総合的な学習の時間で、子供の主体性を生かした課題設定とは? 前編【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#12】

連載
教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」

國學院大學人間開発学部教授

田村学

先生方のご相談について、國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は総合的な学習の時間の課題設定や単元づくりをどうしたらよいかという、中学校の先生のご質問にお答えいただきます。

Q 私は教師生活10年ほどの間、あまり総合的な学習の時間に力を入れてきていませんでした。しかし最近、その大切さを感じ、改めて単元づくりを学びたいと考えています。学校によって学年ごとにテーマが設定されていたり、学級ごとに自由に設定できたりと状況は異なりますが、その中で子供の主体性はどの程度生かして課題設定をすればよいのか、教師としてリードしてはいけないのかなど、単元づくりの基本を教えてください。(30代・中学校)

子供が課題を設定しなくても、期待される学びが生じるような課題設定を先生がしてもよい

 総合的な学習の時間(以下、総合学習)は、子供が自ら課題を設定して、子供がその課題の解決に向けて考え、行為することが期待されるわけです。そうであるがゆえに、「課題は子供自身が設定しなければいけないのだろうか」という思いをもつのでしょう。

もちろん、子供が設定できることが望ましいし、それはとても良いことです。ただ、設定した課題が本当に子供たちにとって解決する価値があるものなのかとか、本当に子供たちが解決していけるようなものなのかとか、子供たちが解決していく過程で期待する学びが実現するのかと言われると、そう簡単なものではないと思います。

中学校学習指導要領の目標にも、「探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す(以下は3つの資質・能力)」とあります。つまり、子供たちが解決していく中で期待する学びが実現し、期待する資質・能力が育つような課題であることが求められるわけです。ですから、単純に子供が設定していればよいとは言いきれないと思います。

これについては、子供が課題を設定したか設定しないかという軸と、期待する学びが実現するか実現しないかという軸からなる4象限で考えると分かりやすいでしょう(図表1参照)。

(図表1)

まず、子供が課題を設定し、期待する学びが育つものはとても良いということになりますよね。これは誰にでも分かりやすいことでしょう。次に、子供が設定したけれども、残念ながら期待される学びが生じないという場合があります。さらに、子供たちが課題を設定したわけではないけれど、期待される学びが起きて、期待される資質・能力が育まれる場合もあるでしょう。そして、子供たちが課題を設定するわけでもなく、期待される学びも生じない場合もありますが、これは意味がないということは分かることですよね。

そうすると、子供が課題を設定して期待する学びが実現するものが最も良くて、子供が課題を設定することなく学びも実現しないのが論外となるのは誰の目にも明らかです。ですから、残りの2つの比較になるわけです。子供が設定するけれど期待する学びが起きないのと、子供は設定しないけれど期待する学びが起きるのではどちらが良いかと言われれば、それは後者ということになるでしょう。結局は、めざす学習を通してめざす資質・能力が育まれることが目標なわけですから、理解していただけることだろうと思います。

先進校では、付けたい力自体も子供たちが対話して決めてから、課題設定に入っていくような実践もなされている。
先進校では、付けたい力自体も子供たちが対話して決めてから、課題設定に入っていくような実践もなされている。

ただ総合学習では、子供が課題を設定するものだというイメージが強いために、そちらばかりが意識されてしまうと、子供が設定したものの期待される学びが生じなかったという場合も起こるわけです。ですから、子供が課題を設定しなくても、期待される学びが生じるような課題の設定を先生がしてもよいと、私は思います。

ただし、先生が一方的に「今年はみんなで『森の植生』について追究します」とか、「今年度は地元の『〇〇川の環境』について追究します」と言ってしまうのは、あまりにも一方的すぎるでしょう。やはり、子供たちが自らその課題を発見し、追究したくなるような、単元の導入や前半の構成の工夫が大事です。

例えば小学校であれば、いきなり「森を調べるよ」と言いだすのではなく、「気候も良くなってきたし、今日は、近くの市民の森に散歩に出かけてみようか」と話し、子供たちを森に連れ出す方法はよく使われていると思います。そうやって実際に出かけてみると、「きれいな花が咲いているね」「きれいな鳥も飛んでいるよ」とか「冬に森の前を通った時とは全然違うよ」という話が子供たちの間から出てくることでしょう。そこで、先生が季節の異なる森の写真を見せると、「本当に季節ごとに木や花が違ってくるんだね」と言いだして、徐々に子供たちの興味・関心が「森の植生」に向かっていくわけです。そのように、あらかじめ先生が考えたテーマや課題であっても、子供たち自身が気付いて探究したくなるように単元を構成することは可能だろうと思います。

思考ツールを活用すると、その後のテーマや課題の設定がしやすくなる

では、質問者が勤務する中学校の生徒(や高校生)向けの単元づくり・授業づくりでは、どんな工夫ができるかということになりますよね。

子供たちは学年が上がれば上がるほど、より一人一人の興味・関心が明確になっていきます。加えて学習者自身がより自律的になるわけです。小学3年生よりも中学3年生のほうが、自分一人でいろんなことができるわけですからね。そのため、学校種も学年も上に行けば行くほど、より個人的な探究になるというのが大きな流れとしてあると思います。

例えば、小学生の時には一人ではできないけれど、仲間がいるからできるということがあります。だから集団の力を利用してみんなの学びを高めていくわけです。それが、中学校の3年生くらいになってくると一人一人興味も違ってきますから、それぞれのテーマが出てきてもいいのだと思います。

ただ、それぞれの興味は多様ではあるのですが、個々がどのような課題を設定するかということは大事なポイントになってくると思います。中学生、さらに高校生くらいになると、「先生に“決めなさい”って言われたんだけど、簡単に決められなくて困ってるんですよね」と言う生徒もいます。中学生でも同様の場合もあると思いますが、そんな時には少し導入を工夫し、思考ツールなども活用すると、その後のテーマや課題の設定がしやすくなると思います。

テーマや課題は多様であっていいと言いましたが、まったくフリーな状態から個々がテーマを決定するのはよほど明確な問題意識がないと難しいかもしれません。そこで、最初に先生が比較的自由度の高いテーマを示すのです。例えば、その学校が有名な河川の近くにあるとすると、川を中心にやっていこうと先生が示してみてもよいでしょう。

そこで、その河川に関してどんな問いがあるかということについて、みんなでKJ法を使って出し合っていくわけです。そうすると、川を中心にしながら多様な問いが類型化できますよね。そこには、「川の歴史」とか「川の災害」とか「川の経済的役割」とか「川の植生」など、類型化された問いが出てくるわけです。そこで、ある子供が「『川の植生』がおもしろそうだぞ」と思ったら、さらに「川の植生」を選んだ子供たちで集まって、改めて「川の植生」について、KJ法で問題を出し合っていきます。そうすると、「オオブタクサという外来種の大群落がある」とか、「在来種が減少している」などの問題が出てきます。そうやっていくことで、それぞれの子供の興味・関心が次第に焦点化されていきます。そのようにして、生徒たちの追究課題を具体化していくわけです。

他にも似たような方法があります。例えば、「今年は命について探究したい」と先生が考えたとします。しかし、いきなり「命」と言われても困りますから、まず子供たち一人一人が「命」について自分が知っていることを、ウェビングマップのようなものを使って書きだしていくのです。しかし最初は情報量が少ないので、ある程度のところで行き詰まってしまうでしょう。ただし、AさんとBさんとCさんが得意なことや詳しい情報が異なるので、他の友達のウェビングマップに自分がもっている情報を書き込んでいってあげるわけです。情報をプレゼントするわけですね。それによって、最初に自分一人で書いたウェビングマップの情報はわずかなものであったとしても、限られた時間の中で結構、充実したウェビングマップができていくわけです。

そのようなことをすると、「自分たちがこれから追究していく『命』っていうテーマにはこんな可能性があるんだ」ということが見えてきますよね。そこから、「こんなに可能性がある中で、自分の関心があるのは障害者に関することだな」「特に、障害のある人の命や暮らしについて追究したいな」と考えていくわけです。つまり、友達と協力して作成したウェビングマップで可能性を広げた中から、自分が最も興味のあるところにフォーカスして、そのゾーンからテーマを選んでいくのです。

そのように、KJ法でもウェビングマップでも活用することで、テーマを決めていく過程をある程度、定型化できるでしょう。それによって、いきなり「テーマを決めて調べなさい」と言われるよりも、はるかに自分の興味のあるものを追究できるチャンスが増えるし、その内容も具体化できると思います。それは、小学生を直接、森に連れていく方法とは異なり、中学生や高校生の導入に向いているのではないでしょうか。

このような方法では思考ツールを活用するわけですが、どの学校、どの学級、どの生徒、もちろんどの先生でもできると思いますし、ある程度、定型化できると思います。また、個で追究をするのですが、他者との対話も生じやすく、集団の力を生かすことも可能だと思います。

今回は、総合学習の課題設定の基本的な考え方や、具体的な方法について紹介をしました。次回は、学校現場で受けた質問も加味しながら、探究のテーマを学年ごとに決める場合と、学級ごとに決める場合について考えていきたいと思います。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、5月18日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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