「わいせつ教員対策新法」とは?【知っておきたい教育用語】
令和3年6月4日に公布され、令和4年4月1日に施行された「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律(わいせつ教員対策新法)」。子どもたちを教職員などからの卑劣な性暴力から守るこの法律について、確認しておきましょう。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴
目次
「わいせつ教員対策新法」とは
「わいせつ教員対策新法」は、児童生徒等の尊厳を守るために、教職員等による児童生徒性暴力などの防止等に関する施策を推進し、児童生徒等の権利利益を擁護することを目的とした法律です。法律としての正式名称は、「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」です。議員立法として成立し、令和3年6月4日に公布されました。
「新法」制定、施行の背景
文部科学省が実施している人事行政状況調査の2022年の報告では、わいせつやセクハラを理由に懲戒処分や訓告を受けた公立小中高校等の教員は200人を超え、そのうち児童生徒が「性暴力・性犯罪」の被害者となったケースは96人でした。
処分者が200人を超えるのは8年連続で、それまで国としても教職員等のSNS(交流サイト)での私的なやり取りの禁止といった措置をとってきたにもかかわらず、なおも児童生徒が教職員などによる性暴力等の犠牲者になっています。この危機的な状況に強い法的な措置を講じることができるよう、法律の整備に至りました。
「新法」の概要
この法律では、先に示した目的、「教育職員等」や「児童生徒性暴力等」などの定義のほか、「教育職員等の児童生徒性暴力等の禁止」を示しています。
また、学校の内外を問わず教職員などによる児童生徒性暴力等を根絶するという法律の基本理念、その実現のための文部科学大臣による基本的な指針の作成、児童生徒性暴力等の早期発見・対処に関する措置(データベースの整備等)、特定免許執行者に対する免許状授与の特例等についての規定などを明示しています。
特に注目されているのがデータベースの整備です。これは、児童生徒性暴力等によって懲戒免職となった者、つまり、教員免許を失効した者(特定免許執行者)の情報に係るデータベースを国が構築するもの。任命権者等(教育委員会・学校法人等)が教育職員を任免または雇用しようとする際に、このデータベースを活用して特定免許失効者への該否等を確認できるようにすることで、児童生徒性暴力等を防止する仕組みを整えることが定められました。
また、特定免許執行者等に再び教員免許状を授与する場合は、あらかじめ都道府県教育職員免許状再授与審査会の意見を聞かなければならないことも規定されています。
国としての児童生徒の権利利益の擁護への強い信念
この「新法」を施行する基本的な考えを示す「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な方針」(令和4年3月18日、文部科学大臣決定)の「はじめに」は、次の文章から始まっています。
本来、児童生徒等を守り育てる立場にある教育職員等が、児童生徒等に対し「魂の殺人」とも呼ばれる性暴力等を行い、当該児童生徒等の尊厳と権利を著しく侵害し、生涯にわたって回復しがたい心理的外傷や心身に対する重大な影響を与えるなどということは、断じてあってはならず、言語道断である。しかしながら、児童生徒性暴力等に当たる行為により懲戒処分等を受ける教育職員等は後を絶たず、なかには、教師という権威と信頼を悪用し、被害児童生徒等が自身の被害に気付かないよう性暴力に至ったケースなど、人として到底許されない事件も見受けられ、事態は極めて深刻な状況にある。加えて、こうした一部の教育職員等による加害行為により、児童生徒等と日々真摯に向き合い、児童生徒等が心身ともに健やかに成長していくことを真に願う、大多数の教育職員等の社会的な尊厳が毀損されることはあってはならない。
教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な方針
「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な方針」は、児童生徒が教職員等による性暴力などの被害者となるという、決してあってはならない事態を防止する国の指針です。学校現場ではほとんど目にすることはありませんが、あえてここで紹介しました。
このように、『「魂の殺人」とも呼ばれる性暴力等』や『人として到底許されない事件』などの言葉には、この法制化の根底にある児童生徒への性暴力根絶への国としての強い信念ともいえるものが表れています。
▼参考資料
「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」(令和3年法律第57号)
文部科学省(PDF)「令和2年度公立学校教職員の人事行政状況調査について(概要)」(令和3年12月)
文部科学省(PDF)「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な指針の策定について(通知) 」(令和4年3月18日)
文部科学省(PDF)「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な指針」(令和4年3月18日)