最初の授業で、1年後の成長を意識させる 菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #2

連載
【連載】菊池省三流 コミュニケーション科の授業

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

教師と子ども、子ども同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第2回「コミュニケーション科」の授業は、<最初の授業で、1年後の成長を意識させる>です。

一人ひとりが“大切な存在”であることを認め合う

新型コロナウイルス感染症対策で全国の大半の学校が臨時休校となったため、1年間の成長を学級で確かめ合う時間を持つことができなくなりました。前年度の教育課程を繰り越し、年度初めは学校現場も対応に追われ、慌ただしくなることでしょう。

いきなりの友達との別離、途中で終わってしまった授業……子どもや保護者も不安を抱えて新年度を迎えることとなります。このような状況でこそ、あたたかい人間関係を築くための機会ととらえ、プラスのアプローチをしていくことが大切です。

コミュニケーションや話し合いというと、「話す」「聞く」ことなどと狭義的にとらえ、技法にとらわれる教師も少なくありません。理路整然と意見を述べる、賛成・反対など二項対立の状況になったとき、いかに相手を論破し自分の意見を主張し通すか、というような “話し方” に重点を置きがちなのです。いろいろな方と対談やシンポジウムをすると、自分の意見ばかり主張し、相手と意見が異なると全く聞き入れない人が多いことに気づかされます。そういう人たちが「コミュニケーションは大切だ」と主張している姿を見ると、言行の不一致に気づいていないのだろうかと考えてしまいます。ちょっと周りを見渡してみてください。職員会議など普段の教員同士の話し合いの場でもそういうことが日常的に起こっていませんか(笑)。 コミュニケーションには、言葉はもちろん、表情や態度、声の大きさ、ジェスチャーなど非言語の部分も大切になります。学級には、語彙力がなく十分話せない子、落ち着いて話せない子、自分の気持ちや意見を伝えることが苦手な子がいます。そういう子を含めて全員が“大切な存在である”ことを、担任はもちろん、学級全体で認め合うことが大切です。話し方・聞き方など狭い技法にとどめるのではなく、もっと広くとらえることが必要です。

成長を意識させる授業からスタート

学級では、1年間を通してあたたかい人間関係の学級集団を高めるとともに、健全な社会づくりに役立つ、社会化した集団をつくっていくことが大切です。

「コミュニケーション科」の授業では、「社会化に向けたコミュニケーションの土台」をつくる授業づくりを、常に頭に入れておくようにしましょう。

例えば、4月の学級開きのときに「あなたたちはもう6年生だから、最高学年として見本にならなければいけない」など “○年生としてのあるべき姿” を語る担任も多いと思いますが、このような抽象的な理想像を話しても、子どもたちは実感を持てません。自分たちを取り巻く社会──小学生ならば学校、校区──の中で、どうあるべきかを知るためには、担任だけでなく、校長(学校の代表者)や地域の声を聞くことが大切です。

このようなことから、「コミュニケーション科」の授業では、最初の2時間を使って、様々な人たちの声を聞き、自分たちが進むべき方向性を学級全員で持てるようにします。

具体的には、次のような展開になります。

プロジェクト授業「学級成長の授業」①

「進級した自覚を持とう」
【ねらい】
社会化する集団としての自覚を持つ
学級集団として目指す方向を考える

【授業の展開】
校長、PTA会長、保護者、担任などとパネルディスカッションを行い、社会化していくことの意味や価値を知ることが目的です。具体的には、次のような流れになります。

参加者全員で挨拶。授業のねらいを込めた〈はじめの言葉〉を担任が話し、スタート。それぞれの立場から、「1年後、こんな子ども、こんな学級になってほしい」という成長への願い(意見)を述べてもらい、パネルディスカッションをする。「○組の、○○小の一員としてこうあってほしい」「地域にこういう施設や催しがあるので、参加してほしい」「地域と一緒に新しい伝統をつくっていこう」など、社会との接点を意識する思いを語ってもらう。その後、質疑応答や感想などで交流し、ふり返りとして、子どもたちは決意を発表する。

学級開きでは、「こういう学級をつくっていきたい」という思いを担任が語りますが、一方的な願いだけでは、子どもに届きません。担任、校長、保護者、地域の思いを子どもたちに伝え、子ども自らが「こんなところを自分は頑張りたい。こんな学級にしていきたい」と思えるようにすることが大切です。

プロジェクト授業「学級成長の授業」②

学級集団としての1年間を見通そう」
【ねらい】
1年間の見通しとゴールイメージを持つ
言葉を大切にし合う学級を約束し合う

【授業の展開】
成長曲線や言葉に関するアンケートなどをもとに、自分たちの1年間の見通しとイメージを共有し合います。

授業の初めに、「○組がこれから進むべき道」として、2つの直線を示します。X軸の0の値とあまり変わらないBの直線、斜めにぐっと伸びるAの直線を示しながら、「あなたたちはどちらの道を進みたいですか?」と尋ねます。一人ひとりのモチベーションが上がってきたところで、さらに、一気に伸びるSA(スーパーA)の曲線を付け足し、「最初の頃は、あまり線は伸びていないように感じることがあるかもしれないけれど、頑張っていれば、やがて一気に伸びる時期がきます」と説明し、子どもたちに成長を意識させます。成長曲線は、「今、成長曲線のどの辺りだろう」など、その後も成長を意識させる場面で活用していきます。

SAを加えた3つの線の表を説明した後、さらにもうひとつ、下がる成長曲線を示します(下図参照)。

「子どもたちに示す3つの成長曲線」(左)と「ピンチを成長のチャンスだと気づかせる成長曲線」

これは、ビジネスのチームビルディングにおける4つの発展段階を示したタックマンモデルの曲線です。「なぜ下がるのでしょう?」と尋ねて考えさせ、今後、学級生活では、下がるような場面や状況も出てくることを話します。「でも、この下がったところをどう乗り切るかが大きなポイントになります」とピンチは成長のチャンスだと気づかせるのです。

成長曲線について話した後、子どもたちにアンケートをとります。テーマは「この学級にあふれさせたい言葉」「なくしたい言葉」「1年後に言われたい言葉」「言われたくない言葉」の4つです。どれもが、子どもたちの心の思いが伝わってくる言葉です。これらを集計し、大きく貼り出しましょう。この4つのアンケートは、学級の目標でもあるのです。

いいところを見つけてほめる加点法で

パネルディスカッションでは、わが子の学力や礼儀正しさなど些末なことにこだわるのではなく、大局的に考えてほしいこと、子どもたちが新しい学級に対して希望と期待を持てるような話し合いにしたいことを、担任はあらかじめ大人の参加者に伝えておきます。担任は子どもも大人も含めた参加者全員に目を配り、質問が出やすいよう、楽しい話し合いができるようにコーディネートしていきます。話し合いを通して、子どもたちにとっては、今まであまり知らなかった周りの大人たちの思いを知り、地域や保護者にとっては、子どもや学校を理解するいい機会になるはずです。そして最も大切なのは、「どれだけできたか」「積極的に話し、静かに聞いていたか」など、到達度や技法に重点を置く減点法で見ないこと。「コミュニケーション科」は、子ども一人ひとりのいいところを見つけ、教師から子ども、そして子ども同士で、ほめて認め合う加点法の授業なのです。

コミュニケーション科・カリキュラム 1 学期案

『総合教育技術』2020年5月号より

構成/関原美和子


菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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