第58回 2022年度 「実践! わたしの教育記録」入選作品 宮森正人さん(北海道札幌市立札幌開成中等教育学校教諭)

特集
教育実践コンテスト「実践!わたしの教育記録」特集
関連タグ

“面白そう!”から始めよう
~主体性を高めるきっかけづくり~

第58回  2022年度 「実践! わたしの教育記録」入選作品 宮森正人さん(北海道札幌市立札幌開成中等教育学校教諭)

1 はじめに

本校は2015年4月に札幌市立札幌開成中等教育学校として開校しました。私は、1期生の学年主任と同時に本校の主体性育成プログラムの主担当となりました。そして、現在は5年次と6年次を統括した発展期の主任をしながら主体性育成プログラムの主担当を継続し、この8年間で、多くの取組を実施してきました。まず私は、主体性育成プログラムをSELF(Stimulating Experience and Learning for the Futureの略)と名付け、刺激的な取組を通して主体性を育成していくことにしました。取組の軸は①自己選択の機会を多くつくる、②失敗のチャンスを奪わない、③活力を与える勇気づけをする、の3つです。さらに、取組を実施するためには、私が提案する取組を、教員・生徒・保護者が受け入れてくれることが必要です。例えば、体に良い料理だからと勧めても、料理した人との信頼関係や料理のおいしさがなければ食べてもらえません。そこで私は、受け入れてもらうためにはまず、教員同士・生徒と教員・保護者と教員の間に信頼関係つまり心理的安全性が必要であり、さらに、取組には目的だけではなく面白さ(自己選択感・ドキドキ感・成長感・参画感)も加えることが必要だと考えました。

そこで今回は、取組に面白さをどのように加えて、みんなと実施したかを報告したいと思います。

2 信頼関係を深めるきっかけづくり

(ⅰ)教員同士の信頼関係

新しい取組を始めるということは、仕事が増えるということです。その仕事を受け入れて、協力してもらうためには、5・6年次(発展期)の担任団に心理的安全性を感じてもらい、発展期担任全員が共同体感覚で仕事をしてもらうことが大切です。そこで、以下の3つの取組を行っています。

「自分取扱説明書の発表」
4月の最初のミーティングで「自分取扱説明書」として4項目(苦手なこと・されたら嫌なこと・されたら嬉しいこと・仲直りの仕方)を発表してもらいました。この自己開示によって、安心してお互いに助け合える関係になっています。

「異学年のバディー制」
従来、職員室の座席は学年ごとで場所が分かれていましたが、私は5・6年次の同名クラスで隣同士に座ってもらうこと(例えば5年1組の隣は6年1組)にしました。そしてお互いの仕事を助け合ってもらうことにしました。これによって5年次担任は来年の仕事の予習ができます。さらに、毎月、月末には、バディー同士でサンクスカードを交換してもらっています。これによって自分のどのような行動が、相手に役立っているのかが分かり好評です。私は、副主任と交換しています。

「ノーミーティング モアコミュニケーション」
本校では、基礎期(1・2年次)充実期(3・4年次)発展期(5・6年次)と3つの期に分かれていて、期の会議が1週間に一度設定されていますが、発展期では、生徒情報やアイデアの提案をタイムリーに行うため会議は開かず、職員室での日常のコミュニケーションの中で済ましています。これによって、日常の会話が増え、若い教員も発言や質問をしやすくなります。さらに、職員室で常に生徒情報等などが共有されるので、教科担任からの情報も入りやすくなりました。

(ⅱ)生徒と教員の信頼関係

「自優トーク」
生徒にも自己開示できる機会を提供することが必要だと考え、担任との面談にも新しい取組を導入しました。従来、担任との面談では、進路や成績の話が中心となります。しかし私は、担任が成績の話を一切せず、生徒が自由に得意なことや苦手なことを話すという面談(自優トーク)を毎日してもらいました。生徒たちは担任に自分の強さや弱さを話すことによって、自分を見つめ直すきっかけになると同時に、担任との結びつきも強くなり、学校が安心の場になったようでした。実際、面談の回数は以前より増えるが自優トークの場合、成績分析などの事前準備がいらないので、担任も生徒も負担感は少ないようです。

