自分と向き合う時間の確保のための働き方見直し【妹尾昌俊の「半径3mからの“働き方改革”」第17回】
学校の“働き方改革”進んでいますか? 変えなきゃいけないとはわかっていても、なかなか変われないのが学校という組織。だからこそ、教員一人ひとりのちょっとした意識づけ、習慣づけが大事になります。この連載では、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた妹尾昌俊さんが、「半径3m」の範囲からできる“働き方改革”のポイントを解説します。
執筆/教育研究家・一般社団法人ライフ&ワーク代表理事・妹尾昌俊
目次
「子どもと向き合う時間の確保のために働き方改革」は半分うそ!?
これまで文部科学省や各教育委員会は「子どもと向き合う時間の確保のために、働き方改革をしましょう」と呼びかけてきた。このおおよその趣旨としては、会議や事務作業などの間接的な業務からなるべく教師を解放し、児童生徒の相談にのったり、授業準備をしっかりしたりするほうに時間を振り向けようということだ。
さて、読者のみなさんは、このキャッチフレーズは本当だと思っているのだろうか?
ちょっと意地悪な質問だったかもしれない。だが、ここに学校の働き方改革のエッセンスと難しさがつまっているようにも思う。
この理念は、半分合っているが、半分間違っていると私は思う。
上記の趣旨のように、間接的な業務を減らすことには私も賛成だ(会議の見直しはコミュニケーション不足など副作用もあるので、功罪をよく考えたいが)。 ところが、「子どもと向き合う時間の確保」と言っているかぎり、おそらく、多忙はいつまでも解消されない。なぜなら、多くの場合、教師は児童生徒と向き合ってきたから忙しくなっているのだから。国の教員勤務実態調査やOECD・TALISを見ても、事務的な作業等がすごく重いわけではない(負担感は高いとはいえ、時間ウェイトとしては)。部活動指導や丁寧な採点・添削などが典型だが、子どもと向き合い過ぎているから、あるいは、「子どもたちのために」と思うがあまり、過労死ライン超えまでいってしまうのだ。
自分と向き合う、自分の好きな時間を大切にする
むしろ、「自分と向き合う時間」(自分の好きなことをする時間や自己研鑽などで幅を広げる時間等)をもっとつくるために、いまの働き方を見直す必要がある、と捉えたほうがよいと思う。
2つほど具体的に解説しよう。
1つ目は、児童生徒にとって魅力的な授業はどうしたら生まれるのかという話である。これは、小中学校等の教師をやったことがない私よりも、読者のみなさんのほうがプロだと思うので、恐縮だが、おそらく、教師に豊かな引き出しがある、アイデアがあることが必要条件のひとつなのではないか。
知的好奇心が高まるのは、何かと何かがつながったときだ。例えば、私は歴史好きだけれど、古代のある出来事の理由が、現代社会にも通じる部分があるなと思えると、おもしろい(約2000年前もそうだったのかあと思えたり)。数学や科学、美術、体育などもそういうシナプスがつながる瞬間は多々あるのではないか、と思う。
こうした知のつながりは、ある程度は広く視野を持っておかないと、生まれない。本サイトの連載をしているようなスーパーティーチャーの方々の多くは、おそらくインプットもハンパない。私の場合の講演・研修、あるいは本の執筆なども同じだが、よいアウトプットは豊富なインプットがないと難しい(妹尾の仕事がよいものとなっているかどうかは、忌憚なくフィードバックいただけると嬉しい)。私が働き方改革を呼びかけている理由のひとつは、学び続ける教師を増やしたいからだ。 もう1つは、1つ目とも重なるが、最近、下のようなワークを講演・研修中に採り入れている。この3つの問いを考えると、私が言おうとしていることは、かなりわかっていただけると思う。
子どもたちに必要な資質・能力をつけるための思考法
①インターネットやAIがどんどん便利になる世の中、子どもたちのどんな力をもっと伸ばしたいですか?
②上記の力、あなたは、教職員は高められていますか?
③以上を踏まえて、あなたがもっと力や時間を割くべきこと(割きたいこと)は、なんですか?
教師が創造的な時間を大切にしないと子どもたちの創造性は高まらない
要するに、こういうことだ。新学習指導要領を持ち出すまでもなく、子どもたちに必要な資質・能力としては、さまざまなものがある。20個でも100個でも挙げようと思えば、挙げられるかもしれないが、各学校で特にこれはというところは何だろうか。
そうして①を押さえた上で、②、③を考えてみてほしい。例えば、「子どもたちの問題解決力や創造性(クリエイティビティ)を高めたいよね」という話になったとして、果たして、教職員には問題解決力を高めるトレーニングが十分できているだろうか、クリエイティブな時間を持てているだろうか、という振り返りである。 自分の時間を大切にすることが、ひいては、魅力的な授業につながり、児童生徒のためにもなっていく。この好循環をいかに創り出すかが、学校の働き方改革の醍醐味の1つである。
※より詳しい内容は、妹尾昌俊『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』をご覧ください。
『総合教育技術』2019年8月号に加筆
野村総合研究所を経て独立。教職員向け研修などを手がけ、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』『学校をおもしろくする思考法』(以上、学事出版)、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』(教育開発研究所)、最新著書に『教師と学校の失敗学 なぜ変化に対応できないのか』(PHP研究所)がある。