デフォルトを疑え!「教師用事務机」はどこに置く?【どの子も安心して学べる1年生の教室環境 #12】
学校にわくわくしながらも同時に不安を抱える1年生が、安心して学べる「教室環境づくり」について提案する連載(月1回公開)です。『教室ギア55』(東洋館出版社)や『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版) などの著書をもつ、教室環境づくりのプロフェッショナル〈鈴木優太先生〉が、さまざまなアイデアを紹介していきます。
第12回は、教師用事務机はどこに置くべきか?について考えます。
鈴木優太(すずき・ゆうた)●宮城県公立小学校教諭。1985年宮城県生まれ。「縁太(えんた)会」を主宰する。『教室ギア55』(東洋館出版社)、『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)など、著書多数。
目次
教師用事務机のデフォルトの場所
突然ですが…「教師用事務机」は、①~⑫の何番の場所に置いていますか?
地元の仲間や全国の先生方、世界の日本人学校などに勤める先生方に尋ねてきました。
圧倒的に多いのが…「①」です!
日直で各教室をまわる際に注意深く見てみてください。概ね同じような傾向が見られるのではないでしょうか。教師用事務机のデフォルトの配置場所は、①(黒板横の窓側)と言えます。
「では、何のためですか?」
このように問うと、特に若い先生の中に次のように答える方がとても多いのです。
「考えたこともなかった」
「教室を引き継いだ時からそうだったので」
「他の場所に置いてもいいの?」
①は、子供たちから教師の顔がよく見え、教師からも子供たちの顔がよく見える場所です。窓側なのは、教室の出入り口の動線をふさがない場所だからです。
「では、ここが本当に今の教室のベストな場所なのでしょうか?」
どのような手立てにもメリットもあれば、デメリットも存在します。目的を考え、日常をより良いものにアレンジしていくことが、どの子も安心して学べる教室環境づくりに欠かせません。
デフォルトを疑ってみよう
多くの教室には、①に置いた教師用事務机に加え、黒板前に教卓が置かれます。オルガンや給食台、テレビなどの大型提示装置や1人1台端末を保管するための充電保管庫は備え付けです。課題提出用の机や作業用の長机、採点のための椅子、スチールロッカーやカラーボックスなどを配置する教室もあります。そんな教室を俯瞰して見てみましょう。
1「足し算のアレンジ」です。
黒板前が、教師「だけ」ゾーンという感じになっていませんか。
学習活動を便利にするための物を教室に持ち込む発想は定石ですが、コロナ禍に見舞われた2020年以降、教室はとても手狭になりました。児童用机を一つ一つ離して置かなくてはいけなくなった教室で、一層際立って感じられるようになったのです(2019年までは、児童用机を隣合わせにする教室がほとんどでした)。
教師の顔が見えることで「規律」が教室に生み出され、「安心」が育まれる点がメリットの一方、子供たちの目には常に教師の姿(や物)が飛び込んできます。
教師に言われたことはできるけれど、自分たちで考えることや行動することは苦手な人を育ててしまってはいないでしょうか。従順さを育むことに重きを置いていた時代はそれでも成り立っていたのかもしれません。
黒板や大型提示装置を子供たちが活用する学習活動も難しい環境になっていませんか。これからの時代を生きていく人を育てることが私たちの使命です。学習者主体ではなく、教師主体の学級運営に陥りがちな点がデメリットとして想像できるでしょうか。
私たちが、まずできることは2つです。
「自覚」することと「メタ認知」することです。
教師の教室での存在感は、良きにつけ悪しきにつけ、とても大きいということを「自覚」することがまずは大切です。そして、イラストで示したように教室を俯瞰して見るつもりで、「メタ認知」をしようと努め続けることが大切です。
「デフォルトを疑え!」
ドキッ!とした先生や、考えたこともなかった先生は、ぜひこの機会に一緒に考えてみましょう。私も、常々自分に言い聞かせています。そして、できることから動き出してみましょう。
教師用事務机の場所は…変えてよいのです!
