』をもっていると考えられます。教室での『愛着障害』が疑われる児童も増えてきました。その表れ方が特に著しい場合は、家庭における保護者の児童との関わり方、養育の経過、児童の心理などを細かに見る必要があります。すると、保護者自身も『愛着障害』なのではないかと考えられるケースもあります。そんな場合、保護者へどうアプローチしていけばいいでしょうか。

【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

1 以前と変わってきた教室風景、そして保護者

教科指導や補教などで教室に出向くと、最近よく見られるようになった児童の姿があります。落ち着きのない子、離席する子、反発する子、担任の持ち物をさわる子、物を投げる子、突然切れる子、教科書を広げようとしない子…などです。しかも特筆すべきは、担当する教員が変わると異なる態度をとる児童が多い、ということです。
発達障害が疑われる児童は、環境が違っても同じような行動をとるし、独特のこだわりがあって、それが叶わなければ暴れるなど、特定の傾向や特徴があります。
そこで、どうやら発達障害ではなさそうだ、とは考えられるのですが、その行動の原因が分からないケースがしばしばあります。
こういった児童の保護者さんとお話しすると、子育てに難しさを感じていることが非常に多いです。
子供に、どう対応すればいいのか分からない、と異口同音に訴えます。
そして、常にイライラや不安な気持ちをもつ児童の保護者もまた、実は同じような特性をもっていることが多いようです。
学校として、そういった児童にどう対応するかだけでなく、保護者の心のケアもしていかなければならないのではないでしょうか?

2 まったく突発的な怒り出し

こんな事例がありました。
就学時健診を実施したときのことです。ある児童が、知能検査の問題の解き方が理解できず、うまく実施できませんでした。
個別対応が必要となり、担当者が丁寧に児童に説明したのですが、うまくいきませんでした。そこで、保護者Aさんを別室にお呼びし、面談をしながら家庭での様子などを聞くことにしました。最初は問題なく受け答えをしていたAさんですが、1分くらいしてから突然、

Aさん「別室に呼ぶとは何事ですか。 差別するのですか。呼ばれた人間の気持ちが分かりますか!」
と言葉を荒らげ、感情的になりました。
わたし「いえいえ、そのようなことではなく、お子さんのご家庭での様子や、子育ての中で困ったことなどがありましたら、ご相談に乗りたいと思いまして、短い時間ですがおいでいただいたわけです」
Aさん「うちの子に問題があると言うのですか。わたしの子育てが悪いとでも言うのですか!」
わたし「そんなことは一切ありません。ちょっと心配な様子がありましたので、お母さんのお話を伺いたいと思っただけですよ」
こんなやりとりがずっと続き、
Aさん「分かりました。この学校にはうちの子を入れませんから!」

という言葉を最後に帰っていきました。自分を批判され、否定されたとお感じになったようです。

その後、お子さんが在籍している保育園に様子を伺いに行きました。
園長せんせいがおっしゃるには、Aさんとのやりとりの記録が分厚いファイル1冊分にもなるほど、対応に大変苦慮していたとのこと。また、意に沿わないことがあると、市の担当部局や県の子育て関連部局にまで電話して激しく抗議することが、何度もあったと教えてくれました。
さらにAさんは出産後、我が子に愛情を注ぐことができないと訴え、数か月の間、我が子を児童福祉施設に預けていた、という事実も分かりました。
Aさんはずっと、同じ地域で暮らしてきた人でした。同僚に、小学生時代のAさんを担任したことがあるという方がいたので、Aさんの児童期のことを詳しく聞いてみました。
Aさんのお母さんは仕事が忙しく、Aさんとしっかり向き合うことができない状況であったということでした。
Aさんは親からの愛情を十分に与えられず、育ってきたのです。
そのため、我が子にも同じように愛情をかけることができず、我が子と向き合うこともできずに、全て我が子の在籍する施設や機関のせいにしてきたのです。
子供の愛し方が分からないから、クレームを言うことが我が子を守ることだと思っていたようです。つまり、子育てをする親という、モデル図のイメージをもたず、愛情に立脚した心の安定がないため、攻撃性が出てきた、ということが判明しました。

3 保護者へのアプローチ

保護者を、まるっきり違う人間に変えることはできませんが、寄り添うことで少しずつ、子供との関係性を改善していくことはできます。
例えば、わたしは保護者に対してこんなアプローチをしてきました。

