【木村泰子の「学びは楽しい」#14】授業の当たり前を1つずつ変えることにトライしてみませんか?

すべての子どもが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方について、木村泰子先生がアドバイスする連載第14回目。今回は、子どもたちが学び合う学級をつくるために、新年度にできるちょっとした工夫についてのお話です(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】
執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子

目次
子どもの声を聴くことから
2023年度がスタートしましたね。新たな子どもたちとの出会いの中で、まずは子どもの声を聴いていますか。「子どものことは子どもに聴かなければわからない」、この当たり前のことを、案外大人は忘れがちです。特に、「先生」の立場にある大人について、そう思います。
子どもに限ったことではなく、私たちは、自分以外の他者のことを勝手にわかったつもりになって喜んだり、悲しんだり、腹が立ったりするものですよね。相手のことを分かったつもりになることが、一番危険です。私自身、このことは何度も失敗して、やり直しをしてきましたが、これでいいと思ったことが一度もないのです。最近も大空小の卒業生の声を聴いて、知らなかったことを次から次に教えられました。
2006年に開校した大阪市立大空小学校は、「すべての子どもの学習権を保障する」ことをパブリックの学校の理念に挙げ、すべての子どもがそれぞれの個性を認め合いながら同じ教室で学ぶことが当たり前の学びの環境をつくってきました。“「地域の学校」をすべての子どもの「安全基地」に”を合言葉に、保護者や地域住民の誰もが「サポーター」として主体的に学校に来て、困っている子どものそばにそっといることが日常の学校の当たり前になってきました。
子どもの周りの大人のチーム力で子どもを育む学校づくりは、すべての子どもの命を守るために不可欠です。こんな学校づくりの2012年度の1年間の記録が、ドキュメンタリー映画「みんなの学校」として公開されました。
この年から10年が過ぎた今、卒業生たちのその後の10年を振り返る座談会が、東京大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター所長の小国喜弘先生を中心として開催されています(東大バリアフリー教育開発研究センターのHPで順次公開中)。「みんなの学校」の卒業生たちの声をまとめ、それらが小学館から本として発行される予定なので、楽しみにしています。先日も第5回の座談会が終わり、授業の話で盛り上がりました。
机の配置を変えるだけで生まれる「学び合い」
第5回のメンバーは高校生と中学生で、私が知らない大空小でのことを教えてもらいました。研究テーマが「子どもが学ぶ・子ども同士が学び合う授業をつくる」だったのですが、基本的に机の配置はコの字型でした。コの字型の形態は常に友達の顔が見られる状態です。次に卒業生の対話を紹介します。
「コの字型はみんなの顔を見られるので、友達がわかっているかわかっていないかが、表情でつかめた。自分がわからないときはわかっていそうな子に教えてもらったし、わからない表情の友達には、自分から教えに行ったりした」
「コの字型の真ん中に先生がいるので、先生との距離が近かったから、わからないことはすぐに聞けた」
「授業中はいつも自由にわからないことを話し合っていた」
「先生ともタメ口でしゃべれるのでネガティブにならなかった」
「中学校に行くと、いつも机は黒板のほうを向いていて、1人で授業をすることが当たり前になった。わからないと言えないし、わからないことがダメなんだと思わされるようになった」
「小学校の時は授業をつくるのは自分だったが、中学校では、先生に教えてもらう授業に変わったので、それなりに合わせていったが、楽しくはなかった」
「先生との上下関係があったから、思うことを話しにくかった」
こんな話をしている卒業生たちからの学びは新鮮でした。