【相談募集中】不適切な言動を繰り返す生徒に、支援員として何ができますか?

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兵庫県公立小学校校長

関田聖和

中学生の支援員をしている60代の女性から「みん教相談室」に相談が寄せられました。ある生徒の不適切な言動でクラスが落ち着かないそうです。これに回答したのは兵庫県公立小学校教頭で公認心理師 特別支援教育士スーパーバイザーの関田聖和先生。中長期的な支援が必要であると伝えたその内容をシェアします。

イラストAC

Q.不適切な言動を繰り返す生徒に、支援員として何ができますか?

特別支援学級の支援員です。中1の男子生徒Aさんについての相談です。他者からの刺激に感覚過敏で、自分の言動には感覚鈍麻のようです。先輩や同級生が当番をうっかり忘れてしまったり、我慢しようね! と注意されている同級生がつい禁止されている言動をしていると、人差し指と中指を相手生徒の両目にグーッと近づけて迫っておどします。

Aさん自身は、しばしばやる気のない態度や面倒くさがる言動をしていてイヤな雰囲気を出しています。それほどのイヤなことがなかったのではと思う日も、支援員に『今日は最悪の日でしたよ』と不機嫌そうに話しかけてきます。中2、中3の生徒はAさんを嫌い、時として諫めようします。3人の担任の先生がその度にマンツーマンでAさん本人から別室で話を聞いて、そして指導されていますが、Aさんは得心しません。

相変わらずクラスメイトに対して『なんだ、そのやる気のない態度は!』と言ったり、教員や支援員に『また、Bさんは、あんなことをしてる!』『Cさん怖がって、結局やらなかったんですよ!(自分の方が怖がってやらなかった)』などと言ったりするなど、自分の事は棚に上げてクラスメイトのことを非難します。

正義感の強い中2、中3女子はAさんの言動が許せなくて憤り、毛嫌いしています。私は支援員として、彼のツブヤキを否定しないで受け止めていこうとしています。でも、それが甘やかしになるのかと思うこともあり、自信がありません。Aさんを巡っての生徒たちの雰囲気がほぐれないかなぁと願いつつ、日々漫然と過ごしていて歯がゆく感じています。何か考え方についてのアドバイスや事例があれば教えていただけませんでしょうか。

(ヒラランマツ先生・60代女性・中学生全学年担当)

A.支援のポイントは、「言動には、できるだけ一喜一憂しないこと」

支援員のヒラランマツ先生! ここまで考えていただける支援員の方がおられる学校は幸せです。感謝します。しかし読んでいて、ここまでの状態はなかなか一筋縄ではいかないなと感じます。おそらく入学後から、もしくは入学前から何かしらの原因が複数あり、今に至っているのではないかと推察したからです。

急には変わらない 忍耐力が試される

まず、支援員の方でできることの前に、「急には変わらない」ことと捉えること。そして、「忍耐力」が必要になることが想定されます。

本人の体調も良く、自身の力のみで楽にできることに対して、支援を入れていくことは甘やかしになるかもしれません。さまざまなチャレンジの場では、マンツーマンで指導をして解決することを望みたいところですが、きっとすぐには解決しないことが多いだろうと思われます。だから、忍耐力との勝負になり、Aさんに合った方法とベストなタイミングを見つけ、根気強く指導を続けることが必要になることでしょう。

支援のポイントは、彼の「言動には、できるだけ一喜一憂しないこと」です。

もちろん褒めるべき言動があったときには、彼の前で大いに褒めます。しかし、かかわる大人の心の中は、冷静でいるということです。今日できたとしても、明日できないこともあります。そのたびに、「私の支援のせいかしら……」と、憂う必要がないということです。ほほえんで、さりげなく次の活動へ移ることができるといいですね。

活動する空間を楽しい雰囲気の場に

楽しい場の雰囲気は、楽しいと感じるだけではなく、ずっとここにいたいなぁといった気持ちもわいてくるのではないでしょうか。しかし、殺伐とは言わなくとも何だか暗かったり、ぎすぎすした雰囲気だったりすると、いるだけで雰囲気がこわばってきます。楽しい場の雰囲気にするには、掲示物や色の配置の工夫も大切ですが、温かい環境をつくることが必須です。

