虫ギライでも大丈夫! 虫と心地よくつきあうための5か条
生きものや自然を守る大切さを子供たちに伝えたい。そう思うものの、実は虫が苦手……でも、なんとか克服して教育者としても一皮むけたい! そんな先生のために、子供や教員向けに昆虫の学習に対応した講座を多数開催している多摩動物公園(東京都)の昆虫園を取材してきました。虫を「敵」と見なし、身震いして挑んだ「虫ギライ」ライター・本田有紀子が、虫たちを手に乗せ、戯れるまでに至ったのは一体なぜだったのか!? その経緯から、虫との心地よいおつきあいのヒントを紐解いていきます。
目次
幸せな出会い方をする
虫が怖い! それはなぜでしょうか?
私の場合は、まずは見た目が苦手。
そして、突然暴れたり、かみついたりと、想定外な動きに驚かされ、痛い目にあったからでした。子供のころ、男子のまねをして(当時、虫遊びは男子のテリトリーでした)カマキリの胴体をつかむと、強靭なカマで指を挟まれ、羽をバタつかせて大暴れ!
こちらをにらむ逆三角の顔が脳裏に焼き付き、いつしか虫はすべて「敵」と見なすようになっていました。
そんな私でも、今回、ほんの数十分で虫と戯れるまでに仲良くなれたのは、あらためて虫と「幸せな出会い方」ができたから。虫との「再会」は、とても友好的なものでした!
ここからは、教育プログラム担当者さんたちから実体験とともに学んだことをお伝えします。
幸せな出会い、その1
まずは、虫の生態を知り、動きの特徴を理解することから。
説明のあと、担当者さんと虫が優しく触れあう様子を見て、心のハードルが少し下がりました。
幸せな出会い、その2
次に、虫に負担のない触り方を学びます。ルールは3つ!
「つままない」「来てもらう/すくう」「道を作る」です。
つままない
どの虫も、「つままない」のが約束です。
バッタの胸をつまんだときに口から出る黒い液体は「ゲロ」なのだそう……。どうりで、カマキリが暴れたのも不快感と危険を感じたからだったのか、と子供のころの「常識」が覆されました!
来てもらう/すくう
では、どうするのか? 「虫と私」が友好的に接触するには、虫の方から「来てもらう」ようにします。お尻をなでると、たいていの虫は前に歩き出すのです! これで、枝にしがみついた足が取れてしまう惨事も避けられます。
●ナナフシ&カマキリ⇒来てもらう
手を差し伸べてお尻をなでると、歩き出して手に乗ってくれます。
警戒していないカマキリは、カマの先の柔らかい部分を使って歩くので痛くありません。
●コオロギ&オオゴキブリ&カブトムシの幼虫⇒すくう
コオロギもお尻をなでると前に歩くのですが、走ったりジャンプしたりするので、土ごと両手ですくい上げます。そのあと、土をこぼすと手の上に乗せられます。
森に住むオオゴキブリ(家に登場する通称“G”とは別の種類です!)も同様に、土ごとすくったあとに土をこぼして手に乗せます。
オオゴキブリは枯れ木を食べて糞をし、土を肥やしてくれる「森の大事なお掃除屋さん」なのだそうです。
「案外、いい人(虫)らしい……」
この情報により、衛生面と人格ならぬ虫の性格に関する抵抗感はクリアです。動きがゆっくりでおとなしい性質なので、あとは理性をフルにはたらかせ、見た目を譲歩することで、最難関を突破することができました!
道を作る
動き出しても慌てずに。手を差し伸べて「道」を作ると歩いてきます。
このようにして、無理なく「ファースト・コンタクト」ができて自信が湧いてきました。
考えてみれば当然のことなのですが、負担を感じなければ虫はむやみに暴れないのです。暴れたり、噛みついたりしなければ、触っても怖くありません。
来園後、「虫は嫌いだったけれど、触ったら好きになった」という感想を寄せる子供も多いそうです(※)。
お互いに心地よく触れあうことが好きになる第一歩です。
※「小学校教師のための昆虫の飼い方・さわり方——多摩動物公園の経験を生かして——」(公益社団法人東京動物園協会 多摩動物公園/2019年3月発行)より。
遊び方を知る
手の上に乗せたナナフシ、カマキリが所在なさげにじっとしているかというと、さにあらず。担当者さんたちに虫と一緒に遊ぶ方法を教えてもらいました。
【木登りごっこ】
腕を下げると枝だと思って登り始めるので、そのまま頭の上まで歩かせます。
自分の目の届かないところまで行ったら、無理になんとかしようとしないのも虫に負担をかけないポイントです。他の人が手を差し伸べて「道を作って」あげると、おとなしく移動します。
【カマキリの「バンザイ」】
カマキリの頭上に手を持っていくと、そこに前足をかけようと背伸びしてカマを持ち上げます。
【「おにぎり」で魔法をかける】
手に乗せたコオロギには、担当者さん直伝、“おにぎりの術”です。空いている方の手を、おにぎりを作るように覆いかぶせて10秒数え、そっと開けると……あら、不思議! おとなしくなりました!
