思考ツールの活用法を教えてください<後編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#25】
前回は、「思考ツール」と活用場面、そしてツール自体がもつユニバーサルデザイン的な特徴について説明していただきました。今回は、具体的な「思考ツール」と活用場面、そして学習指導要領と「思考スキル」「思考ツール」の関係などについて説明していただきます。
私はまだ授業で思考ツールを活用したことがありませんが、子供の論理的な思考力を育むためには、思考ツールを活用することがとても効果的だと先輩に聞きました。その先輩から田村先生は思考ツールの専門家であると伺ったのですが、どんな教科のどんな場面でどのように使うと効果的なのか、活用の仕方をぜひ教えてください。(20代、小学校)
比較的よく活用される「思考ツール」は「ウェビングマップ」と「ピラミッドチャート」
前回、教科では入力情報の性質が限定される(=固有性がある)というお話をしましたが、教科を超えて使いやすい教科横断的で汎用的な「思考スキル」や「思考ツール」もあります。例えば、「比較する」「分類する」「関連付ける」「多面的に見る」などの「思考スキル」は、比較的どの教科にも関連が深いのではないでしょうか。対応する「思考ツール」で言えば、「比較する」や「分類する」ならば「ベン図」が使えますし、「関連付ける」なら「ウェビングマップ」でしょうし、「多面的に見る」のであれば「二次元表」でしょう。
それから、頻繁に授業で活用している学校の実践を見てみると、「構造化する」「具体化する(上から下)」「抽象化する(下から上)」などの「ピラミッドチャート」も使い勝手がよいようです。ちなみに、この「ピラミッドチャート」と先ほどの「ウェビングマップ」は、大きな思考の2類形の象徴のようなものになっています。「ピラミッドチャート」のようにいくつかの知識をまとめて抽象化したり、抽象的な知識を具体化していったりする垂直思考のロジカルシンキングに対し、「ウェビングマップ」は水平思考で拡散的な思考であり、ラテラルシンキングの象徴のようなものです。ごく簡単に言えば、まとめていくタイプと広げていくタイプであり、思考の傾向として分かりやすく使い勝手が良いのだと思います。つまり、期待する思考が表われてくる局面が多いため、比較的よく活用される「思考ツール」がこの2つなのです。
このような「思考ツール」を、これまで活用していない先生が使ってみようと思う場合には、例えば「比較する」=「ベン図」などから使ってみるとよいかもしれません。いろんな使い方がありますが、まずは朝の帯学習のような時間でゲーム的に導入してみても楽しいと思います。例えば、ベン図の片方に「りんご」を入れて、もう片方に「バナナ」を入れて、比較しながら片方だけに言えることと、共通することを出させていくようなゲームから始めてみてはいかがでしょうか。共通することは、「果物」とか「スーパーで売られている」というように遊び感覚で楽しみながら、「思考ツール」の使い方に慣れていくわけです。例えば、「ウェビングマップ」であれば、真ん中に「野菜」とか「動物」などと置いて、広げていってもよいでしょうし、季節を考慮しながら、「夏休み」とか「お正月」と入れてもおもしろいと思います。
現行学習指導要領ではより明確になった「思考スキル」
そうやって導入をし始めてみると、学校のカリキュラムとして体系的にどう整理をするかという問題が出てくるでしょう。小学校で、1年生から6年生までの「思考スキル」を考えたとき、「1年生で『多面的に考えましょう』と言われてもむずかしいよね」という話が出てくるかもしれません。そうすると、「1年生なら、『比較する』くらいならできそうだね」という話が出てきて、「2年生ならば、『分類する』はできそうかな。3年生、4年生くらいから『関連付ける』を入れようか…」というように、子供たちの発達段階を考えながら各学校で整理をすることはできるでしょう。
これまで学習指導要領では「思考スキル」に当たる「比較する」「分類する」といったものが、教科ごとにバラバラに示されていました。もちろん、「思考スキル」」などとは言われていなかったわけですが、それが現行学習指導要領ではより明確になっています。総合的な学習の時間では、「考えるための技法」として明示され、総合的な学習の時間の解説ではそのうちの10個が示されたわけです(資料参照)。これによって、「思考スキル」自体はかなり明確になりました。それをさらに進めて、各教科横並びで整理して、1、2年生はこの「思考スキル」で、3、4年生はこの「思考スキル」で…と整理することも考えられるかもしれません。
【資料】学習指導要領解説 総合的な学習の時間編より
第5章 総合的な学習の時間の指導計画の作成
第3節 各学校が定める内容とは
4 考えるための技法の活用
⑵ 考えるための技法の例と活用の仕方