私の座右の銘ですが、「子どもにとって最高の教育環境は、教師自身である」という言葉があります。支援する大人そのものが、温かい雰囲気で子どもたちを包み込むことができるよう、笑顔で接し、失敗にも寛容で、子どもの課題が解決する温かい励ましの支援ができるといいですね。

文字にするのは簡単ですが、現実は難しいことも承知です。まずは、どんな時にでも笑顔でいられるようにしたいですね。私自身、若い頃は笑う練習もしたことがあります。

応用行動分析(ABA)を取り入れてみる

さてそもそも、なぜAさんは、このような態度をとってしまうのかというところは、客観的に観察したいところです。

A.どんなきっかけで
B.不適切な言動をとり
C.その結果どうなった(何を得たか)

という一連の言動を見ます。これらを数週間記録していくと、

「あれっ? 給食を食べる前に必ず起こってるな」
「この特別教室でよく起こってるな」

など、何かしらの共通項が見えてくるかもしれません。

また、Aさんにとって報酬となっているものはないでしょうか。大まかに説明していますが、このような考え方を応用行動分析(ABA:Applied Behavior Analysis)、ABC分析などと呼びます。インターネットで検索をすると分かりやすい説明があるサイトもありますので、参考にしてみてください。

「きっかけ」と「報酬」に着目する

また、不適切な言動の後に着目して、

・叫んだ後、必ずその課題をせずにどこかへ行っている→(Aさんの心理)課題をさぼることができた!
・友だちにイヤなことを言った後は、必ず担任の先生からマンツーマンで指導されている→(Aさんの心理)先生を独占できた!

などといったことが、なんとなく見え始めたら、不適切な言動が起こる「きっかけ」(先行事象)と不適切な言動を取った後に得た「報酬」(結果)に着目をします。つまり観察の大きなポイントは、「きっかけ」と「報酬」になります。

不適切な言動から適切な言動へと変えるには、なかなか難しいです。それは、どうしても言動に目を向けてしまうからです。「人の行動はすぐには変えられない」ように、「きっかけ」と「報酬」を違ったものに置き換えていく支援を考えていくのです。

好子と嫌子、強化と弱化をうまく使い、支援に活かす

少し専門的な話になりますが、

好子……本人にとって良いこと
嫌子……本人とってイヤなこと
強化……増えること
弱化……減ること、無くなること

を活かしながら取り組みます。良いこと・イヤなことを強く伝えたり、弱く伝えたりすることで、不適切な言動を取りにくい、取ることができない状況へと、支援をしていくのです。平たく言うと、Aさんにとって

良いことを与えて、適切な言動を増やす(強化)
良いことを無くして、不適切な言動を減らす(弱化)
イヤなこと(罰)を与えて、不適切な言動を減らす(弱化)
イヤなことを無くして、適切な言動を増やす(強化)

このような支援を考えていきます。応用行動分析では、弱化を使っての支援は、ほとんどしないです。日常的にうまくいかないことが多く、二次的な別の不適切行動が起こることもあるからです。

今回は組み合わせ方によっては難しいものもあるので、例えば、

・やる気のある姿を少しでも見せた時に、マンツーマンでかかわる時間を増やして、大いに褒める
・できるだけ指摘してしまう生徒たちの見えないところで活動し、取り組ませる

または、人が頑張っている姿を応援している人たちの言動を見せて、「先生はこういう人が好きだなぁ」と話してみることで伝わるかもしれません。できたらその場面は、Aさんが好きなことに関係することがいいです。

支援する大人で共有を

ここまで綴りましたが、何よりも大事なポイントがあります。それは、Aさんにかかわる支援の大人で共有する必要があるということです。そうでないと効果が薄いかもしれません。支援員のヒラランマツ先生だけではなく、学校の先生方やほかの支援員の方と協働して取り組むことになります。

なぜならば、教員の相談であれば、専門家につなぎましょうとお伝えしたくなる内容だからです。

冒頭にも綴りましたが、すぐには改善しません。もしかすると、大人になってから、Aさんが振り返ることができるのかもしれません。

ただただ、ヒラランマツ先生の心と体とのバランスを大切にしながら、長期戦で支援を続けてください。応援しています!

みん教相談室では、現場をよく知る教育技術協力者の先生や、各部門の専門家の方が、教育現場で日々奮闘する相談者様のお悩みに答えてくれています。ぜひ、お気軽にご相談ください。

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