(ⅲ)保護者と教員の信頼関係

「自分プレゼン」
保護者が学校の取組に対して安心を感じるのは、自分の子どもの成長を実際に見ることだと考え、夏休みの三者面談を従来の担任中心の個別面談形式ではなく、生徒自身によるプレゼン形式(自分プレゼン)で実施することにしました。

自分プレゼン(20分)の実施方法と内容  
①生徒自身による「自分プレゼン」…(5分)
※内容には6項目(a.強み b.短所 c.趣味 d.尊敬する人 e.将来の夢 f.志望大学)を必ず入れることとしました。
②「自分プレゼン」に対して、面接官(担任・保護者)と生徒の質疑応答…(5分)
※当日は保護者に、「質問例プリント」を渡し、プレゼン後、自由に質問してもらいました。
③「自分プレゼン」の内容をベースに担任より学校での様子の報告…(10分)

さらに、座席の配置にも工夫をしました。自分プレゼンの時は従来の面談のように保護者と生徒を並べるのではなく、生徒を一人にして、教員と保護者が並び、親離れ子離れの意識をつけるようにしました。

個別面談・自分プレゼン
個別面談・自分プレゼン

「自分プレゼン」によって、日頃、進路等について話さないわが子が、保護者にしっかり自分の夢を語り、プレゼンソフトを使って立派にプレゼンする姿を見て、保護者は学校の取組の素晴らしさと、わが子の成長を感じていました。中には、英語でプレゼンする生徒や親への感謝や尊敬の言葉を述べる生徒もいて、保護者にとっては驚きと感動の場でもあるようです。

3 “面白そう!”をきっかけにみんなを巻き込む

(ⅰ)自己選択する面白さを加える

「カモン! ウィークス」
主体性の育成には、様々な大人と話す機会が必要と考え、面談したい教員を生徒が選ぶ「カモン! ウィークス」という面談を実施しました。方法は、教員の得意分野のキーワード3つを書いた検索一覧を生徒に配布し、5年次全員がその中で話したい先生に自ら予約を取って面談するという仕組みです。もちろん、担任と面談してもよいのですが、3分の2以上の生徒が、担任以外の教員と面談をしていました。中には、複数の教員と面談する生徒や管理職と面談する生徒もいました。これをきっかけに、いろいろな教員に声をかけやすくなったと生徒からも好評でした。教員にとっても、自分の得意分野を聴きに来る生徒との面談なので積極的に協力してくれました。

検索キーワード一覧(例) 
検索キーワード一覧(例) 

「自己選択するオンライン授業」
私は、コロナウイルスで学校が休校になった時もあえて、発展期は動画配信等を全員参加の一斉授業形式ではなく、各自の自己選択形式にしました。そこで私は二つのコンテンツを用意して配信しました。一つ目は、1日の生活リズムを保つために、朝9時に「おはようございます」の挨拶を送信してきた生徒とのみ、1対1で講義プリントをやり取りして問題演習をする「午前9時からの勉強会」という取組です。最初30人程度の参加でしたが、楽しそうだということが生徒間で話題となり、最終的には60人以上の生徒が参加してきました。この様子を見て、他教科の教員も面白そうだと始めました。

「午前9時から勉強会」実際のやり取りの様子の一部
「午前9時から勉強会」実際のやり取りの様子の一部

二つ目はストーリー型演習で、課題をロールプレイングゲームのようにストーリー仕立てにして実施しました。これも好評で、生徒同士でSNSを利用して相談(グループワーク)しながら解答してくる生徒たちも現れました。

ストーリー型演習での課題の一例
ストーリー型演習での課題の一例

生徒の感想
コロナで家から出られなかったけれど、友達と一緒にできて楽しかった。
文章から必要な情報を読み取り、自分の知っている知識を実社会とつなげる力が身に付きました。

(ⅱ)ドキドキする面白さを加える

「席替えデラックス」
中等教育学校では6年間一緒に学校生活をしていますが、小さなグループに分かれ、他のグループに対して苦手意識を持っている生徒もいました。しかし、社会に出れば、苦手な人は必ずいるので、その苦手意識を直す取組が必要でした。そこで秋に、学年単位での席替え(席替えデラックス)を数回実施しました。これは、生徒のアンケートをもとに、共通な項目(例えば好きな麺類)でクラス分けをして、そのクラスで1週間過ごすという取組です。生徒は自分と似た人は誰なのかドキドキするようで、クラス発表の掲示板の前には人だかりができていました。

「席替えデラックス」発表の様子
「席替えデラックス」発表の様子

これによって、苦手だと思っていた人にも自分と同じ共通点があることが分かり、人を多面的に捉える力がついたようです。この取組では、クラス数が増えてしまうので、担任以外の教員にも協力してもらいました。そのクラスの担任も、生徒集団と同じ共通点を持つ教員にしたので、教員自身も楽しみながら、生徒と1週間過ごしました。

「ビッグチャンスセミナー」
社会に出たら嫌な仕事でもしなければならないので、今度は、苦手な中から良さを見つける練習をしようと思い「ビックチャンスセミナー」を企画しました。これは、あえて不得意な教科を選んでセミナーを受講し、その教科の良さを見つける練習です。この取組は苦手な生徒ばかりの教室での授業なので、教科担当の方がドキドキするのですが、教科担当は、この緊張感は久しぶりなので興奮すると前向きに捉えて授業をしていました。その成果もあり、生徒からの感想は好評でした。

生徒の感想
今回のセミナーで数学が実生活にこんなに応用されているということを知り、数学は「受験に使うもの」「難しくて大変だ」というイメージが少し消えたので、これからも数学の面白い一面にたくさん触れていくようにしたい。
関心のない分野の知識でも、今回の授業の例のように思いがけない場面で活用できることもあると感じた。嫌なことでも面白さを見つけようとする姿勢が、成長するために必要だと改めて感じた。

(ⅲ)成長を感じる面白さを加える

「セカンドチャンスシステム」
中等教育学校では、小学6年生以降受験体験をしていないので、大学受験を自分事化することが必要だと考えました。そこで私は「セカンドチャンスシステム」を考えました。これは、ファーストチャンスとして5年次の1月と2月の模擬試験を本番の入試と見立てて、B判定以上を合格とし、3月に受験番号で合否を発表するという取組です。5年次に実際、模擬願書を書かせてみると、何人かは中学受験のように保護者が書いてきて我々を驚かせました。3月、ファーストチャンスの合格発表後、生徒に感想を聞くと、合格した生徒は「来年も合格したい。もっと磨きをかけたいと思う」と答え、不合格だった生徒は「来年はこんな悲しい思いはしたくないのでこの1年、浪人したつもりで頑張る」と答えていました。この時の気持ちが本番のセカンドチャンスに向けて良い刺激になっているようです。

5年次のファーストチャンスの合格発表は、昼休みに、卒業生の進路実績の掲示板の下に貼るので、全校の生徒が昼休みに発表を見に集まり、大学受験にはまだ先の1年次にとってもよい刺激になっています。また、毎年ファーストチャンスの合格発表掲示板の前で合格者が記念写真を撮り合う光景も見られます。

「セカンドチャンスシステム」における合格発表風景
「セカンドチャンスシステム」における合格発表風景

「ビフォー・アフターテスト」
数学の授業でも、私は成長感を体感してもらいたいと思い、ビフォー・アフターテストという演習を実施しました。

中高一貫校なので5年次から受験対策の演習が始まります。私の演習方法は、まず既習範囲を復習する前にビフォーテストを行い、その点数を「みるみる成長! 見える化カード」に記入させます。そして1週間各自で勉強した後、同じ範囲のアフターテストを行い、またカードに記入させるというシンプルなものです。しかし、この良さは、「見える化」だけの効果ではありません。ビフォーテストでは、数学が得意な生徒でも復習をしていないので点数が低く、苦手な生徒と同じような点数をとります。それを苦手な生徒が見て、自分も得意な生徒と同じスタートと感じ、得意な生徒と一緒にアフターテストに向けて意欲的に取り組むようになりました。そして、実際に好成績をとり、成長を感じて喜んでいる姿を多く見ました。また、数学の得意な生徒は復習の大切さを実感し、自分で苦手分野を分析して今まで以上に復習するようになりました。

