【木村泰子の「学びは楽しい」#18】自分の言葉で語れる子どもを育てていますか?

連載
木村泰子の「学びは楽しい」【毎月22日更新】

大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子

子どもたちが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方について、木村泰子先生がアドバイスする連載第18回目。今回は、子どもたちが自分の言葉で語れるようになるために、教師はどうすればよいかについて考えていきます。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】

執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子

イラスト/石川えりこ

「研修観」の転換にチャレンジ

みなさん、少しはリフレッシュできましたか。存分に遊んで、普段に経験のできないことを楽しむことができていたらいいなあと思います。

私の夏は研修の毎日でした。全国の先生方との学びを通して「研修観」の転換にチャレンジしました。これまでの講演や研修は、ともすると講師の講話を一方的に聞いて感想を書いて終わりという形式が多かったように思います。ところが、「主体的・対話的・深い学び」を実現する授業をつくる先生たちとの研修です。学びの主語は先生たちです。どんなに広い会場でもまずは対話をツールに研修をしようと試みました。

なかなかうまくはいかないのですが、一方的に伝える研修とは比べようもないくらい私自身は楽しく学べました。でも、先生たちは困っておられたかもしれませんね。一つの例を紹介します。

対話をするには「問い」が必要です。私が問いを出すのですが、一向に先生たちは語らないのです。これまでも感じていたことですが、ふだん子どもには「自分の考えを」と言っている先生たちが、自分たちの研修の場では全く自分の考えを伝えようとしないのです。

そこで、「誰もが語れない。この原因はどこにあると思いますか?」と問いかけると、みなさんそれぞれにしっかり考えておられる表情は痛いほど伝わるのですが、それを言葉にしないのです。なぜ言葉にしないのかをみんなで考えようと提案をしました。そこで、出てきたみなさんの言葉です。

「恥ずかしい」
「自分の考えが間違っているかもしれない」
「こんなことを言ったら周りの人にどう思われるか不安だ」
「たくさんの人の前で自分の考えを言った経験がない」
「自分に自信がない」
「目立ちたくない」

みなさん、どうですか? 教室での子どもたちと同じじゃないですか。「対話」をツールに授業をつくっていかなければならない先生自身が、まずは対話に慣れなくっちゃ!って会場のみなさんと共有しました。

自分の言葉で語る

「すべての子どもの学びを保障する」ために大空小の学校全体で大切にしていたことが、「自分の言葉で語る」ことでした。自分の言葉は自分の中にしかありません。思ったことをつぶやくことから大切にしていきました。

もちろん、困っている子がたくさん転校してきた学校なので、「死ね!」って言うような子どもも当たり前にいます。「死ねなんて言ってはいけません」と指導する前に、「どうしたら『死ね』って言わなくてすむんだろう」と、その子の周りにいる人たちが想像することが大事なのですね。その子は「死ね」って言えなくなったら学校に来られなくなるかもしれないのですから。

その時は「死ね」って言ってたその子も、周りの環境が豊かになるにつれて自分からそんな言葉は言わなくなります。言う必要がなくなるのです。そのためにも、先生や学校が正解をもっていることはとても危険です。

正解のない問いを問い続けるために

誰一人同じことを考える人はいないことを、授業の中で常に先生が語ることです。みんな違っていることが当たり前だということを意図的に語るのです。誰の言葉も否定しないで、「どうしてそう思うのか教えて?」と問いかければ、対話が成立していきます。

教職課程をとっている学生たちとの授業でも同様のことを感じます。自分の言葉で語れないのです。原因を紐解いていくと、先生たちの研修と同様の言葉が語られます。「同調圧力」を避けてきた結果なのかもしれませんね。

教科学習はあくまでも手段です。授業の目的は、すべての子どもが「自分の言葉で語る」事実をつくることです。ぜひ、2学期からあらゆる教科の学習を通して、すべての子どもが自分の言葉で語っているだろうかと自分に問いかけながら子どもと学びませんか。

「授業観」の転換にチャレンジを

2学期からは先生たちも「授業観」の転換にチャレンジしませんか。難しいことを考えないで、授業の中で子どもが自分の言葉で語っているだろうか、そのためには授業の中で子どもにどれだけ問いかけている自分がいるかをメタ認知してみるのも面白いですよ。他者の言葉を否定しない環境をつくることができたら、誰もが自分の言葉を語り始めますよ。

対話は人と人をつなぐツールです。

子どもと子どもがつながれば、「自殺・不登校・いじめ」過去最多などの言葉は生まれません。

ぜひ、2学期から「授業観」の転換に、できることからチャレンジしませんか!

〇授業の目的は、すべての子どもが「自分の言葉で語る」事実をつくること。授業の中で、子どもたちが自分の言葉で語っているか、自分が子どもにどれだけ問いかけているかを自分自身に問いかけていこう。
〇他者の言葉を否定しない環境をつくれば、誰もが自分の言葉を語り始める。教師は、誰の言葉も否定せず、「みんな違っていることが当たり前」ということを意図的に子どもたちに語っていこう。

 【関連記事はコチラ】
【木村泰子の「学びは楽しい」#17】評価観を転換しましょう
【木村泰子の「学びは楽しい」#16】「きまり」を守らせることより大切なことがありませんか?
【木村泰子の「学びは楽しい」#15】休み時間の子どもの様子を見ていますか?

※木村泰子先生へのメッセージを募集しております。 エッセイへのご感想、教職に関して感じている悩み、木村先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら、下記よりお寄せください(アンケートフォームに移ります)。

 

きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
木村泰子の「学びは楽しい」【毎月22日更新】

教師の学びの記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました