働き方改革の実行力を高める3つのポイント【妹尾昌俊の「半径3mからの“働き方改革”」第21回】
学校の“働き方改革”進んでいますか? 変えなきゃいけないとはわかっていても、なかなか変われないのが学校という組織。だからこそ、教員一人一人のちょっとした意識づけ、習慣づけが大事になります。この連載では、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた妹尾昌俊さんが、「半径3m」の範囲からできる“働き方改革”のポイントを解説します。
執筆/教育研究家・一般社団法人ライフ&ワーク代表理事・妹尾昌俊
目次
The Knowing-Doing Gap
すばらしいアイデアも、読んだり、聞いたり、考えたり、書いたりするだけではだめだ。
『なぜ、わかっていても実行できないのか 知識を行動に変えるマネジメント』(ジェフリー・フェファー、ロバート・I・サットン 著[長谷川喜一郎 監訳、菅田絢子 訳]日本経済新聞出版社、2014)
この一節に出会ったとき、ドキッとした。私は、これまで教職員向けの研修講師として、いわば“すばらしいアイデア”を売る、広めることを仕事にしてきたのだから。
なぜドキッとしたのか。それは、100枚近いシートをパワーポイントで作って理路整然とプレゼンしても、あるいは一度に数百人をアツくする講演ができたとしても、相手が動かなければ、学校も、その先の子どもたちも変わらないからだ。「今日はいい話が聞けたなあ」「とても満足した」とは言ってもらえるし、アンケートでも多くがそう答えてくれるのだが、それだけでは不十分。私はカウンセラーでも、落語家でもないのだから。
さて、前回まで、働き方改革、業務改善をめぐって、アイデアを出す場をつくり、行動することを決めることの重要性を解説してきた。だが、冒頭に引用した言葉のとおり、すばらしいアイデアでとどまっていたら、だめだ。
この一節は、『なぜ、わかっていても実行できないのか 知識を行動に変えるマネジメント』という本から。もともとのタイトルは、“The Knowing-Doing Gap”。つまり、知ること、あるいは知った気になることと、行動に移せるようになることの間には、大きな溝がある。明代の儒学者、王陽明は、「行わなければ、知っているとは言えない。知っていても、行わなければ、知らないのと同じである」との名言を遺している(「知行同一」)。
わかっていても実行できない状態を脱するには
こうした悩みは、おそらく私だけでなく、読者を含めて、かなりの学校や教育行政にも言えることではないだろうか。たとえば、多くの教職員は、生徒の主体性を伸ばしたい、生徒の意見をなるべく尊重したいと考えている。にもかかわらず、必要性の乏しい校則が一部に幅をきかせているのは、知行同一とは言えまい。
話を働き方改革に戻そう。私が研修などをすると、さまざまなアイデアが出てくる。たとえば…
- 研究授業や研究大会について、もう少し負担を減らしたい。
- 通知表の所見を毎学期から年1回に減らしてもいいのではないか。
- 陸上記録会や水泳記録会はやめてもいいのではないか。
- 少子化で教員数も減っているのに、部活動を幅広く展開し過ぎているのではないか(減らすこともやむを得ない)。
などだ。
こうしたアイデアのなかには、何も私が研修をしなくても、以前から思いついていたものもかなりあったはずだ。だが、何年も実行できないでいた。
働き方改革の実行力を高めるためには、どうするか。言い換えれば、わかっていても実行できない状態から脱するにはどうしたらよいだろうか。
効果が見えてくると教職員のやる気はちがってくる
私は、3つのことが重要だと考える。
第一に、当事者意識を高めることだ。ここは、「Why 働き方改革?」という点に関わり、これまでの本連載でも強調してきたことなので繰り返さない。「一般の教職員には関係がない、管理職が考えていくことだ」といった認識では困る。
第二に、先例から学んでおくことだ。働き方改革、業務改善は、教職員の不安との闘いでもある。「保護者のクレームが増えるのではないか」「児童生徒が残念がるのではないか」などだ。こういう気持ちはよくわかるが、やってみると案外大丈夫だったという事例も多い。前回も紹介したように、留守番電話などがその典型例だし、運動会の午前開催などにも言える。
もちろん、先例がすべて自分の学校にフィットするかどうかはわからない。学校ごとの特色や課題によっても取り組むべきことは異なる。そのあたりは留意したい。
また、うまくいかなかった実践も多い。たとえば、働き方改革と言っておきながら、自宅残業が増えたといった話はあちこちにある。そうした話も参考にして、どういう仕掛けや働きかけが必要なのか、よく準備しておきたい。
第三に、同志、仲間とともに小さな成功を見せることだ。授業改善などとちがって、働き方改革では、すぐにはメリットが実感しにくいものもある。そこで、たとえば、部活動の練習を短時間にしたが、集中して取り組めるようになって、チームがよくまとまったとか、生徒が短い時間でどう効果的な練習を行うか考えるようになった、といった効果が見えてくるとよいと思う。
職員会議などの場で、どうしても反対意見も出てくるだろう。その意見も傾聴しつつ、「まずは小さな単位や範囲でやってみて、そこから見直していこう」といった発想も重要だ。だれでも、やったことがないものには不安が先立つ。小さなことでも効果が見えてくると、教職員のやる気はちがってくる。 ぜひ3つのことを進めて、働き方改革の実行力を高めてほしい。
※参考:妹尾昌俊『思いのない学校、思いだけの学校、思いを実現する学校』(学事出版)、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』(教育開発研究所)
『総合教育技術』2019年12月号に加筆
野村総合研究所を経て独立。教職員向け研修などを手がけ、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』『学校をおもしろくする思考法』(以上、学事出版)、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』(教育開発研究所)、最新著書に『教師と学校の失敗学 なぜ変化に対応できないのか』(PHP研究所)がある。