ビフォー・アフターテストの「みるみる成長! 見える化カード」
ビフォー・アフターテストの「みるみる成長! 見える化カード」

(ⅳ)参画する面白さを加える

「SELF式クラス替え」
高校受験という大きな決断を経験していない生徒たちに、自分で大きな決断をし、その決断に責任を持つ経験をさせたいと考えました。そこで、私は「SELF式クラス替え」という取組を5年次へ進級する時に実施することにしました。「SELF式クラス替え」とは、クラスのメンバーを教員が決めるのではなく、生徒自身がクラス替えに参画し、クラスを自分で選ぶ取組です。クラス替えの方法は、各自が自分の名前を書いたプレートを自分の入りたいクラスのフレームの中に貼っていくという方法です。私は、生徒に、男女の比率等はすべて任せるが、学年としてうまくいくことを考え、自分がそのクラスでどんな役割を担うかを考えてクラスを選ぶように指示しました。本当に自分で選択できるのか不安がる生徒もいましたが、生徒たちは、実際にやり遂げると、自分たちが一つ大きく成長したことを感じたようでした。

SELF式クラス替えに向けて自分のネームプレートを貼る様子
SELF式クラス替えに向けて自分のネームプレートを貼る様子

毎年、出来上がったクラスは、元気なクラスと静かなクラスになります。学校行事では、静かなクラスは勝つことを優先するのではなく、楽しさを優先し今まで以上に行事を楽しんでいるようです。そんな姿を見て、行事でクラスが平等に勝てることを意識して、力のある生徒を均等に分けていた教員主導のクラス替えについて改めて考えさせられました。

生徒の感想
自分だけでなく、学年の全員が幸せになれるにはどうすれば善いかをその期間中は非常に考えた。個々の考える力を育てるにはとても良かったと思う。
最初は「どうして先生が決めてくれないの!」と正直思っていましたが、仲の良い友達と同じクラスになれたのと、今まで苦手に思っていた人とも話せるようになり、交友関係を広げることができたのでよかった。
クラス替えによる新しいクラスへの不安などがなかった。
仲の良い人と同じクラスになれたおかげで、学校に行きたいと思えた。イベントへの熱量が同じくらいだから、無理に周りに合わせなくてもよかったので心から楽しめた。

終わりに

卒業生に対するSSHのアンケート調査では、「主体性・協調性が向上しましたか」の質問に、「向上した」と答えた生徒がそれぞれ87%、89%もいました。これは、SELFの取組をみんなが前向きに取り組んだ成果だと思います。これからも、“面白そう!”を加えた取組をきっかけに、みんなと一緒に学校をつくっていこうと思います。

受賞の言葉

北海道札幌市立札幌開成中等教育学校教諭・宮森正人

この度は、このような栄えある賞をいただくことができ、大変うれしく思います。この実践は、もちろん私だけでは実践することはできず、関わってくれた先生方・生徒たち・保護者の方々、そして卒業生たちや外部関係者の方々の協力があってこそ毎年継続できています。この場をお借りして、皆様に深く御礼申し上げます。特に、発展期担任団の先生方は、忙しい中、一緒に取り組んでいただき感謝しています。また、ビッグチャンスセミナーで講師を快く引き受けてくれた先生方の授業は、生徒たちだけではなく私にとっても勉強になっています。ありがとうございます。

近年、先行きの不透明な時代と言われ、変化の多い時代になってきました。そのような時代を生き抜いていかなければならない生徒たちにとって大切なことは、変化を楽しむ力だと思います。そこで、私は、多くの取組を通して、変化を楽しみながら最適解を見つける力を生徒たちにつけていきたいと思います。その実現に向けて、これからも、みんなと一緒に様々な取組に挑戦していきたいと思います。

最後に、この実践を認めてくださった関係者の方々に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
特集
教育実践コンテスト「実践!わたしの教育記録」特集
関連タグ

授業改善の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました