菊池省三の教師力UP道場:準備は完璧なのに授業がうまくいかない理由
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菊池省三先生が、伝説の授業の達人(鳥?)であるフクロウのショーゾー先生として「生きた授業技術」 を教えてくれるお話の第1回。「攻め」と「受け」のバランスのよい授業をして、子どもが楽しくノッてくる授業を運営する「ライブ力」が必要、とショーゾー先生は言いますが…?
監修/菊池省三
きくち・しょうぞう。1959年愛知県生まれ。2014年度まで福岡県北九州市の小学校教諭を務め、退職。現在、教育実践研究サークル「菊池道場」主催、高知県いの町教育特使、教育実践研究家。『菊池省三の学級づくり方程式』(小学館)ほか著書多数。
目次
スモールステップで学ぶ「授業ライブ力」とは?
みなさんは、今の授業に満足していますか?
大学や初任者研修などで学んだ教育技術だけでは不十分だと感じたことはありませんか?
もっと子どもたちを引きつける充実した授業をつくりたいと思いませんか?
ラビ子、ツネ夫、タヌ吉の3人、いえ3匹も、そんな思いをもっている教師のタマゴたちです。
この連載は、3匹が「森の大学」の伝説の授業の達人(鳥?)であるフクロウのショーゾー先生のもとで、大学では学びきれなかった「生きた授業技術」を悪戦苦闘しながら学んでいくお話です。
「授業ライブ力」ってどんな力?
「森の大学」で教師になるための勉強をしてきたきみたちも、もうすぐ卒業だのう。 教育実習を経験してみて、どうだったかい?
はい! 子どもたちの目が輝いていて、みんな元気いっぱいでした! やっぱり教師っていいなあ、頑張ろうっていう気持ちになりました。
でもさ〜、つい手をあげている子とか、ノリのいい子ばっかり指しちゃうんだよね。全然ついてこられない子なんかヘタに指したら、ずーっと黙り込んで、すごい時間がかかっちゃうし。
ボクなんか、子どもたちにすごく好かれていたみたい。授業が始まると、趣味とか好きな歌、嫌いな食べ物などなど、いろんなことを質問してくれたよ。答えるのに時間がかかっちゃって、予定どおり進まないこともしょっちゅうだったなあ。
それって好かれているっていうか、なめられたのか、ビミョーだなあ。
ほう、みんないろいろな体験をしてきたようじゃな。今まで大学で指導計画や指導案づくり、各教科の指導法などひと通り学んできたと思うが、それだけで子どもたちを引きつけることはできたかのう? きみたち教師主導で進めてしまい、子どもたちの反応が今ひとつなんてことはなかったのかい?
……。
いいかい、指導計画はあくまでも「計画」だし、指導案はあくまで「案」なのじゃ。
実際は違っていいはずだし、いや、違ってくるはず。前もって考えた流れに、無理矢理子どもをあてはめてはいけないんじゃ。
例えば、教師の予想と違う反応が出たとき、切り捨ててしまうことはなかったかい? 「他の意見は?」と、「望ましい」答えばかりを求めて、授業を進めてしまうことはなかったかい?
ショーゾー先生、そんなこと言っても、子どもたちのすべての反応ばかり優先していたら、タヌ吉みたいに、授業にならなくなっちゃいますよ。
ふむふむ。確かにその通り。そこできみたちに、今日から特別講義を始めるぞい。この特別講義でみんなに身につけてほしいのは「授業ライブ力」じゃ。
「授業ライブ力」!?
ライブ力とは、「事前の準備を活かしながらも、実際の授業の中で子どもたちとともに、いきいきした楽しい授業を創り出す力」のことじゃよ。方程式に表すと、こうなる。
ライブ力=(事前準備+教室の空気を読む力+子どもを引き出す力)× 教師の人間性
「事前準備」は、教材や発問、指示などの事前の授業準備をキチンとする力。
「教室の空気を読む力」とは、子どもの状態、場所、状況、時間配分などをもとに、事前の準備を変更修正する力。
「子どもを引き出す力」は、子どもをノセる力、ハプニングに対応する力、マイナスをプラスに変える力、子どもと子どもをつなぐ力など、教師の姿勢や対応のことじゃのう。
当然これらには、「案」と違うときに「案」を捨てて、その場に対応する判断や技術などの適切な判断力が重要になる。そう考えると、「子どもとともに学ぶ力」といってもいいだろう。これらの要素と教師の人間性がかけ合わさって、はじめてすばらしい授業ができるというわけじゃ。
なるほど!
ショーゾー先生、なぜライブ力が必要なんですか?
若い教師にありがちだが、教師は、指導書などで「攻め」の部分はたくさん勉強しても、「受け」をあまり考えない。しかも「攻め」の部分も、前もって決めておいた「一直線の授業」だけで「複線」になっていない、硬直した内容が多いんじゃ。
「攻め」と「受け」?!
一つの方法しかない「硬直」した授業だと……
授業が計画通りにいったとしても、「受け」が弱いと、授業は固いものになる。子どものノリは弱く、結果的に思考も深まらない。
硬直した授業は、「優等生」といわれる子どもが活躍するだけで、他の子どもたちは「正解を言わなければならない」「間違えてはいけない」という意識が強くはたらいてしまうので、教室の雰囲気は固い。確かに教師の計画通りに進んだかもしれないが、学習としての深まりや広がりは弱い。
なぜ硬直した授業になってしまうんですか?
ふむ、いい質問じゃ。それは、「なぜ、こういう行動をするのか、その意味は? ねらいは?」という教師の指導の意味づけが弱いからなんじゃ。こんな状態では、子どもがノッてこない授業、変化に乏しいおもしろくない授業になってしまうぞい。
子どもたちにとって、おもしろくない授業ってどんな授業なんですか?
教師からの一方通行の授業じゃ。つまり……。
こんなことを子どもたちは考えているんだよ。当然、教室の空気はよどんでいる。手遊びやぼんやり、ひどいと立ち歩きなどがはびこってくるんじゃ。
じゃあ、おもしろい授業にするためには、どうすればいいですか?
子どもたちといっしょになって授業を創り上げる姿勢が大切じゃ。従来の指導書や教育書にあまり書かれてこなかった教育技術と、それを支える確かな考えを身につけること。今の子どもたちに合った、「攻め」と「受け」のバランスのよい授業をすること。つまりじゃ、子どもが楽しくノッてくる授業を運営する「ライブ力」が必要になるんじゃ。
なるほど、少しわかってきたー。それでそれで!?
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
おお、ちょうど終わりの時間じゃ。「ライブ力」に必要な四つの力については、また次回にしようかの。
え?、せっかくノッてきたのに、計画通りに終わらせないでよ?!!
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構成:関原美和 イラスト:柴田亜樹子
「小四教育技術」2007年9月号~2009年3月号に掲載した記事を再録