「日本生活科・総合的学習教育学会」全国大会神奈川県大会レポート【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」特別版 前編】
前回の連載記事の最後に話が出ましたが、去る6月17、18日の両日、日本生活科・総合的学習教育学会の全国大会神奈川県大会が開催されました。そこで今回は、連載の特別編として、前半でこの神奈川県大会のレポートを行い、後半では日本生活科・総合的学習教育学会の会長である田村学教授のお話を紹介していきたいと思います。
1年生の学校探検の授業を参観
この大会は神奈川県相模原市立谷口台小学校や隣接する相模女子大学など7つの施設で開催され、幼保小中高での授業公開や実践研究発表、大学における専門家の研究発表などが行われ、オンライン参加も含め、1400名もの参加者が集いました。
大会1日目は、通常の1時間目からの授業公開でスタートします。保幼~高校までの全校種で14もの授業が公開されましたが、参加者多数が見込まれるためオンライン公開を行った授業もありました。
取材者はオンライン公開も行った、谷口台小学校1年2組の「めいたんてい○○~見てみよう! 聞いてみよう! やってみよう!」という学校探検の授業を参観しました。授業冒頭、担任の山崎善陽教諭は、「ここどこだっけ?」と子供たちに問いかけます。子供たちはそれぞれが前時までに探検して調べ、紹介文やクイズなどを画用紙に書いて(描いて)きている学校内の施設が電子黒板に表示されると、「保健室!」「事務室!」「図書室!」など、映し出された場所を笑顔で答えていきます。
そこで、子供たちに問いかけながら意見を取り入れて、「友達ととっておきの発見を伝え合って、学校ともっと仲良くなろう」という学習のめあてを設定し、全員で読み、さらに話す人、聞く人のめあても確認をします。
そこから「じゃあ、いきなり発表する?」と投げかけると、「ちょっと心配」と子供たち。そこで、友達同士さらには授業参観の先生方を対象に練習をしてから、発表に入っていく山崎教諭。
発表者のある子供は保健室の前に掲示された真っ赤な汗をかいた顔のマークを示しながら、「なぜ赤のニコちゃんマークでしょうか?」と問題を出し、「1、保健のA先生の気分。2、みんなの健康のため。3、A先生の好きな色だから」と選択肢を示します(写真1参照)。すると、多くの子供が2だと答えます。「正解は、2の『みんなの健康のため』です。赤いニコちゃんマークを貼っていて、そのときには外へは行けません」と、解答と説明をしていきます。それについて関連する意見や質問を受け付けていく山崎教諭。子供たちの間から、「赤いマークのときに外に出ると、熱中症になっちゃう」といった意見も出てきます。さらに押さえたいことについては、「みんなって誰?」と言うように問い返しを入れ、「1年生から6年生まで!」と子供たちの言葉を引き出し、深めていくのでした。
元文部科学省視学官·嶋野道弘先生の講評
1時間目同様に2時間目も14の授業が行われ、それが終わると3時間目の時間から昼休みまで、各授業についての研究協議が行われます。取材者は、1時間目に行われた、前記の1年2組の授業についての協議を参観しました。この協議では、まず授業者である山崎教諭が自身の授業をふり返り、それを基に近隣の参加者同士でグループ協議を行った後、授業者に対する質問を出していきます。
「板書で色分けがなされていて、分かりやすかったが、何を考えてあの色に分けたのですか?」との質問が出ます。
それに対して山崎教諭は、「学習指導要領の内容の⑴ (~学校での生活は様々な人や施設と関わっていることが分かり~)を、どうやったら可視化できるか考えた」と説明します。
また、ICTの活用がうまくできないという質問者が「どうやってICTと共存するか?」と問うと、山崎教諭は「自分も悩んだが、今回は自分たちで気付いたことは絵にしようと考えた」と話し、例えば、保健室前のニコちゃんマークのような、実物が必要なものは写真にしたことを話します。
時間いっぱい質問が続いていきますが、最後は元文部科学省初等中等教育局視学官であり、元文教大学教授の嶋野道弘先生が講評。嶋野先生は、質問事項とも関わる子供の体験を絵などに描かせることの意義について話します。
「子供たちは同じものを見ても、それぞれ大きく描いたり、小さく描いたりします。絵は心象表現」と説明し、「写真は写実のものであり、ニコちゃんマークのようなものは絵で描いたらどうなるでしょうか?」と話します。そして、「絵と写真の特徴を使い分けたりうまく噛み合わせたりすることが大事。絵ならば子供の内面に入っていける」と説明します(写真2参照)。
そして、「授業者の山崎さんは子供の世界に入れる人」と評価し、子供の選択肢の中にあった、『A先生の気分』や『A先生の好きな色だから』といった項目は子供の心の中にあるもので、その気持ちを否定しない姿勢は生活科の教師に必要だ、と話します。
さらに、1年生のスタートアップの大事なポイントとして「安心」「発揮」「自立」を挙げる嶋野先生。「安心」と「発揮」は意識されている場合が多いが、できれば「自立」もキーワードとして出してもらいたいと話します。
それに加え、子供の「体験と表現を、問いで機能的につなぐことが大事」だと話し、「これまでの教育は答えを出せるかどうか、絶対解を出せるかどうかだったが、実社会には絶対解はほとんどありません。あるのは最適解、納得解。そのためには問いでつなぐことが必要。これからの教育は、問いを出せるかどうかです」と話しました。
※
1日目の午後は、前半と後半で2種類の研究発表が続きます。まず、前半は自由研究発表で相模女子大学を中心に31のグループに分かれ、それぞれのグループでは4つの研究発表が行われました。続いて、後半は7つの会場に分かれ、課題別研究発表が行われました。
2日目は、会場を相模女子大学の大ホールに移し、まず大会の開会行事を行った後、今回の大会をリードしてきた大会研究部長の荒木昭人教諭が、神奈川大会の取組について分かりやすく概説し、ふり返ります。
その後、田村学教授がコーディネーターとなり、鹿毛雅治教授(慶應義塾大学)、小島亜華里特任准教授(奈良教育大学)、青木博子園長(新潟市立沼垂幼稚園)のお三方をシンポジストに迎えて、「問いをもち協働的に探究する子供の姿から教育の未来を」というテーマで、シンポジウムが開かれました。この内容の概要については、次回、田村学教授に解説していただきます。
【田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、7月6日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之
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