① 児童ができたことを報告
該当児童が学校生活の中で、「○○ができるようになった」ということをお知らせします。できなかったことができるようになった、ということはもちろんですが、「より上手にできるようになった」という、小さな進歩でも十分です。他の子にとって、取るに足らないことかもしれません。しかし、愛着障害をもつ保護者は、そんな小さなことにも気付けなかったり、我が子の姿に喜びを見出すすべを知らなかったりするわけです。あなたが見本となって、子供の成長をいかに見守り、いかに喜びを見出すかを示してあげましょう。

② 褒め方を具体的に示す
その子が良い行動をしたときは「こんなふうに認めて褒めました」と、具体的に褒め方を示します。大人の行動すべきモデルをもち得ていない保護者さんには、こういったアプローチは必須です。
 愛着障害に関しては、アイ(I)メッセージより、ユー(YOU)メッセージが良いとされています。「わたしはうれしいよ」と言うより、「○○さんは、これができてうれしかったんだよね。その気持ちはよく分かるよ」と言うほうが効果的です。
 「しっかり」「ちゃんと」「きちんと」といった、主観によって基準が異なるような副詞は使わないようにします。どんなことを、どんなふうにしたからよかったね、と、客観的に分かりやすく具体的な言葉にして評価してあげることを強く意識してもらいましょう。
 その場ですぐ褒めることを心がけてもらいます。さっきやったこと、前にできたことなどをもち出してきても、あまり効果がないことを伝えましょう。

③ その子とだけの時間をとることを依頼
児童に年下の兄弟姉妹がいる場合、どうしても保護者は小さい子のほうを構いがちです。しかし、これではいけません。保護者にお願いして、その子とだけの時間をとってもらいます。
例えば、学童保育や習い事の送迎時間を工夫して、少しでもいいから、その子とだけ向き合う時間を捻出する。日常で必ず配慮してもらうように依頼していきます。

4 『子育て相談会』の実施

勤務校では年に1回、「子育て相談」として学校のスタッフと気軽に相談できる機会を設けています。
前期の連絡表(通信簿)配付の時期に、まずは担任と保護者が簡単な面談をします。連絡表を渡しながら、児童の学習や生活のようすをお伝えします。
そして、その後に、希望する保護者に残ってもらい、担任外のスタッフが個別相談を受ける時間をとるのです。
希望者からは、前もって子育てに関する悩みや質問をいただいておきます。
それを精査して、管理職が個別相談担当を決めます。
「この相談内容なら、○○せんせいが得意そうだ」
などと、当該児童の担任ではなく、管理職や学級外職員が指名されていきます。経験豊かなせんせいが、客観的に、一歩引いた視点から悩みを見ることができるからです。
担当になった教職員は、持論を披露するのではなく、保護者の悩みをじっくり聴く、というスタンスをとります。
さらに、この相談会を「ご縁の始まり」と捉え、相談時間の後も子育てサポーターとなって、継続的に電話連絡などをしながら、児童のようすを聞いたり、お悩み事項が改善したかを聞いたりなどして、アフターフォローをしていきます。
つまり保護者が孤立しないように、できる限り手を差し伸べていくのです。
決して保護者の子育てを批判したり、否定的な見解を示したりしてはいけません。子育ての苦労を伺い、労うということを第一の目的にしていきたいです。
そうです、せんせいが、保護者さんのキーパーソンになるわけです。そして学校が、保護者さんの「安全基地」になることができれば、なおすばらしいことです。
ちなみに、保護者自身の悩みについては、担任より学級外スタッフのほうが、より話されやすいというデータがあります。

このように学校マネジメントの視点からも体制づくりをすることが必要です。

児童自身の状態だけでなく、保護者の子育てする態度、学校での支援体制などで、児童一人一人の対応はまったく違うものになります。学校でどんな支援体制をとることができるかを検討し、関連の機関や施設などとも連携し、保護者さんを支えていかなければならないです。学校は教育機関ですが、現代では福祉機関の性質も色濃くなってきました。根本的な学校改革が必要な時代なのかもしれません。

イラスト/したらみ

【参考図書】
回避性愛着障害 岡田尊司/光文社
愛着障害 岡田尊司/光文社
愛着崩壊 子どもを愛せない大人たち 岡田尊司/KADOKAWA
発達障害と呼ばないで 岡田尊司/幻冬舎
脳を傷つけない子育て:マンガですっきりわかる 友田明美/河出書房新社
親の脳を癒せば子どもの脳は変わる 友田明美/NHK出版

編集部より

「愛着障害」に関して、弊社主催「9月開催オンライン講座『愛着障害のこどもを育てるアプローチ』全2回(講師:米澤好史×川上康則×藤原友和)」を開催いたします。 「愛着障害」の第一人者米澤好史教授と現場の実践家2名による講座です。ぜひ御受講ください。
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山田隆弘先生

山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。

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