児童一人ひとりを大切にする、図工作品の掲示方法
公開研究会などでいろいろな学校にお伺いすると、児童の作品が掲示、展示されてあるのをみかけます。学校によって、掲示、展示の方法はさまざまですが、一人ひとりが大切にされているなあという方法は、ぜひ取り入れたいですね。卒業直前、六年生の最後の作品展に活用してみるのもいいですね。
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
目次
1 先輩から伺った話
わたしが初任から10年くらい経った時のことです。県指定の大規模な研究校に勤務していました。同僚の所属教職員はあちこちの学校の研究会に参加し、情報を集めていました。ある先輩、Tせんせいがこんなことを言いました。
「この前ね。全国から参観者を集めている有名研究校に行ってきたんだけど、そこは全員の絵が展示してあってね。しかも一点一点額装してあるの。やっぱり『一人ひとりの学び』とか『個に応じた』と銘打ってあるだけに、そのコンセプトが絵画展示にも表れているよね。うちの学校は、作品の絵画にバシバシ画鋲を打って掲示しているけど、作品に穴をあけるってどうなんだろうね? 図工の評定のために、絵に優劣を決めるけれども、その子なりの精一杯書いた作品だからね。大切にしなくてはならないんだよね」
この話を聞いて、ああその通りだな、と気づかされました。今まではとにかく絵を貼ればいいやということで、傾きやスペースだけを気にしていたのです。それ以来、予算で許される限り額を購入してもらい、額装掲示の機会を増やしていきました。また、予算を管理できる立場になってからは、学校の児童全員分の額を購入し、作品掲示をしました。
さらに、Tせんせいは、こんなことも…。
「たまにね。展示スペースがないからと言って、教室のドアに貼っている学級をみるんだけどね。ドアはドアなんだよね。そこに貼られた児童はどんな思いなんだろうね。スペースがなかったら、日替わりとか掲示期間を設定したらいいのにね。一度に全員掲示しなければならないという呪縛から逃れればいいんだよね。場合によっては日替わりで、掲示係の児童に任せてもいいんだよね」
そこまで考えの及ばなかったわたしは、反省しきりでした。そして、Tせんせいのアイディアをしっかりいただきました。
2 甥っ子が作品を持ち帰って
ある日、甥っ子の家に遊びに行きました。甥っ子の絵画が飾られてありました。
普通は、せんせいがそのまま返したり、絵の下に貼り付ける作品カードにちょこっと赤ペンでコメントみたいなものを書いて返すことが多いのですが、甥っ子の担任のせんせいは、それとは別にクリップで留めた短冊に褒め言葉をたくさん書いて、返してくれたみたいです。
親としては、それはうれしいもので、ずっと絵を貼っていたようです。作品を大切にするということはそういうことなのだなあと思いました。
単なる教室掲示は必要ないという説を唱える方もいらっしゃいます。確かに、ただ作品を貼るだけでは、児童はそこから何かを読み取ったり、感じ取ったりすることは難しいかもしれません。
丁寧な短冊コメントが全員についていれば、それらを掲示するとクラスメイトの作品をじっくり見るかもしれないですね。
また、掲示の代わりに作品交流の時間をとり、一人ひとりが作品を紹介し感想を伝えあったり、せんせいがコメントしたりするのも良いかもしれません。
最近はやりの言葉で「タイパ(タイムパフォーマンス)」というのがあります。労多くして功少ないことは辞めるに越したことはありませんが、教育の現場は何でもタイパで割り切れるものではないでしょう。手間がかかったとしても、成果があると思うならやるべきです。
甥っ子のせんせいは、丁寧なコメントを書いて児童に伝えることに、価値を見いだしたのでしょう。
3 作品を返したあと
さて、児童に作品を返した後、みんな家に持ち帰ってどうしているか考えたことがありますか? わたしは自分の子どもたちのその後を見たり、担任した児童の作品の扱われ方を聞いたりしたことがあります。一言で言うと、
思い入れがある作品やできばえに納得した作品はとっておく
ということですね。何となく作った作品や、自分で気に入ってない作品は、「いいや、要らない。捨てて!」とすぐ処分してしまいます。
逆に制作過程で苦労したり、工夫したりしながら作った、思い入れのあるものや、達成感や満足感を感じている作品は、手元に残しておきたい、ということでしょう。
図工の担任・担当のせんせいが、制作途中の段階で児童を見ることをせず、別の業務をしていたとしたら、それこそタイパは上がるかもしれませんが、児童の思いに共感したり、相談にのったり、アドバイスしたりする時間は無くなります。そして、児童の作品への思いもこもりにくくなるわけです。
わたしが図工を受け持った時は、児童が作品をつくる間は、常に「これ、いいね」「こういう方法があるなんて驚き!」「このデザインがすてきだな」とメッセージをたくさん伝えるようにしています。また、児童が相談に来た時は、できる限り個別に作品づくりのアドバイスをするようにしています。
4 図工作品カード・オールインワンタイプ
初任者研修でお伺いしている学校で、作品の写真も入るオールインワンタイプの作品カードを見ました。
これはグッドアイディアですね。かさばる作品の保管場所に困る家庭もあったりしますので、これ一枚があれば、永遠に残る記録と記念になります。
通常の作品カードとオールインワンタイプの両方がダウンロードできるようにしましたので、ぜひご活用ください。
●普通の作品カード
●オールインワン型カード(B5判程度)
ICT機器の活用で、児童に自分のタブレットで上記のカードを作成してもらい、担任や図工担当者に提出するという実践も良いと思います。大人の報告書企画書提出、大学生のレポート提出のような感じです。
5 画鋲を使わない簡単な方法
最後に、児童一人ひとりの作品を大切にするための、ちょっとしたアイディアを。絵画の額が購入できないという時に、ぜひ試してみてください。こんなふうにテープや厚紙などを裏に貼り、画鋲を刺す場所をつくるといいですよ。多少手間はかかりますが、思いは児童や保護者に伝わると思います。
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山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、さまざまな分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、さまざまな資格にも挑戦しているところです。