発達障害と間違いやすい「愛着障害」の特徴|臨床心理士が解説

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NPO法人えじそんくらぶ代表

高山恵子

教室の気になる子の中で、発達障害の対応では、なかなかうまくいかない子はいませんか? NPO法人えじそんくらぶ代表で臨床心理士の高山恵子さんは、そんな時は、「虐待に起因する愛着障害かもしれない」という視点を持って、子供を観察してみることが重要といいます。
先生は虐待を受けている子どもを救える大人の一人です。

監修/高山恵子

ぽつんと佇む子ども

広まりつつある愛着障害への問題意識

愛着障害とは、親(主たる養育者)との適切な愛着関係が作られなかったことによる障害の総称として使われる心理学用語です。愛着とは、イギリスの精神科医ボウルビィが提唱した概念で、「特定の人に対する情緒的な絆」のことを指します。

虐待を受けている子は、親に対して安心感が持てません。そんな子たちの中には、多動であったり、人との関係性に課題が出たりと、まるで発達障害のような状態を示す子がいます。現在、発達障害という診断名がついた子の中には、かなりの割合で愛着障害の子が含まれていると推測されます。

私は中学・高校生の支援にも関わっていますが、その年代で課題を抱える子には愛着障害が多く見られます。「今や発達障害より愛着障害のケアの方が先決なのではないか?」と、ある地域で愛着障害についての講演会を開催したところ、すぐに満席になりました。教育関係者の中で、愛着障害への問題意識が高まっていると感じた出来事です。

「4つの虐待」を見逃さないことが大切

先生方にお願いしたいのは、虐待のサインを見逃さないでほしいということです。小学生にとって担任は最も身近な大人です。基礎知識として、子供の虐待には、大きく4つのタイプがあることを知っておきましょう。

【身体的虐待】殴る、蹴るなど身体的な暴力を行う。
【心理的虐待】「ばか」「お前なんかはいらない」といった、言葉の暴力を行う。
【性的虐待】子供に対して性的な行為を見せたり、行う。
【ネグレスト】子供の心身の健康な成長・発達に必要な世話・対応をしない。
※「ネグレスト」は、ネグレクトする人のことを指す言葉。

強調しておきたいのは、虐待のサインから緊急度のチェックをし、緊急度が高い場合は行動してほしいということです。

「何か変・・・」に立ち止まる

この子、何だか気になるな・・・

学年も半ばなのに、この子は感情が表に出ない。何なんだろうな? 気になる。

いつも表情が乏しく元気がないAくん。発達障害?

教師の直感は大切に!
担任は子供の最も身近にいる大人です。「何か変・・・」と思ったら、立ち止まってみてください。

子供に聞いてみたけれど、自分でぶつけたと言う

アザがあったので、「どうしたの?」と聞いたら、自分でぶつけたと言っていた。本当かな?

顔につけたアザを、自分でぶつけたというAくん。何か変・・・。

子供は、なかなか本当のことは言いません
多くの子供は、親をかばって本当のことは言いませんし、親に知られることが怖くて話せない子もいます。守秘義務は守りましょう。

【支援策】虐待には通告義務があります

虐待には、通告義務があります。通告に関して管理職と意見が合わない場合は、緊急度を判断して、専門家などに相談しましょう。

「あれ?」と思ったら、周囲に相談しましょう。 虐待は、早期発見・早期対応が大切です。「あれ?」と思ったのなら、校長・学年主任、養護教諭、スクールカウンセラーなどに相談しましょう。通常は校内で情報を収集した後、会議を開き緊急性や他機関の協力の必要性を検討します。緊急性や機関協力の必要性があれば、通告します。

通告を渋る管理職がいたり、虐待という確信が得られない場合などは、「相談をする」という姿勢で関係機関に匿名で連絡を取っても構いません。

虐待の初期対応という意味で、小学校の担任の先生は、重要な役割を担っています。

ADHDと混同されやすい愛着障害

ボーっとして、集中力もない

登校してきても、ボーっと座っているだけ。集中力も全くない。

ぼーっとしており、年齢に即した生活習慣が身についていない。

ネグレストで、食事をしていない
午前中ボーっとしている場合、朝食を食べていないことが多いのです。給食をむさぼるように食べる場合も、ネグレストの可能性があります。

忘れ物が多く、提出物が出せない

最近、忘れ物が多く、提出物がきちんと出せていない。こんな子だったけな? 何かあったのかな?

忘れ物が多く、提出物を出せないBくん。

夫婦関係の不安定さが、忘れ物に繋がることも
下の、夫婦間暴力を原因とする愛着障害が判明したケースの相談のきっかけは、「忘れ物が多い」でした。よく話を聞いてみないと、問題の本質は見えないと痛感しました。

【特性】愛着障害は発達障害と混同されがち

近年、発達障害という概念が広まったことにより、愛着障害としてのケアが必要なのに、発達障害という診断と支援を受けていることがよくあります。

実際に私が出会ったケースを例にして、お話ししましょう。「集中力がない」「忘れ物が多い」などADHDのチェックリストを満たす子がいたので、家庭環境をお伺いしました。その家庭では、子供の前で父が母を罵倒し、時には手が出ることもありました。子供の目の前で夫婦間暴力があることは、心理的虐待にあたります。近年、心理的虐待がすごい勢いで増えているのは、DVに警察が介入した際、児童相談所に通報し、表面化してきたからです。けれども「DV」と「心理的虐待」を繋げて考えている先生は、まだ少ないようです。

自閉スペクトラム症と混同されやすい愛着障害

人が近くによると、身体を硬くする

人と関わるのが、随分と苦手な感じ。社会性の部分で、課題のある子なのかもしれない。

表情が硬く、視線を合わせられない。身体的な接触を嫌がる。

身体的な虐待を受けている可能性も
親が頻繁に手をあげている場合は、人が近くに寄るだけで身体を硬くしたり、過度な緊張がある子、視線が合わせられない子もいます。

音に、過剰に反応する

音楽の時の大太鼓の音を、極度に嫌がる。感覚過敏がある子なのかな?

大きな音を、極端にいやがる。

怒鳴られ続けていて、大きな音に恐怖を感じる
怒鳴られ続けている子の中には、大きな音に恐怖を感じる子がいます。上に挙げた例は、全て私が実際に出会ったケースです。

【支援策】虐待対応の窓口や枠組みを、把握しておく

繰り返しになりますが、虐待の初期対応は担任の先生が鍵です。対応窓口や枠組みについて知り、適切に利用することが大切です。
 
最も望ましいのは校内で連携をとることですが、それが難しい場合は児童相談所、また例えば東京都では、「子供家庭支援センター」が虐待対応の窓口になっています。地域によって窓口の名称は異なるので、自分が勤務している市区町村の虐待対応窓口を確認しておきましょう。

今は残念ながら、児童相談所に関わる子供が全くいない学校の方が珍しい時代となってしまいました。虐待の可能性を児童相談所などに伝えておけば、他の子の案件で学校を訪問した時などに、管理職にそれとなく聞いてくれることもあります。

関連機関と連携を取った後でも、何かあったときに頼れる大人がいるという意味で、見守りは続けてほしいと思います。

高山恵子●特別支援の先駆者。NPO法人えじそんくらぶ代表。最新刊『みんなの学校から社会を変える』木村泰子・高山恵子著(小学館刊)では、教育現場の混乱原因のひとつに発達障害と愛着障害の混同があることを提言している。

『みんなの学校から社会を変える』木村泰子・高山恵子著(小学館刊)

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取材・文/楢戸ひかる イラスト/畠山きょうこ

『教育技術 小五小六』2019年10月号より

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