教育現場はChatGPTなど生成系AI(生成AI)とどう向き合うか?
ChatGPTなど生成系AIが現われて、教育現場に衝撃が走りました。肯定派、否定派様々な意見が飛び交っています。しかし、生成系AIは否が応でも私たちの生活に入り込んでくるでしょう。教育現場でどのように生成系AIを取り扱うか。学校教職員向けの総合展「New Education EXPO2023」(内田洋行運営支援)より早稲田大学理工学術院深澤良彰教授の講演のダイジェストをお届けします。
講師/早稲田大学理工学術院教授、大学ICT推進協議会前会長・深澤良彰
目次
生成系AIは何ができて何ができないか
生成系AIは、OpenAIの「ChatGPT」をはじめ、Microsoftの「BingAI」、Googleの「Bard」 などが知られています。これらの生成系AIは、問い合わせに対する回答、文章の要約、文章の翻訳、文章の校正、小説や詩の作成、レポートやメール、クイズなど指示する文書の作成、プログラム(ゲームのプログラミングなど)の作成や修正などが可能です。
しかし、ウェブサイト等の既存のデータにはない、新しい知見に関する記述はできません。生成系AIは、大量の既存のデータの学習を通じ、確率的にもっともらしい文章を作成していくため、ある知識に対する回答を求めた場合、もっともらしい誤回答をします。さらに、著作権侵害や個人情報を侵害している可能性もあるため、細心の注意が必要です。また、生成系AIを利用する場合、機密情報や個人情報などを安易に送信することは危険です。
教育分野における生成系AIの利用
現在、教育分野における生成系AIの利用については、肯定派と否定派に分かれている状況です。
肯定派は、ChatGPTを教育ツールとして積極的に活用する動きがあります。また、学習初期には一定程度の制限が必要であるが、ある段階からは積極的に利用して批判的思考を身に付けることが重要であるとしています。
否定派は、ニューヨーク、シアトル州の公立学校においてChatGPTの宿題への利用を禁止しているという例があります。
日本の大学では、例えば、東京大学では、「学位やレポートについては、学生本人が作成することを前提としているので、生成系AIのみを用いてこれらを作成することはできない。しかし、現状では生成系AIを用いて作成した論文・レポートであることを高精度で見出すことは困難な状況である。したがって、教員はレポートや提出論文の審査に関しては、十分そのことを認識した上で評価を行う必要がある。つまり、論文やレポートなどの書面審査だけでなく、対面でのヒヤリング審査・筆記試験などを組み合わせ、本人が本当にその論文を作成したのかについても吟味する必要が出てくる」(東京大学、教育・情報担当、太田邦史理事・副学長、2023年4月3日)という指針が出されています。
例えば、上智大学では、「リアクションペーパー、レポート、小論文、学位論文等において、本人が作成したものではないので、使用を認めない。使用が確認された場合は、厳格な対応を行う。ただし、教員の許可があればその指示の範囲内で使うことは可とする」(2023年3月27日)という指針が出されています。
今後は、生成系AIを使用する際の指針が必要となります。大学などの指針を参考に、自治体や学校では、指針を決めていくことが喫緊の課題となるでしょう。
教育現場で生成系AIをどう活用するか
AIネイティブの出現により、生成系AIは確実に生活や教育現場に入り込んできます。そのときにどうするか。生成系AIを完全に排除する教育よりも、従来の教育に加えて、AIの強みを生かした教育の検討をする必要があります。生成系AIは何ができ、何ができないのかを教員も学び、考えながら教育現場で活用してはいかがでしょう。また、AIの進化や活用の広がりに対する倫理教育が重要となってきます。
生成系AIの存在を前提とした授業のコツは、
①許容行為と禁止行為とを明確にする。それには、生成系AIがもつ機能についての知識の更新、学生に負けないようにすること。また、学生と共有する。
②生成系AIによる課題の出力を確認する。生成系AIが出す典型的文書の確認をする。
③生成系AIの弱点を突いた課題の提出を求める。それには、一般的な解ではなく、特定の授業の状況に応じた設問を出す。
例えば、「前回の授業の結果を用いて述べよ」「あなたの経験に基づいて議論を展開せよ」など。
④最終成果物以外にも提出物を指示する。例えば、下書きや参考文献などの提出を義務化。最終成果物に至ったプロセスも評価の対象にする。
⑤成果についてのプレゼンやQ&Aを実施する。それによって、パワーポイント化や口頭発表用の作成において、学生の理解度が判明する。
いずれにせよ、教員の「工夫」を欠かすことはできません。
私たち教員は、AIを使って日頃の研究を行い、その成果を生かして勝利するという棋士の藤井聡太氏を見習うとよいと思います。つまり、生成系AIをよく知るということです。また、生成系AIを気軽な相談相手もしくは秘書として使い、最終的な判断は自分で行うことが重要です。教員として生成系AIの「巧言令色」を見破る工夫をすることが大切です。
深澤 良彰(ふかざわ・よしあき)
早稲田大学理工学術院教授、大学ICT推進協議会前会長、早稲田大学オープンソースソフトウェア研究所所長、工学博士
静岡県立静岡高等学校を卒業後、早稲田大学に入学、博士課程まで早稲田大学で学ぶ。早稲田大学理工学部電気工学科4年生の時から継続して、ソフトウェア工学に関する研究を中心に行う。ソフトウェア関係を中心に、学会の役員、大学以外の各種機関の役員、国際会議の開催等の活動に積極的に取り組む。
取材・文・構成・撮影/浅原孝子