たかが教師用事務机ですが、されど教師用事務机です。教室のどこに置くのか、そんなことに教育観は色濃くにじみ出ます。
アレンジをおもしろがろう
教室に置いていた物を外(廊下や空き教室など)に出してみましょう。コロナ禍では、ソーシャルディスタンスを確保するためにやむをえずという教室もあったかもしれません。
2「引き算のアレンジ」です。
思い切って、教師用事務机も教室からなくしてみました。
やってみると、これが悪くない。子供たちのための活動スペースが広く確保できるので、ダイナミックな学習活動にチャレンジする機会が増えました。バインダーで採点や、ワイヤレスマウスの操作をしたり、ロッカーの上でスタンプを押したりする仕事術の面でも広がりました。
教室に常設する物や鞄の中身が精選され、授業の準備をこれまで以上に入念に行うようになった効用も大きいです。給食を食べる時に(自分のための)児童用机を教室外から運んでくることが手間ではありました。
さて、この原稿を執筆している時点の私です。教師用事務机は⑪の別教室で担任外の先生に使ってもらっています。そして、児童用と同じ大きさの机を③(ロッカーの窓側)と⑫(大型テレビの裏側)の「2か所」に配置しました。
3「かけ算のアレンジ」です。
「2か所」に置いていることには目的があります。
③は、子供の提出物チェック&コメント術や自治を促す『動線活用』(連載第11回参照)に記したように、授業において子供たちが学びやすい「動線」を確保するためです。取り回しがよい児童用机は、用途に合わせて自由に動かすことができます。
写真のように、たまたまヒーター横に机がシンデレラフィットだったこともあり、使わないときにはここに格納しています(A)。採点や課題のチェックなどのときには、机を展開して使います(B)。折り畳み定規や変形ロボットのようなイメージです。また、窓側にベンチのある珍しい教室環境なのもあり、このベンチに腰掛けながら子供たちを眺めるのも気に入っています(C)。
⑫は、授業でパソコンを使う機会が多いために設置しています。主に、教師がパソコン作業をするための場所なのですが、大型提示装置がついたてのような役割をするため、子供たちのノイズになりにくいのです。パソコンに向かいながらも、子供たちの自然な様子を眺められます。
教室での教師の存在感がメリットにもデメリットにもなることを自覚するようになり、教師の教室での居場所に気を遣うようになりました。特に、(私と同じように)自身のキャラクターが強めと自覚する方の場合は、教師の存在感を潜めることに努める必要もあるのです。先生の秘密基地と呼んでいて気に入っている場所です。
黒板前を子供「も」ゾーンにした配置
黒板前を、子供「も」ゾーンにするイメージで配置してみましょう。
自ら学びに向かう人を育てたい願いを具現化した配置です。黒板や大型提示装置の前になるべく物を置かないようにすることで、子供たちが前に出て活躍する学習活動に取り組みやすい環境になります。そして、私たち教師は前からばかりでなく、後ろから、時に横から…少し離れた場所から子供たちを眺めることで、様々な姿に気付くことができます。
ただし、誤解してはいけないのは、①の場所が悪というわけではないということです。前述したように「安心」を実現するために、これまで多くの教室で①が採用されてきた点は見逃せません。教師の存在感や権威を演出することで、子供たちが安心感をもって学べる教室になること、ちょうどよい距離感で子供たちと関わっていけるという先生もたくさんいるでしょう。子供たちの実態、願い、教師のキャラクターによって教室環境をアレンジしていく「柔軟な発想」が大切なのです。
教室環境を考える際のポイント
1:足し算のアレンジ(必要な物と配置を考える)
2:引き算のアレンジ(必要なくなった物をなくす)
3:かけ算のアレンジ(利便性を求め、形を変えて使用する)
これらのポイントを参考にしてください。
繰り返しますが、教師用事務机の場所は…変えてよいのです!
そして、年度途中でも、変えて構わないのです!
教師用事務机の配置は一例ですが、「教師は最大の教室環境」とおっしゃる先生方もいることから考えても、重要な視点だと考えます。ちなみに私は、冒頭で示した①~⑫のあらゆる場所を試しました。これからも試行錯誤をしながら、変わり続けていくことでしょう。
「どんな人を育てたいのか?」
「どんな授業をしたいのか?」
「自分はどうしたい?」
実際に試すことができるのが、私たちの仕事が創造的でおもしろい所以です。これからの時代を生きていく人を育てるために、デフォルトを疑ってみること、そして、アレンジをおもしろがることが、これからの教室環境づくりのマストスキルです。
参照/鈴木優太『教室ギア55』(東洋館出版社)、『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)