ゆるむ9月をチャンスに変えろ!【ぬまっち流】

特集
学級崩壊・学級の荒れ:立て直しからリアルな緊急避難まで

国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭

沼田晶弘

斬新な授業で、子どものやる気をグングン引き出すカリスマ教師「ぬまっち」こと、沼田晶弘先生が、低学年の自主性を育む実践を紹介します。9月の中弛みを改善するための、生徒を巻き込んだ現状把握する活動とは?

一学期の良い状態を思い出し現状と比較してみる

せっかく一学期に学校生活のルールを身に付けても、夏休み明けにはすっかり忘れてしまっているということはよくあることです。休み中は、自分のペースで過ごすことができるし、食事も自分の食べたいものを好きなだけ食べることができます。このように、学校では通用しないことが通用するような状況が1か月以上積み重なったのが夏休み。ですから、休み明けに突然学校の規律通りに生活させようとしても、難しいのが当たり前なのです。

「ちょっとダラダラしているな」「一学期の終わりにはできていたことができていない」と思った時、その状況を改善するためには、「ちゃんとしなさい」といった指導ではうまくいきません。「ちゃんとできるようにがんばろう」と伝えても、「ちゃんとする」ことがイメージできないし、「緩んでいるよ」と言われても、何がどう緩んでいるのか子どもたちにはわかりません。

僕が1年生を担任した時に取り入れたのが、「一学期の最後はどうなっていたか」をみんなで思い出し、それに対して「今の状態はどうなっているのか」を話し合い、現状把握する活動。さらに、良い状態といまの悪い状態の違いを把握したところで、なぜそうなってしまったのか、原因を考えさせることにしました。

子どもたちからは、「夏休みにだんだん甘えん坊になった」「みんなで行動していなかったから忘れた」「テレビばかり見てルールを忘れた」などの意見が挙がりました。子どもたちの意見を板書した後、「君たちは、自分たちでなんでもやっていた世界一の1年生だったはずなのに、学校がお休みになってお家で過ごすと甘えてしまうんだね。でもそれはしかたがない。僕だって休みの日はダラダラとテレビを観て過ごすこともあるよ」などと話をしながら、「今は緩んでしまった状態」であることに気付かせます。

 「現状を把握する」話合い活動の板書例
「現状を把握する」話合い活動の板書例
(クリックすると別ウィンドウで開きます)

一学期の良い状態と二学期の状態を比較し、悪化している現状とその原因を共有。「キャプテン」とは日直のことで、クラスのリーダー。沼田先生のクラスでは、日替わりでキャプテンを担当し、リーダーであるキャプテンは当番活動も含め、一人でみんなのためになんでもやるのがルール。

この取組の良いところは、以前の良い状態と今の悪い状態を比較することで、悪い状態を指摘しながらも、過去をしっかりとほめることができること。できていない現状ばかりに目を向けるのではなく、「メディアルームまで静かに行けていた」「掃除が早くてきれいだった」「給食の支度が早かった」など、過去に自分たちができていたことを思い出し、良い状態のイメージを共有させることがポイントです。

緩んでいる状態を利用し学級のシステムをアップデート

ここで大事なのは、「良くなろうと思うだけではできない」ということにも気付かせること。「やろうと思ってもできないのは、何かみんなの中で勘違いが起きていたりするのかもしれないよね」と問題提起し、改めてルールを再度確認させます。実は、この時にちょっとした仕掛けをするのです。「どうやってやるんだっけ?」と質問すると、最初に決めたルールを言う子もいれば、「もっとこうしたほうがよい」と新しいアイディアを出す子もいます。どちらの意見も混ぜて話し合いながら、新しいルールを設定するのです。

「きまりを確認する」話合い活動の板書例
「きまりを確認する」話合い活動の板書例
(クリックすると別ウィンドウで開きます)

一学期に決めたルールのほか、もっとこうしたほうがよいというアイディアも取り上げ、新たなきまりやルールとしてアップデートする。

過去の自分たちに学びながら、一学期に先生に教えられたことだけでなく、自分たちの新しいアイディアをプラスすることで、先生にやらされている感覚ではなく、自主的にやろうという気持ちも高まり、一学期よりもさらによい状態に導くことができるのです。

二学期はじめに子どもが緩むのは当たり前。イライラするよりも、新たなシステムをつくるチャンスと捉えましょう。もう一度クラスを立て直そうと必死になるよりも、壊れてしまった今が新しいシステムの作り時だと考えてみてはいかがでしょうか? 緩んだ状態をどう締めるかと考えた時に、一学期は右巻きに締めていたけれど、緩んでしまったので、今度は左巻きにしてみようという発想の転換も大事です。
 
常に時代は変化し、子どもたちも変化します。緩んだように見える子どもたちも、夏休みの間に大きく成長しているかもしれないのです。過去に捉われずに、学級のルールや目標も徐々にアップデートしていくことが必要です。新たなルールや目標を決める時には、二学期にはどうなりたいのかゴールを明確にしましょう。さらに、必ず期限も決めましょう。「5つできたらOK」という成果主義ではダメです。達成する前に二学期が終わってしまうこともあります。何を、いつまでに、どの水準まで高めるのか子どもに意識させることが大切です。

取材・文/出浦文絵

沼田晶弘先生
沼田晶弘先生 撮影/下重修

沼田晶弘先生
1975年東京生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に、『家でできる「自信が持てる子」の育て方』(あさ出版)等がある。

『教育技術 小一小二』2019年9月号より

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