「良い授業を見る」「教育書を読む」そして「授業でアウトプット」【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」第3回】
全国の優秀教師が何を学び、どんなふうに教師力を身に付けてきたかを紹介するこの企画。前回に続き、宮崎県スーパーティーチャーの中西英教諭(算数)のPart3で、公立小学校に戻り、勉強会を通して若い先生と触れ合う中で、若い先生に取り組んでほしいと思うことについて紹介をしていきます。
目次
若い先生に一緒に学んでほしいという思いで勉強会を行う
私は40代で公立学校に戻った後、若い先生に勉強の場を提供したいという思いから多様な勉強サークルを立ち上げるようになりました。学校内で若い先生方に、「何月何日にこんな内容の勉強会を開きますよ」とアナウンスして、勉強会を行っていったのです。開始当初は、誰も来ない日もありましたが、若い先生に一緒に学んでほしいという思いは強く、徐々に校内だけでなく県内の会など、複数の勉強会を積極的に行うようになっていきました。それは現在でも続けています。
また(スーパーティーチャーであり、指導教諭でもあるという)立場上、若手の先生の授業を見る機会も増えてきました。そうすると、例えば子供たちが自力解決を図っている間に、机間指導をしている初任者の先生が子供のノートを見て、「いいね」と言っているわけです。しかし、「いいね」と言われた子供のノートを見ていると間違っているわけで、その「いいね」は「間違えても、まず自分の考えが書けたこと」がいいと言ったのか、「間違いの中にも、何らかの良い考えがあること」をいいねと言ったのか、あまり考えずに「まずほめることが大事だ」と思って言ったのか、言動を見る限りではよく分からないことがあります(それは、子供にも伝わっていないということになります)。やはり、見ている側にも伝わるような、明確な意図をもった授業づくりを考えていく場をもってほしいものだと思うのです。
そのように明確な意図をもった、より良い授業づくりができるようになるために、若い先生方に取り組んでほしいと思うことが3つあります。その1つ目は、良い授業をたくさん見ることです。
例えば、宮崎県では指導教諭は年間数回の授業公開をしていますし、私自身、年5、6回の授業プレゼンを行っています。指導教諭や授業名人といった制度は他の自治体でも採用されていますし、そういう立場の先生方が授業公開を行ったり、勉強会を開催したりすることはあるはずです。若い先生方にはぜひそういう場に自ら進んで参加してほしいのです。そうして良い授業を見ると、「ああ、自分もやってみたいな」と思うのではないでしょうか。子供の学びと同様に、先生の学びもまずは自分がやってみたいと思えることが大事です。ただ、何もきっかけがないところから学びをスタートするのは難しいので、まずはそういう会に足を運び、見てみることから始めたらよいと思います。
もちろん、身近な場だけでなく、私が若い頃に筑波大学附属小学校に足を運んで学んだように、全国には多数の研究開発学校がありますから、そういう学校の研究会に足を運んで授業を見てみるのも良い学びの機会になることでしょう。
2つ目は、文部科学省から出されている資料や教育書、教育誌などを読むことです。教科を学ぶ上では、まず学習指導要領と学習指導要領の解説を読むことが必須です。例えば算数で、「“数学的な見方・考え方”とはどのようなものですか?」と問われた時に答えられなければ、「数学的な見方・考え方を働かせ…資質・能力を次のとおり育成する」とある、算数の目標を実現することはできないでしょう。
実際に解説を読んでいくと、「数学的な見方・考え方」について、「事象を数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え、根拠を基に筋道を立てて考え、統合的・発展的に考えること」と明示してあります。さらに各学年の内容で、例えば3年生の図形ならば、「辺の長さの相等や角の大きさの相等にも着目し図形を捉えられるようにする」と書かれており、それが日々の授業で、どこに当たるのかを確認して授業を行っていくことが必要です。そして関連書籍などを読んでいくことで、より深く、より具体的に理解していくようにするわけです。
ただし、本を読むだけでは分かりにくいこともあるので、私が行っているような勉強会に参加して、対話しながら学ぶ機会ももってほしいと思います。特に近年では、オンラインでの研修会や勉強会、オンラインサロンなど、学びの場は本当に多くなりました。それならば、わざわざ遠方まで時間とお金をかけて足を運ぶ必要もありませんから、気軽に参加できるのではないでしょうか。
教師も授業後にふり返り、省察することがとても大事
そのように良い授業を見たり、専門書を読んだりして授業イメージができたら、3つ目に、それを実際に授業でアウトプットすることです。つまり学んで終わりではなく、学んだことを自分で授業にしてやってみてほしいと思います。ただし、本に書かれたことを実践して終わり、優秀な先輩の授業を真似して終わりではなく、自分の教室での子供の姿を基にしっかりと省察して、修正、改善を図っていくことが大切です。
理論はあくまで理想化されたモデルですし、先輩のすばらしい授業はそのクラスの子供の実態に合わせたものです。ですから、実際に自分の教室でやってみたらうまくいかないことも少なくないでしょう。それをしっかりと記録して、自分のクラスの子供たちの実態や自分自身の個性に合ったものにアレンジしていくことが、授業づくりを学んでいく上ではとても重要なのです。
例えば、私自身が授業を行うときには、A4の方眼紙に授業構造や板書などを書いているのですが、それを基にして授業を行った後、その授業での子供の反応やうまくいったこと、いかなかったことをその方眼紙の各場面に書き込んで省察するようにしています。それは、若い頃に目の前の子供たちの実態に合った、より良い授業をしていくために始めたことで、今でも実践していることです。
教師という仕事は大変多忙なため、せっかく工夫して授業をやっても、ついやりっ放しになってしまうこともあるでしょう。しかし、それはとてももったいないことで、授業後にふり返り、省察することが、学ぶ上でとても大事だと思います。
そして、教師としての学びを深めていく過程で何よりも忘れてほしくないのは、私自身が研究校に行ってすぐに指摘され、反省し、学んだように、子供の学ぶ姿をしっかり見て、そこから学んでいくことです。私たち教師の仕事は、子供たちのより良い学びを創造することなのですから。
次回【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」第4回】「もっと学力研で勉強したいな」は、こちらです。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之