リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #28 テニスボールに込められた思い|樋口綾香先生(大阪府公立小学校)

連載
リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ

北海道公立小学校教諭

藤原友和

子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今週は樋口綾香先生のご執筆でお届けします

執筆/大阪府池田市立神田小学校教諭・樋口綾香
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

ごあいさつ

みなさん、こんにちは。
大阪府・池田市で小学校の教員をしております、樋口綾香と申します。

「みんなの教育技術」では、国語やICTについての記事を書くことが多いのですが、今回は藤原先生にお声がけいただき、道徳の実践について書かせていただきます。

担任する5年生のクラスの子供たちは、道徳の授業を通して自分自身について見つめなおしたり、これから先どう生活していくかを生き生きと考えたりすることができる子供たちです。
今回の一枚画像道徳でも、多面的・多角的に考えを交流し、道徳のみに留まらず、探究的に学ぶ姿が見られました。

1 授業の実際〜テニスボールに込められた思い〜

対象:小学5年
主題名:相手の立場に立って
内容項目:B-7 親切・思いやり B-8 感謝

以下の写真を提示します。

(筆者撮影)

電子黒板に大きく提示すると、「あ、椅子や」と子供たち。
「そういえば、夏休みに椅子の脚にテニスボールを付けたなあ。」と、夏休みに自主学習に来ていた子供たちが言います。
そこで、私は次の発問をしました。

発問1 このテニスボールが付く前と付いた後、どんな違いがあったかな?

「そういえば、なんで付いたんだろう」と口々につぶやいていた児童でしたが、思考を巡らしながら道徳ノートに次々と今と昔の違いを書き込み、発表しました。

椅子を動かすときの嫌な音が鳴らなくなってすっきりした。
椅子が滑りやすくなった。
テニスボールにゴミが溜まることがある。
下の階に音が響かなくなった。
椅子でシーソーみたいに遊ぶことがなくなった。

発表を聞きながら、「そうか、音を無くすためだったのか」といった発見や、「シーソーみたいにできなくなったこと、今気付いた! 安全だね!」と驚きを口にする子供もいました。
そして、私は、二つ目の発問をしました。

発問2 誰が、どんな思いでこのテニスボールを付けることを提案したのだと思いますか。

先生たちが授業に集中できるように付けた。
教育委員会が自分たちのことを考えてくれた。
嫌な音で不快になることを防ぐために。
椅子がガタガタしないように。
みんながいい気持ちで学校生活が送れるように。
校長先生が考えた。

二つ目の発問をするまでは、「誰がテニスボールを付けるように提案したか」なんてことは、考えたこともないという様子でした。
しかし、発問1で考えた椅子にテニスボールが付いた利点から、自分たちのことを思って誰かが提案してくれたのだと考え、周りの人の思いを想像していきました。

説明

ここで、次のように説明しました。

椅子の音が原因で、教室で授業を受けられない人がいたこと。
「聴覚過敏」といって、他の人がそれほど気にしない音でも過敏に反応したり、不安になったりすることがある特性をもった人がいること。
テニスボールは、地域から寄付で2000個もらったこと。
テニスボールには25ミリのドリルの穴があいており、校務員さんが1週間かけて作業してくれたこと。

この説明を聞くと、子供たちは、「聴覚過敏」以外にも、さまざまな感覚過敏があるのではないかと考え始めました。
嗅覚や視覚など、目に見えて分かる障害ではないけれど、困っている人が近くにいるのではないかと。
私はそれらの子供たちのつぶやきを拾いながら、学校の給食エプロンが2年前から個人持ちになったことを挙げ、柔軟剤によって頭痛を引き起こす子がいたことや、授業では赤や青のチョークを使わなくなったことを挙げ、色覚の多様性についても説明しました。
子供たちは、「誰かにとっての過ごしやすさが、自分にとっての過ごしやすさにつながっている」と気付きを深めていきました。

そして、道徳の教科書にある「UDって何だろう」(『新・みんなの道徳5(学研)』)の教材へとつなげました。

また、子供たちは、校務員さんの仕事についても、

縁の下の力持ち。
自分たちの学校生活を支えてくれているから感謝したい。
安全を守ってくれている大切な存在。
他にも自分たちのために行動してくれている人がいるに違いない。

と、考えを広げていきました。
最後に、校務員さんの仕事の様子や子供たちへのメッセージをインタビューした動画を見せました。

この授業の板書写真
この授業実践時の板書。

2 どこにどのようにつなげるか

5年生の道徳科の教科書にある「UDって何だろう」(『新・みんなの道徳5(学研)』)では、右利き用と左利き用のはさみがあることを題材として、ユニバーサルデザインが紹介されています。
年齢や性別、障害の有る無し、国籍などに関係なく、誰もが使いやすく工夫する考え方であるということを知ると、次々に、教室や学校のさまざまな工夫を「ユニバーサルデザイン」と結び付けていきます。

また、資料として載っている、「ヘルプマーク」「障害者のための国際シンボルマーク」「マタニティマーク」「盲人のための国際シンボルマーク」「補助犬マーク」などのピクトグラムにも触れ、文字や色によって一目で分かる工夫は、至るところにあることに気付かせます。

周りの親切や思いやりによって自分たちの生活がよくなっていることに気付いたり、感謝する気持ちをもったりするだけでなく、
「他にもみんなの生活をよくする工夫を探してみたい」
「テニスボールであることのよさはなんだろう」
「感覚過敏についてもう少し知りたい」
といった、探究的な学びへとつなげることができます。

おわりに

今回は、教室の椅子の写真という、子供たちにとって最も身近なものを扱いました。
写真によって切り取られた一つの場面から、発問によって視点を与えることで多くの気付きを得ることができました。
普段なにげなく過ごしている場所にもいろいろな人の思いや工夫があり、過ごしやすさや過ごしにくさがあることを知れば、一緒に過ごす仲間同士が支え合うことの大切さを実感するでしょう。
これから、子供たちがより一層「みんなの過ごしやすさ」を考えるきっかけになってくれれば幸いです。

来週の更新もお楽しみに!

今後の連載予定
第29回 高橋朋彦(千葉県・袖ケ浦市立平岡小学校)
第30回 駒井康弘(青森県・弘前市立堀越小学校)
第31回以降も豪華執筆陣が続々と執筆中です。

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