小学校理科を教えることは “文系” では難しいのか? 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#23

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
進め! 理科道(ロード)
〜よい理科指導のために〜

私は高等学校では、「文系」コースを選択しました。決して、物理や化学ができる人ではありません。でも、今は小学校理科について語っています。「えっ?理系じゃないの?」と学生さんにも言われますが、小学校の理科は理科の高度な専門性より指導法が大事だと考えています。小学生に難しいことを「教えて」も、わかる子はわかるが、わからない子はわからない。
情報にあふれ、ちょっと調べれば何でもわかる時代に、知識をたくさん教えることがどのような意味があるのでしょうか? もちろん考えるためには一定程度の知識は必要です。しかし、知識を教えるだけでは、子どもたちが大きくなって自分自身で問題解決できる力はつかないと思っています。今回は、小学校の理科は “文系” では難しいのかについてお話ししていきましょう。

執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.小学校理科の指導で理系的な“計算”“法則の理解”は求められません

“理科” と聞くと「難しい」「計算が大変」といったイメージをもたれることが多いようです。大学で授業をしていても学生さんから「私は文系なので理科はちょっと…」という言葉をよく聞きます。中学校や高等学校での理科の授業のイメージがあるのでしょうか。でも考えてみてください、小学校の授業で、いわゆる理系的な “計算” “法則の理解” はどれだけあったでしょうか?

小学校理科は4年間で31の内容がありますが、教科書にざっと目を通してみてください。いわゆる “理系的” な難しいことは載っていますか? 載っていないと思います。つまり、小学校の理科の指導においては、理科が内容的に難しいことはありませんし、“計算” “法則の理解” は求められません。

2.小学校理科を通して何を育てたいのか?

小学校理科の授業では、
①子どもたちの疑問から自然事象を探究する
②ある自然事象の原因について仮説をもって検証する

といった2つの種類のアプローチで理科の授業を進めていきます。

前者は、ある自然事象があった際に「これまでしっかりと見たことがないから、よく見てみよう」という流れで自然事象を調べていくものです。例えば、「春の植物や生き物はどうなっているのだろうか?」といった、「どうなっているか観察する」ようなことです。
後者は、「振り子の1往復する時間は何によって変わるのだろうか」という問題に対して、
「振り子の長さ、振り子のおもりの重さ、振れ幅、が関係しそうだが、この3つのうちどれだろう?」と、仮説のどれが関係しているのかを調べることです。

小学校理科では、このような授業を行いますが、指導をする際に、どのような教え方がよいのでしょうか?
それは、「教科書に載っている知識を教えることだ」と思われる方が多いようです。
もちろん知識の伝授は大切ですが、小学校の理科では、次の2点も非常に大切にします。

A.問題解決の方法を体験を通して理解する
小学校理科には「問題解決の過程」という流れがあります。指導要領や教科書の冒頭部分に書かれている、授業の基本的な流れのことをいいます。子どもたちには、どのようにして問題を解決するのかという基礎を、体験を通して繰り返し学んでいきます。

B.科学的に追究する方法を知る
理科で問題を解決する以上、「検証できる、つまり調べることができること(実証性)」「何度やっても同じ結果になること(再現性)」「誰もが解決方法や結果に納得すること(客観性)」という、「科学的」である3つの要素が必要になります。子どもたちには、この3つを意識させながら授業をしていきます。

このように、小学校では、事象を通して子どもたちに「科学的に問題解決ができる力」をつける指導をしたいわけです。

3.子どもたちの考えに寄り添って、一緒に考える授業をしてみましょう

小学校理科の授業は、知識を詰め込む授業ではありません。子どもたちと一緒に事象に真摯に向き合い、子どもの率直な意見を拾いながら、子どもたちから出た問題を解決することが小学校理科での “良い授業” とされています。端末を使う時代になっても、理科は写真や動画で済ませるのではなく、自然事象そのものを見て、子どもたちが考える活動を重視しています。

先生が一緒に寄り添って一緒に考える授業をするポイントは次のように考えます。

子どもの考えを引き出したいので、先生が先に答えを言わない。
子どもは先生の反応を見て、言ってほしいことを察することができるため、先生が「言ってほしいな」と思っていることがあっても、「そう!」「うんうん」など、価値づけをする反応をしない。最初は、知らないふりをしていろいろな意見を引きだし、「〇〇さんは、こう言っているけど…」のように子どもたちから出た言葉を使って、授業をコーディネートする。
子どもが考えを引きだせたとしても、考えを整理する段階で、先生がまとめてしまわない。
決まった子どもの意見だけを拾わない(多様な意見を拾う)。

4.小学校理科を教えることは “文系” も “理系” も関係ない!

ここまで読んでいただくと、小学校の理科で特に大切なことは、子どもたちの考えを引きだし、コーディネートする指導力だということがお分かりいだだけたのではないかと思います。つまり、小学校理科を教えることは “文系” も “理系” も関係ない! ということですね。

そして、文系理系を問わず理科の授業は大変です。小学校理科は4年間で31もの多岐にわたる学習内容があり、毎回どのように実験をするのか、どのように授業を進めていけばよいのかと、考えなければいけないことがたくさんあります。同じ授業パターンを使えることは、ほぼありません。

理科の授業に不慣れな方、不安な方は、教師用の授業本や教科書の教師用の指導書のやり方をまず真似てみましょう。教科書に載っている子どもの吹き出しも参考にするといいでしょう。教科書の子どもの吹き出しは、子どもたちに言わせたい言葉であったり、教科書が勧める授業の流れを示していたりすることが多いです。

授業づくりでお困りの方は多いです。近くの方に相談できれば相談するのもいいですし、地域の理科研究部の先生に聞いてみるのもいいでしょう。もちろん、私や編集部へご質問いただくのも大歓迎です。理科の授業は先生が指導法を一度身につけると、「不思議だね、どうしてこうなっているのだろう」と、子どもたちを上手に動かしながら、共に楽しく授業ができます。

先生が理科の授業を楽しめば、子どもたちも楽しく自然事象にハマっていきます。まずは先生自身が、自然事象の楽しさ、理科の指導方法の面白さ、奥深さを理解するために、一歩踏み込んでみてください。

イラスト/難波孝

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寺本貴啓

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。

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