小学校理科の「知識・技能」とは? 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#7
「進め!理科ロード」では、小学校理科に関する基本的な考え方について、発信していきます。これまでは、概論的な話をしていましたが、これからは少しずつ、具体的な方法や考え方についてもUPしていきたいと思います。しばらくは、「評価」について連載していきます(途中、別の記事を入れ込む場合がありますが…)。
さて、授業をする際には本来、「授業後の子どもをどのような姿にしたいのか」が明確になければならないはずですね。
例えば、先生方が研究授業や事後検討会をする際に、授業の方法やその見取りについての検討は多いと思いますが、この【評価についてどうする?】という点についても、しっかりと妥当な評価ができる眼をもちたいですね。
子どもたち、保護者の方々も、教科でどのように評価されるか関心があります。
理科では、「資質・能力」に合わせて「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点で評価がなされます。今回は、そのうちの「知識・技能」について、確認していきましょう。
執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.理科は暗記科目ではありません! とはいえ、「知識は覚えてほしい」
ここで「理科は暗記科目ではありません!」とあえて述べたのは、「知識や技能の定着のさせ方、授業のやり方に先生よって差がある」ことを述べたかったからです。知識の評価は、単元末のテスト等で評価される場合も多いため、教科書に載っている最後のまとめを「覚えさせる」「先生が主導で説明する」授業になっていないでしょうか?
理科では「体験を通して」学ぶことを重視しています。知識や技能は授業をする以上、身につけてもらいたいものですが、実験をせずに写真や動画だけで終わるということがないようにしたいですね。子どもたちは、体験を通して得た知識は実感をもって覚えているものです。知識を暗記させることを重視するがあまり、体験をおろそかにするような授業にならないようにしましょう。
2.考えるときに「知識・技能」が必要です!
知識はどうして必要なのでしょうか? それは「考えるときの材料」だからです。学習内容に関する知識が全くないのに、「考える」ことはできません。皆さんが車の運転をする際に、何も教えられずに運転ができるでしょうか? 自分で考えて行動するには、一定以上の知識は必要なのです。
今の小学校理科では、「自分自身で」「科学的に」「問題解決ができる」ことが重視されています。一昔前では、知識を覚えることがゴールとされることも多かったですが、今は、知識を得たうえで、「自分で考えて解決する力をつける」ことが求められているわけです。これからは、知識を覚えるというより、知識をどのように使うかという方が大切だといえます。
3.小学校理科の「知識・技能」の評価とは?
「知識・技能」とあるように、評価の中身としては、「知識が身についているか」「技能が身についているか」という2つに分けられます。
【知識について】
知識については、該当単元の中で覚えなければいけないことを、どれだけ覚えているかになります。こちらに関しては、単元末テストや小プリント、ノート記述で評価すればいいのではないかと思います。業者のテストでは問題数が少ない場合があるので、先生自身で「何を理解していればよいのか」を確認して、小プリントなどの問題として出題して確認したほうがいいかもしれません。
【技能について】
技能については、
①実験技能(実験器具が使える)が身についたか
②実験結果など、表やグラフなどでまとめることができたか
の2つの観点で評価します。
①の「実験技能(実験器具が使える)が身についたか」については、観察や実験中に行動観察として評価することになると思います。実験の器具が正しく使えることや、実験に関する一連の流れを理解したうえで手順を円滑に行っているとか、様々な点に配慮しながら、観察や実験の目的を達成しているかどうかで評価します。
ここで留意点です。実験を行う際は、班で行うことが多いと思います。しかし評価はあくまで「個人」です。班で行うと自分自身で考えて行動している子どももいれば、他人に任せて見ているだけの子どもも出てきます。
つまり、見ている子どもが、「能力がなく見ているだけ」なのか「操作する機会がなくて見ているだけ」なのかわからないため、どのようにして「個人」の評価ができるのか、授業方法を工夫する必要があります。また、1時間で全員を評価することは難しいため、(技能の内容が異なっていても)複数時間に分けて、複数回評価することで可能な限り現実的で妥当な評価ができるよう工夫したいものです。
②の「実験結果など、表やグラフなどでまとめることができたか」については、文字どおり、「表やグラフなどでまとめることができたか」です。これは、すべての授業に該当するのではなく、表やグラフなどでまとめる必要がある授業では、評価が可能という意味になります。表やグラフを書くこと自体は算数かもしれませんが、自然を見て、ある切り口から分析するために表やグラフなどでまとめることは理科の実験技能として重要になります。こちらについても、「子どもが自分で考え、まとめる機会を先生がつくっているか」ということがポイントになります。先生が「このようにまとめましょう」といって、板書したものを写すことや、班を代表して誰かがまとめ、他の人はそれを写しているということでは、個人の技能評価ができない点に留意したいですね。
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<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。