あなたの学校は「何をするところ」ですか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #34】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第34回は、<あなたの学校は「何をするところ」ですか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

生徒指導は誰の仕事か

それは、以前から少しずつ始まっていたように思います。数年前、ある自治体を訪れた時に、講座担当の方から、

「先生方が生徒指導をしなくなっている」

とお聞きしました。

小学校に学級崩壊、中学校、高等学校でのいじめの問題が顕在化していった時期に、小学校に勤務していた自分としては、大変違和感のある発言でした。自分の肌感覚では、学校にいる時間の8割から9割は生徒指導をしていたからです。

思わず「どういうことですか?」と尋ねると、指導の難しい子がいると担任が直ぐに管理職や生徒指導主任を頼り、自分で子どもに向き合おうとしないと言うのです。管理職らも、稚拙な対応で事が大きくなっては困るということで、「一人では抱え込まないように」とことあるごとに職員に言っている、だから、職員の方も、何かあると直ぐに相談する、というわけです。もう、10年も前の話です。当時も、指導の難しい子どもの存在、そして、モンスターペアレントと呼ばれる要望の強い保護者の存在が、先生方の負担感を高めていましたから、「そういうこともあるだろうな」くらいに思っていました。しかし、ここに来てまた、それに似た話をよく聞くようになりました。

各地教育委員会の生徒指導担当、教育相談担当や子ども支援センターのような施設の職員の方々から、度々、次のような話がもれ聞こえてくるのです。

「個別配慮の必要な子どもたちの指導を、学級担任ができなくなっている、そして、しなくなっている」

近年では次のような話も聞きます。放課後の学年会や校内研修等で生徒指導や学級経営の事例検討会をしている時、学年主任やベテランが若手に助言をすると、「そこまでしなくてはならないのですか?」と若手が言い返すそうです。それは、あたかも「そんなこと大学で習っていない」と言わんばかりだと言います。

また、管理職が相談にのっていると、「そんなことは、私にはできません」とハッキリ言う若手もいるそうです。できないことをできないと言うのは、プロ意識と言えないこともないですが、それを聞いた管理職は「それは、私の仕事ではない」というニュアンスを感じたそうです。最初からそれを理解しようとしない態度を示されたら、助言しようにもできないことでしょう。

そうした若者たちがいる一方で、1990年代以前の学校然とした、力で子どもたちを抑える指導をして、うまくいかず、自信を失って休職に追い込まれるベテランも後を絶ちません。

外注化される学校

こうした風潮のせいでしょうか、指導主事や教育委員会所属の担当の専門家、准専門家が学校現場に、指導、支援を助言しようとしても、

「それをするのがあなたたちでしょ」

と困っているはずの担任らにそうした言葉をかけられると言います。問題の当事者は誰なのかわからなくなります。

一方で、聞く気のある相手でも、専門家たちは、伝えなくてはならないことが10あっても、そのうち言えるのは、1から2だと言います。心理のプロだからでしょうか、現場教師のあまりの疲弊ぶりに、それ以上伝えたら、相手が潰れてしまうかもしれないと不安になるそうです。

こうなると、教師も救われないし、結果的に、その先にいる子どもたちも救われないわけです。生徒指導や特別支援、そして学級経営の「外注」が既に起こっているんだなと感じます。これから授業がインターネットで配信されるようになると、教科指導も外注されるようになることでしょう。

ICT環境は、諸外国から周回遅れの状況の日本ですが、意外とこれは一気に回復するかもしれません。なんと言っても日本人は特に、教育界は「外国から遅れている」という批判を極度に嫌うからです。あのPISAショックや学力低下論争において見られたヒステリックなまでの反応がいい証拠です。どこかの自治体で一人1台タブレットが完備され、それが一定の割合を超えたら、一気に日本中がそうなるかもしれません。ICT環境の整備が、授業の外注化に拍車をかけることでしょう。

また、今回は頓挫しましたが、テストだって外注化がさらに進むことでしょう。いや、実質もう外注されているようなものです。こうなると、「教科指導」、「評価」、「生徒指導」、「特別支援」、「学級経営」など、全てが外注されることになります。「給食」や「清掃」は外注が当たり前。「部活」、「クラブ活動」の外注も始まっています。学習内容の習熟は、早くから塾によって為されてきました。教育活動をする教師だって、教員免許を持たない人が、授業をできる時代です。「教師」の外注です。

今、改めて思います。

「学校は一体、何をするところなのか」

「チーム学校」は、複雑化する教育課題を解決するために、専門機関や地域と連携を進める概念として導入されました。しかし、それは決して学校が「本来の仕事」を放棄していいというわけではありません。「本来の仕事」をするために、そして、その質を上げるためにチームとなるわけです。しかし、その「本来の仕事」がわからなくなってきているようです。

「学校とは何なのか」

このような「答えのない問い」を解決するために、学校関係者全員で対話と協働を繰り返し、アクティブ・ラーニングをしたらいいと思います。これは、新たなる学校像を創り上げるチャンスなのかもしれません。

『総合教育技術』2020年1月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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