低学年の用具の準備はどうしたらいいの? 【使える知恵満載! ブラッシュアップ 体育授業 #8】
「準備に時間がかかって、運動時間が短くなってしまった」「用具の準備をしていたら、けがをしそうな場面があってひやりとした」……若い教師だけでなく、ベテランの教師からもこのような声を聞いたことがあります。最低限の指導で素早く・安全に準備ができ、運動時間がたくさん確保できると、子どもたちにとっても教師にとっても楽しい体育学習となります。今回は、低学年の子どもたちでもできる「スムーズな準備の仕方」を紹介します。
執筆/神奈川県公立小学校教諭・齋藤 裕
監修/筑波大学附属小学校教諭
体育授業研鑽会代表
筑波学校体育研究会理事・平川 譲
目次
1 教師の事前準備も大切!
倉庫にしまってある用具を上手に出して準備することは、低学年の子どもたちにとって大仕事です。低学年の子どもたちが用具をスムーズに準備するためには、その学習や単元が始まる前に、教師が必要な用具を倉庫から出して、取りやすいように並べておくとよいでしょう。子どもたちの負担がなるべく少なくなるよう配慮しつつも、子どもたち自身で準備ができるよう、委ねられるところを委ねます。
また、子どもたちが運んできた用具を、どこに置けばいいのか迷わないようラインを活用したり、体育館であればラインテープで印を付けたりすることもあります。ラインテープを使うことに、少し手間がかかるように感じるかもしれません。しかし、単元を通して考えてみると、低学年の子どもたちがスムーズに準備をするためには、必要な手立ての一つと言えるでしょう。
2 準備もお手本を見て、みんなで確認!
運動観察の時と同じように、はじめのうちは準備の仕方もお手本を見せます。用具のどこを持ち、どのように運び、どこに合わせて置くのか等、視覚的な支援をします。言葉による指示だけで準備ができる子どももいますが、多くの低学年の子どもたちは、言葉だけの指示では頭の中でイメージができていません。お手本を見せて、視覚的な支援をすることで、先を見通し、安心感をもって準備に取り組めます。
<マットの持ち運び方>
<跳び箱の持ち運び方>
3 仕事をする役割を明確に!
一斉に準備を始めると、用具を置いてある場所に子どもたちが密集してしまい、スムーズに準備ができません。そこで、役割を指定したスムーズな準備の仕方をお勧めします。
(1)体育班の列を活用する
「今日は、1列目の人が〇〇を準備します」「2列目の人は〇〇を持ってきます」というように、何列目が何を準備するのかを明確にし、指示します。必要な用具が少ない単元であれば、1時間ごとに準備する子どもを交代しながら進めます。そうすることで、子どもたちは、順番に用具の準備を経験することができます。
(2)体育班の学習班を活用する
大きいマットや跳び箱を準備するときなど、何人かの力を合わせて準備しなければならない時は、学習班を使います。「1班さんから順番に取りにおいで」と指示を出すことで、用具が置いてある周辺が混雑せず、スムーズに安全に運び出すことができます。
4 できるだけ用具を使わずシンプルな場で!
ここまでは、用具を使うことを前提に用具の準備について紹介してきましたが、私はできるだけ用具を使わずにシンプルな場で運動できることを目指しています。準備や片付けに時間がかかることも避けたいのですが、用具が多くなると、子どもたちの安全確保も難しくなると考えているからです。数多くの用具を出して、子どもたちが様々な運動をするように場を広げるのではなく、多くても2~3種類の用具でつくれるシンプルな場がよいと考えています。以下は、シンプルな場での運動の例です。
★馬跳び
子どもの技能レベルや恐怖心によって、馬の高さを変えます。開脚跳びの動きづくりができます。用具は着地用の大マットだけです。
★高さ前ころがり
マットを重ねた上で前ころがりをします。台上前転の動きづくりができます。用具は、小マット3~5枚程度です。
5 低学年でおすすめの用具は?
使い勝手がよく、私が重宝している用具を3つ紹介します。
★ミニマルチマット(エバニュー)
幅60㎝×長さ120㎝×厚さ5㎝、重さは約5㎏です。1年生でも簡単に運ぶことができ、スムーズな準備が可能です。横につなげて並べるとロングマット、5枚程度重ねて置くと跳び箱1段程度の高さとなります。多様な動きをつくる運動遊びやマットを使った運動遊び、跳び箱を使った運動遊びなどで手軽に使うことができます。
★長なわ
太さが1㎝程度、長さは最長4m程度です。ホームセンターで綿混紡の縄を買ってきて自作しました。ある程度の重さがあるので、1年生でも大きくゆっくり回すことができます。グリップがないので、手に巻いて長さを調節できます。
★スマイルボール(ミカサ)
適度な重さと弾み具合であり、表面も柔らかく、投げやすく(蹴りやすく)て捕りやすいという特長があります。低学年の子どもたちでも怖がらずに、ボールに触れることができます。
低学年でのスムーズな準備の仕方が、読者の皆様の一助となれば幸いです。明日からの体育学習にご活用ください。
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執筆
齋藤 裕
神奈川県公立小学校 教諭
1978年東京都豊島区生まれ。子どもたちが「夢中になって体を動かそうとする体育学習」、体育を指導することを苦手と感じている教師が「これならできそうと思える体育学習」を目指して日々研鑽中。
監修
平川 譲
筑波大学附属小学校 教諭
体育授業研鑽会 代表
筑波学校体育研究会 理事
1966年千葉県南房総市生まれ。楽しく力がつく、簡単・手軽な体育授業を研究。日本中の教師が簡単・手軽で成果が上がる授業を実践して、日本中の子どもが基礎的な運動技能を獲得して運動好きになるように研究を継続中。『体育授業に大切な3つの力』(東洋館出版社)等、著書多数。
イラスト/佐藤道子