小6 国語科「天地の文」全時間の板書&指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、小6国語科「天地の文」(光村図書)の全時間の板書例、教師の発問、想定される子供の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員・執筆/山梨大学大学院教授・茅野政徳
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
本単元では、近代以降の文語調の文章として福沢諭吉が子供用の習字手本として書いた「天地の文」を主教材とし、これまで学習してきた短歌や俳句、古典作品を想起しながら、改めて言葉の響きやリズムに親しむことを目的としています。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
「声に出して楽しもう」の学習は3年生から始まります。
3年生では「俳句に親しもう」「短歌に親しもう」、4年生では「短歌・俳句に親しもう(一)」「短歌・俳句に親しもう(二)」、5年生では「古典の世界(一)」「古典の世界(二)」、本単元が「声に出して楽しもう」の最終単元となります。
本単元では、「親しみやすい古文や漢文、近代以降の文語調の文章」の中で、「近代以降の文語調の文章」の一例として福沢諭吉が書いた「天地の文」を取り上げます。
福沢諭吉は、1984年以来長らく一万円札の肖像画に選ばれてきました。名前や業績は知らなくても、顔を見たことのある子供は多いと思われます。2024年から一万円札の肖像画は渋沢栄吉に変更されますが、福沢諭吉の様々な偉業は今後も語り継がれるでしょう。
さて、「天地の文」は、「啓蒙手習之文」の中の一節です。「天地の文」の他に、平仮名いろは、片仮名イロハ、数字、十二支など、子供たちが生活に必要な様々な知識を身に付けながら習字に励むことができるよう構成されています。
「天地の文」では、現代の子供にとっては当たり前の、時刻や暦の表し方を紹介しています。
今では誰しもが知る知識が実は明治時代の初めに日本に取り入れられ、当時の人たちにとっては馴染みのないものであったことが分かります。このことは、〔知識及び技能(3)イ〕に示された、昔の人のものの見方や感じ方を知ることにもつながりますね。
言語活動としては、単元名「声に出して楽しもう」のとおり、多様な音読を取り入れようと考えました。例えば、
① 教師や朗読音声のあとに続いて読む
② 自分のペースに合った速さで読む
③ ペアやグループで声をそろえて読む
④ ペアで、句点や読点で読み手を変えながら読む
⑤ メトロノームなどを使い、速さを工夫しながら読む
⑥ 録音して、自分の音読を聞く
4. 指導のアイデア
〈主体的な学び〉 本単元の学習をこれまでの学習と結び付ける
先に述べたように、「声に出して楽しもう」の学習は3年生から始まります。
その単元の中で、特に言葉の響きやリズムのよさを感じられる作品を取り上げ、振り返ることで、これまでの学習と結び付けて学習活動を営むことができるでしょう。
例えば、以下の作品は言葉の響きやリズムのよさが感じられるのではないでしょうか。
- 3年上巻:古池や蛙飛びこむ水の音(松尾芭蕉)、いろは歌
- 3年下巻:秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる(藤原敏行)
- 4年上巻:雀の子そこのけそこのけ御馬が通る(小林一茶)
- 4年下巻:金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に(与謝野晶子)
- 5年:平家物語、春暁(孟浩然)
これまで学習した作品を想起することで、つい口ずさんでしまう七五調のリズムや軽やかな言葉の響きを改めて体感することができるでしょう。その気付きを本単元につなげるようにしましょう。
5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント
(1)QRコードを利用する
この教材には、二つのQRコードが付いています。
一つめは朗読音声、二つめは福沢諭吉の紹介動画となっています。朗読音声は、明瞭な声で区切りが分かりやすく、子供にとって言葉の響きやリズムを体感する際のよいお手本となるでしょう。
また、福沢諭吉の紹介動画では、以下のような内容が分かります。
① 下級武士の子供として生まれる。
② 学問が好きな父が家柄によって出世できない。
③ 家柄にとらわれず、学問で身を立てる決意をする。
④ 長崎と大阪で蘭学を学び、江戸で塾を開く。
⑤ オランダ語から英語に切り替え、一から学び直す。
⑥ 1860年、咸臨丸の乗組員としてアメリカに渡る。
⑦ 家柄にとらわれない、アメリカの社会の仕組みや習慣に驚く。
⑧ アメリカだけでなく、ヨーロッパにも行く。
⑨ 慶応義塾を開き、若者を育成する。
⑩ 本を何冊も出版し、進んだ外国の文化と新しい考え方を紹介する。
⑪ 最も有名なのが「学問ノススメ」であり、10人に1人が読むベストセラーとなる。
(2)疑問に思ったことを調べる
上記の紹介を聞くなどして、福沢諭吉のことや「天地の文」の内容に興味を抱き、疑問を見出す子供もいるでしょう。本時は音読を主たる学習活動として進めますが、課外の時間や家庭学習の折に疑問に思ったことを調べることができる環境を整えましょう。
例えば、慶応義塾大学のホームページには福沢諭吉の経歴などが詳しく紹介されており、「デジタルで読む福沢諭吉」では「啓蒙手習之文」の実物を見ることができます。
「天地の文」の内容や教科書の注にふれた子供からは、以下のような疑問が出るかもしれませんね。
- 日時や週がなかったときはどのように時間や一年を考えていたのだろう。
- 月の満ち欠けをもとにした旧暦って何だろう。
- なぜ、午前午後という分け方に「午」という言葉が使われているのだろう。
- 「春の初めは尚遅く」とはどういう意味だろう。
- 当時、春の初めはいつだったのだろう。
「季節の言葉」の学習で、二十四節気を扱っているので、それと関連させることも有効です。
また、一般社団法人日本時計協会をはじめ、セイコーミュージアム銀座のホームページ「自然が伝える時間から人がつくる時間 時と時計の歴史」など、子供が調べられるサイトを探しておくとよいですね。
もちろん、学校図書館にて福沢諭吉の伝記を読んだり、百科事典等で調べたりすることも可能です。
図書館司書と連携を図りながら子どもの学びを支えていきましょう。
6. 単元の展開(1時間扱い)
単元名: 声に出して楽しもう 「天地の文」
【主な学習活動】
(1時)
福沢諭吉について知り、「天地の文」の内容の大体を理解しながら様々な方法で音読し、文語調の文章の言葉の響きやリズムに親しむ。
全時間の板書例と指導アイデア
イラスト/横井智美