学級担任が考えておくべきカリマネとは? 後編【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#18】

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教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」

國學院大學人間開発学部教授

田村学
学級担任が考えておくべきカリマネとは? 後編【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#18】

先生方のご相談について、國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回も、学級担任という立場の先生が考えておくべきカリキュラム・マネジメントについて説明していただきます。

Q12 本校の校長先生は、カリキュラム・マネジメントの必要性についてよく話をされています。まずは学校全体としてカリキュラム・マネジメントに取り組むことが必要なのだと思いますが、まだ経験の少ない私でも学級担任として考えておくべきカリキュラム・マネジメントとはどのようなものでしょうか?(小学校、20代)

目標や重点に合わせて、いかに柔軟かつ可変的にカリキュラムをつくるか

 前回、若手の先生が考えるべきカリキュラム・マネジメント(以下、カリマネ)として、学校教育目標(を資質・能力にブレイクダウンしたもの)を基にして、年間指導計画の中で、重点となる単元や関連単元を考えていくことだとお話ししました。その重点単元や関連単元が明確になったならば、そこに軽重を付けていくことが大切です。

学校の授業時数等は学習指導要領上、35週で1000時間程度の授業時数となっているわけですが、現実には40週程度で1100時間程度の時数があるだろうと思います。ですから、その余裕がある時間で重点単元には時数を増やし、教材や学習の過程を工夫したりしてみるなど、めざす目標を考えた上で軽重を考えていくとよいでしょう(資料参照)。

【資料】文部科学省は「カリキュラム・マネジメントの手引き」として、各自治体や各学校のカリマネの実例を紹介している。この資料は大分県教育委員会作成資料の一部で、当該年度重点となる資質・能力を意識しながら単元の編成がなされている事例。
【資料】文部科学省は「カリキュラム・マネジメントの手引き」として、各自治体や各学校のカリマネの実例を紹介している。この資料は大分県教育委員会作成資料の一部で、当該年度重点となる資質・能力を意識しながら単元の編成がなされている事例。

やはり、目標や重点に合わせていかに柔軟かつ可変的にカリキュラムをつくっていけるかが重要です。ただし、すべてをオリジナルにしていくのは大変ですから、日本のすばらしい教科書を土台に置きながら、とはいえ、そのままトレースするのではなく、若干のアレンジを加えていけばよいでしょう。

ただし、アレンジの仕方が担任一人一人によって異なるとか、「私はこれが好きだから、これをやる」というように個人の偏った思いだけでアレンジするということになっては、公教育としては困ります。ですから、そのときによって立つべきものを明確にしておくことが必要です。それは現在の子供の実態(スタート)と、その子供たちを育てていくための学校教育目標(ゴール)ということですね。場合によっては、その間に教育委員会の方針などが関わってくる場合もあると思いますが、子供の実態と学校教育目標を基にした短期目標ならば、誰も異論を挟むところはないでしょう。そして、「教育目標の実現のために、ここはこうしましょう」と言うことで、どの先生もある程度、方針が揃ってくるわけです。そうやって、組織が1つの方針の下、同じ方向に向かって取り組めるならば成果が出やすくなってきます。そのように取り組むことで子供たちが変わってくると、また先生方はがんばれるということになるわけです。

重要なポイントは、「主体的・対話的で深い学び」の実現を通した資質・能力の育成なのですが、それには両輪があって、1つは授業改善であり、1つはカリマネだと思います。この両者がうまく噛み合えばパワーが凝集されるということです。ですから、学校のトップリーダーはそれを進めやすくすればするほど、成果が上がる可能性が高まります(上の資料参照)。具体的には、前回説明をしたように学校教育目標を資質・能力へとブレイクダウンしていくようなことです。それについては、各学校のトップリーダーが考えてある程度の方針を示す必要があることだと思いますし、今回質問をされた若い先生が過剰に意識する必要はないことだと思います。もちろん将来、組織運営にも関わることを考えて知っておくことは必要ですが。

教師ならば誰もが、カリマネという意識をもっていないといけない

さて、ここまでの話を読んでくると、現代の教育に関わる以上、教師ならば誰もが、カリマネという意識をもっていないといけないことが分かるだろうと思います。しかし、現実にどれほどの人がカリマネを意識し、カリキュラム・デザインまで考えているかというと、その割合は少ないように思います。

それは、これまで日本ではカリキュラム研究が成熟しきれなかった部分があったからではないでしょうか。批判の意味で言っているのではなく、現実に日本の教科書会社は優秀であり、教科書が良質なものであったために、教師が自らカリキュラムについて考える必要があまりなかったということがあったと思います。学習指導要領というナショナルスタンダードを具体的な教材に落とし込んだ教科書を、配列された単元の順番にやっていれば、一定の成果を出すことができたのです。

それを少し見つめ直そうという動きが出てきたのが、戦後の初期の社会科で「地域教材を使おう」というものです。そうした動きの中でやがて生活科が誕生して、子供を中心とした学校固有のカリキュラムをつくり始めました。さらにその仕上げとして、総合的な学習の時間(以下、総合学習)が誕生し、平成20年改訂版の学習指導要領で、総合学習の目標も内容も各学校が定めるとしました。それによって、各学校がカリキュラムをクリエイトし、自前でオリジナリティのあるものをつくることになってきたわけです。しかし、それをどういう構造で考えればよいかとか、どういう手順でやればよいかということが十二分に研究され、現場で共有されてきているかというと、まだ十分ではないのではないでしょうか。

それについては、カリキュラム研究のさらなる深化に期待しているところですし、若手の頃から自分たちで生活科や総合学習のカリキュラムをオリジナルでつくってきた、現在の若手や中堅の先生方がトップリーダーになる頃には、状況は大きく変わってくることだろうと期待しています。

先日、6月17、18日に神奈川県で日本生活科・総合的学習教育学会の大会が開催されましたが、力のある実践者の層が厚くなっていると感じました。それはただ実践が良いというだけでなく、その実践の意図やねらい、単元構造やその結果についてロジカルに語れる先生が増えているということです。このような先生方が増えていくことで、カリキュラム研究もさらに進むことでしょうし、学校現場におけるカリマネの質も高まっていくことでしょう(写真参照)。

神奈川県大会で公開された授業の1場面。授業後には協議会が開催され、授業者自身が授業意図を明確化つ論理的に説明していた。
神奈川県大会で公開された授業の1場面。授業後には協議会が開催され、授業者自身が授業意図を明確かつ論理的に説明していた。

今回、質問をされた若い先生にも、ぜひそういったことを意識して、次世代の学校のカリマネをリードしていけるようなトップリーダーになっていただきたいと期待しています。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、6月29日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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