○順序付ける
・複数の対象について、ある視点や条件に沿って対象を並び替える。
○比較する
・複数の対象について、ある視点から共通点や相違点を明らかにする。
○分類する
・複数の対象について、ある視点から共通点のあるもの同士をまとめる。
○関連付ける
・複数の対象がどのような関係にあるかを見付ける。
・ある対象に関係するものを見付けて増やしていく。
○多面的に見る・多角的に見る
・対象のもつ複数の性質に着目したり、対象を異なる複数の角度から捉えたりする。
○理由付ける(原因や根拠を見付ける)
・対象の理由や原因、根拠を見付けたり予想したりする。
○見通す(結果を予想する)
・見通しを立てる。物事の結果を予想する。
○具体化する(個別化する,分解する)
・対象に関する上位概念・規則に当てはまる具体例を挙げたり、対象を構 成する下位概念や要素に分けたりする。
○抽象化する(一般化する,統合する)
・対象に関する上位概念や法則を挙げたり,複数の対象を一つにまとめたりする。
○構造化する
・考えを構造的(網構造・層構造など)に整理する。
例えば、国語科でも社会科でも算数科でも生活科でもメインとなる「思考スキル」を揃えることができれば、より教科横断的になるでしょう。言葉に対しても、数字に対しても、社会事象や自然事象に関しても同じ「思考スキル」を位置付けることができれば、汎用性も高まります。今のところ、学習指導要領としては統一的には整理されておらず、教科ごとになっているわけですが、今後検討してもよいのかもしれません。
「思考ツール」の活用で、圧倒的に「主体的·対話的で深い学び」になる
先に、「考えるための技法」が学習指導要領に明示されてきたことを説明しました。「思考スキル」を意識して学習指導要領の各教科等の記述を読んでいくと、しっかり書かれていることが分かります。例えば、理科は以前から3年生は「比較」で、4年生は「関係付け」…と言われてきましたし、国語科ならば、低学年は「順序立てて」と書いてあります。算数科ならば、1年生で「関係付け」「比べ方」とありますし、社会科では高学年の目標に、「多角的に考える」とあります。そのように見ていくと、いろんな教科に示されていることが分かりますから、「思考ツール」を意図的に活用していく場面も見えてくることでしょう。
そのように学習指導要領を見直してみると、より体系化され、より自覚的に実施することが可能になるのではないでしょうか。だからこそ、学習指導要領を「思考スキル」という視点で読み直してみて、意図的に「思考ツール」を活用していくことが、結果的には子供たちの思考力育成につながる可能性を高めていくのです。
前回の内容も含めてまとめると、「思考ツール」を活用すると、授業は極めてユニバーサルデザイン的になるので、授業自体が活性化しますし、圧倒的に「主体的·対話的で深い学び」を実現することになると思います。子供の音声認識、映像認識、体感覚による認識のそれぞれに対応できるわけで、どの子も参加しやすいし、発話のチャンスが広がります。しかも紙などの上に見える化された情報を意図的な形で処理するため、ある程度、期待する方向に情報が処理されるので深くなっていくわけです。それは、ただしゃべるのとは異なり、自ずと意図する方向の学びが生まれ、期待する力が育まれる可能性が高まると思います。そして、それは子供たちにとって、より理解が深まったり、新しい考えが生まれたりすることになるわけで、「おもしろい」学びになるということです。
このような「思考ツール」を活用した学びは、紙やホワイトボードでもできますが、学習ソフトの中にも入っており、デジタルでも活用できます。そのため、時間軸で蓄積しながら学習したり、相手と話し合ったりすることもできるわけで、さらに学びの可能性が広がるでしょう。学校教育におけるICT活用の状況分析を見ると、話合いで活用しきれていないというデータが出ています。その意味では、共有化されたジャムボード上の「思考ツール」を実際に操作しながら対話をしていくというのは、とても分かりやすくて良い方法ではないでしょうか。
繰り返しになりますが、すべての子供が楽しく学びに向かえるようになり、対話が豊かに広がり、期待する深い学びが実現するようになるすぐれものが「思考ツール」です。個人で使う場面もあれば、複数人で使う場面もあれば、クラス全体で使う場面もあり、どんな学習形態にも対応が可能ですので、ぜひ一度、使ってみてください。若い先生でも、一度使ってみれば、一気に手応えを感じられるはずだと思います。
【田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、8月31日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之
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