リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #26 祇園の夜桜|中條佳記先生(京都府公立小学校)

連載
リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ

北海道公立小学校教諭

藤原友和

子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今回は中條佳記先生のご執筆でお届けします。

執筆/京都府京都市立百々小学校教員・中條佳記
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

ごあいさつ

みなさん、こんにちは。

京都市で小学校の教員をしております、中條佳記(なかじょう よしのり)と申します。

奈良、愛知での教員生活を経て、京都での教員生活がスタートしています。新たな先生方と出会い、学級の子供たちと出会い、保護者と出会い、日々、精進しております。

さて、コロナ禍で激減していた観光客が京都に戻りつつあります。
京都市内で観光地と訊ねられると、みなさんはどこが浮かびますか。寺社仏閣や城の名がいくつも出てくることでしょう。その中の一つ、東山区にあります八坂神社(やさかじんじゃ)。京都市民の誰もが一度は訪れたことがある場所です。
その東奥に、敷地面積86,641平方メートル、1886(明治19)年12月25日に設置された円山公園(まるやまこうえん)があります。
今回は、その円山公園内の中央部にあります通称「祇園の夜桜」こと、一重白彼岸枝垂桜(ひとえしろひがんしだれざくら)を題材写真に選び、道徳授業化しました。

1 「一枚画像道徳」の授業実践例 

対象:小学5年
主題名:大切に守られ、愛されてきた桜について考えよう
内容項目:C-17 郷土の伝統と文化の尊重、郷土を愛する態度

「お花見をしたことある人?」と訊ねると、子供たちの手が挙がりませんでした。コロナの影響で、花見ができなかった、または忘れているのでしょうか。
しかし数名は手が挙がり、訊ねてみると「おじいちゃんおばあちゃんと行った」「家族で見に行った」などと答えます。

続いて、「お花見の花は?」と訊くと、「桜」と即答です。
そこで、以下の写真を提示し、以下の質問をします。

『これは、枝垂れ桜という木の写真です。さて、どこの桜でしょうか。近くの人と相談してもよいですよ』

4月 ライトアップされた「祇園の夜桜」(筆者撮影)

写真を見せると、子供たちから感想や予想の声が上がりました。

子供の声

「めちゃきれい。」
「光ってて、白く見える。」
「こんな桜、見たことない。」
「これ、桜なん?」
「どこやろ~」
「あれ? 京都ちゃうか?」
「あっ、見に行ったことあるかも。」

『この写真は、京都の八坂神社の隣にある円山公園の枝垂れ桜です。4月です。』
と説明すると、子供たちからは、「そうなんやぁ!」「見てみたい!」「行ってみたい!」という声が上がりました。

発問1 この桜が枯れずに毎年咲き続けるのはどうしてでしょうか?

「桜の生命力」
「もともと強い桜だから」
「誰かがお世話をしているから」
「観光客がマナーを守っているから」

など、さまざまな考えが子供たちから出てきました。

『じつはこの桜を昔から守っている人がいて、いつも世話をしてくれているんだよ』と伝えると、
「あ~なるほど」「やっぱり、そうやったんやぁ」という声が上がりました。

 発問2 この桜はもともとここに咲いていたのでしょうか?

この問いに対する答えは、「いいえ」が正解です。
じつはこの桜は、2代目です。

『それでは、どうして今もなおこの枝垂れ桜は咲き続け、【祇園の夜桜】とまで言われるようになったのか、について紹介します』と子供たちに伝え、歴史を説明します。

初代は、明治19年~昭和22年。
樹齢200年だった。
昭和22年に枯れてしまったが、事前に初代の種子を育てていた人がいた。

それは第15代桜守佐野藤右衛門氏。その手によって昭和3年に採取された種子が、畑で育成されていた。そして育った苗を、枯れてしまった初代の代わりに、昭和24年に植える。
それから現在まで、およそ70年以上が経つ。

最後に、『これからもこの桜が咲き続けるために、私たちは何ができるでしょうか』と問いかけ、グループディスカッションを促しました。

そうすると、子供たちなりの考えが出てきて、自分事としての話合いにつながっていきました。グループごとに意見を発表し、交流していきました。

2 今後につなげるために、どのように広げていくか

 この授業には、自分たちの住む京都市には、全国だけでなく世界に誇れる名所があり、桜があることを誇りに思える子供たちに育っていってほしいという願いを込めています。
そのために、下の写真(補足資料)にあるように、季節が違っても、公園の桜を守ろうとする取組を継続して行っていることに気付かせたい、きれいな桜が咲き誇り、それを楽しみにして、毎年のように観光客が訪れ、また地域の人たちが訪れる場にするために、日々努めておられる人たちがいることにも目を向けさせたいと考えています。

円山公園内の看板(筆者撮影)
円山公園内の桜(筆者撮影)

おわりに

全国各地に、桜の名所はあります。しかし、たとえ名所でなくても、自分のお気に入りの花見スポットなんてものもあるかもしれません。
自分一人だけの最高の桜を見上げるだけで、その当時の記憶がよみがえってくるかもしれません。
堤防、近所の公園、団地の一角など、昔から春と言えば桜、日本人にとっては馴染み深い木であり、花であることに変わりはないはずです。子供たちにとっての地元愛を高める授業の一つになることを切に願います。
そこで過ごした日々のことを大人になってから回想することもあるでしょうし、懐かしんで再び足を運び、当時の思い出に浸ることもあるかもしれません。

以前、セミナーに参加登壇し、案内されて訪れた居酒屋の店主(たしか在日韓国人の方)から「先生、愛国心とはどういうことを言うのですか?」と質問を受けたことがあります。
国を愛する心を育てるためには、自分が生まれ育った地域を愛し、またそこに住んでいた人や関わった人、家族、先祖をも愛すことが大切、と答えました。その店主は、「そう! 私もそう思っていました」と答えられました。

今回、京都・円山公園の「祇園の夜桜」を扱いましたが、これを読まれている先生方のお勤め先近くの桜は一体誰が管理していて、どんな歴史があるのか調べられても面白いかもしれません。
また、子供たちが地域を愛するようになる材を一つでも多く発見され、教材化されることを願っております。

秋の枝垂れ桜(筆者撮影)  
秋の夕日を背に浴びる枝垂れ桜(筆者撮影)

<参考文献>
公益財団法人 京都市都市緑化協会ホームページ

今後の連載予定
第27回 三浦真司(青森県・八戸市立根城小学校)
第28回 樋口綾香(大阪府・池田市立神田小学校)
第29回 高橋朋彦(千葉県・袖ケ浦市立平岡小学校)
第30回 駒井康弘(青森県・弘前市立堀越小学校)
第31回以降も豪華執筆陣が続々と執筆中です。

<リレー連載>明日の授業に生きる! 「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?
第12回 地域の課題の受けとめ方
第13回 函館港まつりに込められた想い
第14回 デザインの定義
第15回 「生きた文化財」~在来作物の声が聞こえる~
第16回 町名の由来
第17回 百年の桜
第18回 わんこそば
第19回 みんなの場所で
第20回 美しい建物の街~弘前
第21回 1枚で3通りの活用 ~西郷瀞のブランコ~
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