リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #27 私たちにできること|三浦真司先生(青森県公立小学校)
子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今週は三浦真司先生のご執筆でお届けします。
執筆/青森県八戸市立根城小学校教諭・三浦真司
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和
目次
1 はじめに
「一枚画像道徳」のリレー連載というわくわくする企画のお話をいただき本当に嬉しく思います。
青森県で小学校教員をしている三浦真司です。日々の生活の中で、当たり前のことが当たり前にできる子に育ってほしいという思いがあります。
ただ、その「当たり前」が多様化し、時に相手を傷付けてしまったり、自分たちの生活環境を悪い方向へと向かわせてしまったりと、何が正解かがはっきりとしない世の中になってきた気がします。
生徒指導を担当している関係上、事が起きてから対応する消極的生徒指導に時間を費やすことが多いです。
しかし、未然に防ぐ積極的生徒指導を教育活動全体の中にちりばめ、望ましい「当たり前」を子供の心に根付かせることができるのではないでしょうか。
そこで、「心の荒廃は教室の荒れから」という戒めから、生徒指導的な内容も含めつつ、自分たちの教室に落ちている紙屑の写真を教材としました。
また、特別活動の視点からも、日々の生活を見つめ直し、人のために奉仕することの喜びを感じると共に、自分自身の心の成長につなげ、最高学年となる心の準備をさせていきたいという思いで授業をしました。
2 「一枚画像道徳」の実践例
対象:小学5年
主題名:私たちにできること
内容項目:C 勤労、公共の精神
以下の写真を提示します。
発問1 あなたはこのゴミを拾ってゴミ箱に捨てますか?
●捨てる……13人
●捨てないでそのまま……10人
●状況次第……10人
当然子供たちは、拾ってゴミ箱に捨てることが良いことだと捉えています。
上辺だけの発言にならないために「あなたは」という言葉を主語とし、自分事となる発問にしました。
日々の様子を見ていると、落ちているゴミを拾う子は一定数いますが、いつも同じ子供ばかりだったので、このような結果が出るのは想定の範囲内でした。
今回は、ネームプレートを黒板に貼らせ、立場が明確になるように見える化し、貼らせる段階で迷いがある子供たちのために、「状況次第」という曖昧な立場の枠も設けました。
〇「捨てないでそのまま」の立場の意見を聞いたところ、
●汚い
●手が汚れる
●整とん係がやればいい
思った以上に子供たちの本音が出てきました。
〇続いて、「捨てる」の立場の意見を聞いたところ、
●気持ちよく過ごせる
●汚れた手は、洗えば大丈夫
●それが自分の当たり前だから
意見を聞いた後に、「捨てないでそのまま」の立場の子供たちからは、拾うのも面倒だし洗うのも面倒だという本音が聞こえてきました。
〇最後に中間の立場である「状況次第」の立場の意見を聞いたところ、
●気になれば捨てるけれど、気付かないことが多い
●捨てた方がよいのは分かっているけれど、面倒くさいと思ってしまう
立場は違いますが、お互いの意見を聞き合い、相手の意見に納得する場面も多く見られました。拾って捨てた方がいいのは全員で納得していましたが、面倒くさいという思いが強くて発言力の強い子がいたため、自分以外の誰かが拾って捨てることを期待する雰囲気が流れていきました。
そこで、二つ目の発問をしました。
発問2 人任せな自分が、目指す自分の理想ですか?
「捨てないでそのまま」の立場の子たちは、当然ですが表情が曇りました。
できれば拾いたくないけれども、人任せな自分ではいたくないという心の葛藤が生まれていました。
そこで、6年生が伝統を引き継いで行っている朝清掃のボランティアの話をしました。そして、過去の6年生に「最初は朝清掃をやらされていたけれど、やり続けていたら、自分たちの手で学校が綺麗にできて、気分がよくなる」と言った子がいたことを紹介しました。
そして最後に、「行動が変われば心が変わる」という言葉を紹介して、思っていることを簡単にワークシートに書くように指示を出しました。
感想
●拾うと気分はいいけれど、やっぱり面倒くさいのは変わらないから難しいです。
●なるべくなら拾いたくないけれど、拾うのが当たり前の雰囲気をつくっていきたい。
●今までは人のせいにしていたけれど、人任せもよくないと感じました。
●「だれか」ではなく主語を「自分」にして、「自分が○○する」にしていきたい。
3 他教科とのつながり
この実践は、発問2の部分で終わっていることからお分かりの通り、特別活動につながっていきます。
本校では、6年生になると、伝統的に朝のボランティア清掃をやることになります。
ボランティアという言葉が付く以上、6年生の自発的な行為と言いたいところですが、現状は、今までの6年生がやっているから今年もという形で続いています。クラスに落ちているゴミにすら関心をもっていない状態では、教育的価値も期待できません。そんな理由もあり、終末では、体験した6年生の声を伝えました。自分たちの教室に落ちていた紙屑をスタートとし、全校へと視野を広げ、高学年としての望ましい行動が増えることが期待できるのではないでしょうか。
4 おわりに
道徳、特別活動、生徒指導と、様々な要素が絡み合い、本来のねらいがどこにあるのか曖昧になってしまいそうな実践例となってしまいましたが、子供たちの感想を見る限り、子供たちなりの迷いがあり、自己開示をすると共に、意思決定をしてくれたように感じています。
「ゴミは拾った方がいい」という正解を押し付けて終わるのではなく、本音を引き出しながらも発問2のように揺さぶりをかけることで、「ゴミを拾った方がいいのは知っているけれど、見過ごしてきた自分」に心の葛藤が生まれます。
そして、「行動が変われば心が変わる」を日々の声がけで実践させていくことで、他者貢献が自分の喜びにもつながり、ボランティア活動にも前向きに参加できる素地としていきたいと今後は考えています。
そのためにも、子供たちの日々の実践が不可欠ですので、授業だけで終わらず、学校生活の中で、教師側が日々子供たちの様子を観察し、今回の内容につながる望ましい行動を、ほめて価値付けし、細く長く指導を継続していきたいと思います。
<参考文献>
・加藤宣行『加藤宣行の道徳授業 考え、議論する道徳に変える指導の鉄則50』2017年 明治図書出版
・加藤宣行『加藤宣行の道徳授業 考え、議論する道徳に変える導入・終末&評価の鉄則31』2022年 明治図書出版
今後の連載予定
第28回 樋口綾香(大阪府・池田市立神田小学校)
第29回 高橋朋彦(千葉県・袖ケ浦市立平岡小学校)
第30回 駒井康弘(青森県・弘前市立堀越小学校)
第31回以降も豪華執筆陣が続々と執筆中です。
※この連載は、毎週木曜日に公開します。次回は3月23日(木)6時に公開予定です。
<リレー連載>明日の授業に生きる! 「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?
第12回 地域の課題の受けとめ方
第13回 函館港まつりに込められた想い
第14回 デザインの定義
第15回 「生きた文化財」~在来作物の声が聞こえる~
第16回 町名の由来
第17回 百年の桜
第18回 わんこそば
第19回 みんなの場所で
第20回 美しい建物の街~弘前
第21回 1枚で3通りの活用 ~西郷瀞のブランコ~
第22回 外国の靴屋さん
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第26回 祇園の夜桜