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リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #24 誰かの便利は、誰かの不便|大野睦仁先生(北海道公立小学校)

連載
リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ

北海道公立小学校教諭

藤原友和

子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今回は大野睦仁先生のご執筆でお届けします。

執筆/北海道札幌市立平岡中央小学校教諭・大野睦仁
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

はじめに

みなさん、こんにちは。
北海道・札幌市で小学校の教員をしております、大野睦仁と申します。

ここ数年、道徳の授業づくりに関心があり、たくさんの授業をつくってきました。その中で大事にしてきたことは、子供たちの思考が揺さぶられることです。
道徳は、自分が世界(社会)とどう向き合っているかが問われる授業だと思っています。道徳の授業を通して、思考が揺さぶられ、そして、揺さぶられたことで、子供たち(私自身も含めて)の世界(社会)の見方が広がったり、深まったりするといいなと思っています。
そのためには、まず教材化が鍵を握ります。画像のインパクトに引っ張られずに、子供たちがこの授業を通して、どんな姿(思考)になっていってほしいかという、ゴールイメージをもちながら画像を教材化しました。

今回は、地域教材とも言える画像ですが、「地域=近いところ」で思考しながらも、「遠いところ」にも思いを馳せていけたらと願って、つくった授業です。

1 授業の実際〜誰かの便利は、誰かの不便〜

対象:小学6年生
主題名:誰かの便利は、誰かの不便
内容項目:C-14 公共の精神

以下の写真を提示します。

(札幌市路面電車の電停・筆者撮影)

自分たちの住む街の市電なので、「見たことがある!」という声が上がります。
しかし、利用したことがある子供たちは少なく、見かけたことがあったとしても、注意深くは見ていないので、「見たことがある!」という声しか出てきません。
そこで、この市電の電停(路面電車の停留所)は、2018年に、国際交通安全学会賞を受賞したことを伝えます。この後の思考が広がり過ぎず、そして、思考のヒントとなるよう、賞の名称は伝えます。
『電停の場所がポイントなんです。ふつうの電停は…』と説明し始めたところで、気付いた子供が発言します。

「あ! ふつうの駅? 電停? は、道路の真ん中にあった! そこがちがう!」
『そうなんです』
できれば、ここで、道路の中央にある電停の写真も提示するとよいです。そうすることで、どの子も同じように理解できます。
『今の札幌市の路面電車は、電車が歩道寄りを走行するサイドリザベーション方式をとっています。しかも、札幌市は、行き交う電車がそれぞれ歩道寄りで走行しています。これは、全国的にも珍しいのです。』

発問1 この方式を取ったことで、どんなよさがあると思いますか?

ここで1分ほど、考えを書く時間をとりました。子供たちは、次のような考えを発表してくれました。

車が走る道を渡らなくても電車に乗れるから安全だということ。
歩道からすぐ乗れるから、楽ちん。便利。

この方式でよさを実感している人たちを、具体的な姿として想像してほしかったので、『どんな人にとって、特によさを感じると思いますか?』と、さらに問います。

小さい子供
ベビーカーを押しているお母さん
車いすを使っている人
松葉杖を使っている人

どんどん子供たちから意見が出てきます。子供たちは、社会的に弱い立場や状況にある人たちにとって、特に優しい、大切な方式だと理解します。

発問2 実は、この方式を取ったことで、逆に問題点が生まれています。どんなことだと思いますか? もう一度写真を見て考えてみて下さい。

えー!! 何が問題なんだろう…
あ……もしかして自転車が通れないかも? この前の交通安全教室で、自転車は歩道ではなく、車道を通行するって学んだよ。
それならトラックも、ここに止まって荷物とかも降ろせないんじゃない? しかも、この辺は、お店がたくさんあるところだから困るんじゃないかな。

しばらく子供たちが考えても、あまり出てこなければ、授業者が子供たちから出てこなかった問題点を下記のように説明してもよいでしょう。

説明

ここで、次のように説明します。

他にも、タクシーが止められないという問題点がある。例えば、高齢者や、体が不自由な人たちは、タクシーを使うこともあること。
今考えたのは、市電のことだけれど、私たちの社会には、誰かにとっては便利なものでも、誰かにとっては、不便になってしまうものが、他にもないだろうかと、子供たちと対話しながら考えます。

この説明を聞いたり対話したりする中で、教室はシーンとなっていきました。
賞まで取ったのに、しかも、弱い立場の人たちにとってよいことなのに、誰かにとっては困ることだとわかったからです。どうすることがよいのかと考え始めるからです。

『市電のこの方式で困る人、例えば、トラックから荷物を降ろす人は、少し遠いところに止めて、そこから運べばいいし、タクシーも少し遠いところに止めて、そこから歩けばいい。そう考えるべきなんですかね。』

「車椅子の人たちの方が大変だから、この方式を優先するのは、しょうがないのかな。」
「そうなのかな。そう簡単なことじゃないような気がする。働く人たちも、タクシーを使う人も大変だよ。」

『誰にとっても便利なことって、難しいことなのでしょうか。それとも、誰にとっても便利なことって、可能なことなのでしょうかね。』

「誰にとっても便利なものもあるとは思う。」
「誰かにとって便利なことが、誰かにとっては不便じゃなくて、あってもかまわないというものもあるんじゃないかな。」
「でも、やっぱり誰かにとっては便利なものでも、誰かにとっては、不便になってしまうものがあるよね。」
「例えば、どんなものがあるだろうね。」

『便利、不便と決め付けずに、一つ一つのことから考えていくことが大切なのかもしれませんね。』

2 どこにどのようにつなげるか

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