担当者さんは、嫌がる子供に無理はさせないと言います。
その代わり、「触るといいことがある」と思わせてあげることが大事なのだそうです。
最初は大泣きしていた子も、みんなが楽しそうにしていると欲しくないものにも手が伸びてしまう“バーゲンセール”効果で、いつの間にか大きなナナフシを頭の上に乗せていたりするのだとか。
触り方、遊び方を知り、実体験を通して怖さが払拭できたら私も楽しくなりましたよ!
スモールステップで
無理をしないのは大人も一緒です。『レベル1』の“やさしい虫”からスモールステップで進んでいくと、思いのほか許容範囲が広げられます。
今回、
ナナフシ⇒カマキリ⇒コオロギ⇒オオゴキブリ⇒カブトムシの幼虫⇒番外編・ザリガニ
という順番で「ご対面」を重ねていったのですが……。
実は、この取材が決まったとき、「たくさんのカマキリに襲われながら、コオロギせんべいを食べる」という夢を見るほど、私はカマキリとコオロギが大の苦手でした。また、ガーデニングで大量に出土したカブトムシの幼虫にもトラウマが。当然ながら“G”も苦手です。
なので、この日の“スタメン”に衝撃ひとしおでしたが、コオロギとの接触までクリアすると、
「“G”に似ているコオロギが触れたのだから、オオゴキブリもいけるはず」
と『レベル5』をクリア、勢いついてカブトムシの幼虫まで到達することができました。
「気持ち悪い」と言わない
だんだん虫への抵抗がなくなり、手に乗せてじっくり観察するまでに至りましたが、思わず「わぁ、気持ち悪い」と率直な感想が口からもれてしまいました。
しかし、それは自分の感性から出た主観です。飼っているペットを「気持ち悪い」と言われたら悲しくなるように、嫌な思いをする人がいるかもしれません。また、ネガティブな価値観を場に広めることにもなるので、思っても口に出すのはNGです。
その代わりに、「かっこいい足をしているね!」と言うなど、肯定的で楽しくなるような言葉選びの大切さを担当者さんたちに教わりました。
知らないものは愛せない
ここまで来ると、「害虫」というのも人間の都合なのだろうかと疑わしくなりますが、動物園の飼育員さんも動物のエサや飼育している蝶などを食べてしまったり、雑菌を持ち込んでしまったりする「害虫」は駆除します。
家に出る害虫も同じこと。ここで出会った虫たちと違い、衛生面で有害な虫もいます。
山で知らない虫に遭遇したときも、毒虫など、触れると危険があるものには注意が必要です。
それらを見分けるにも、まずは「虫を知ること」が大切。
図鑑で調べたり、懸命に生きている姿を観察したりすれば、むやみに怖がらずに「心地よいおつきあい」が始められます。
「頭でわかっていても触れない!」という気持ち、よくわかります! でもそれは、「体感を知らない」からだったと、今になれば思います。
あれこれ想像してしまい怖くなりますよね。でも、虫のお尻をなでてみるだけでも虫との距離がぐっと縮まります。機会があれば、ご自身のペースでチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
「知らないものは愛せない」と担当者さんは言います。
普段の講座でも、「全部教えれば喜びに変わるけれど、そうでないと恐怖に変わる」ので、教えて、やって見せて、生きものへの興味をもてるように工夫しているとのこと。触れるようになると、虫への愛着が湧いてきます。
虫と意思疎通ができているかのように見える担当者さんたち。
「お尻をなでると歩いてくれたり、バンザイしたり、手の上でじっとしていると愛おしいです。コオロギが手の中で鳴いてくれるとラッキー!という気持ちになりますよ」と、楽しそうに虫の魅力を語ってくれました。
この記事の情報はすべて、多摩動物公園 教育普及係の南雲さん、岩渕さん、齊當さんのご協力に基づいています。どうもありがとうございました!
いかがでしたか? 今回の取材は「覚悟と気合い」でしか乗り越えられないと思っていましたが、教育普及係のみなさんのお陰で、ドキドキしながらも楽しく「虫ギライ」を克服することができました。体を張った「虫ギライ」ライターの実体験レポートが、虫が苦手な先生方の一助になれば嬉しいです。そして、今年の夏が楽しく迎えられますように!
取材・文/本田有紀子
昆虫の体験プログラム問い合わせ先 /電話:042-591-1611(代表)多摩動物公園 動物解説員まで