ボトムアップのよさと限界【妹尾昌俊の「半径3mからの“働き方改革”」第6回】

学校の“働き方改革”進んでいますか? 変えなきゃいけないとはわかっていても、なかなか変われないのが学校という組織。だからこそ、教員一人ひとりのちょっとした意識づけ、習慣づけが大事になります。この連載では、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた妹尾昌俊さんが、「半径3m」の範囲からできる“働き方改革”のポイントを解説します。
執筆/教育研究家・合同会社ライフ&ワーク代表 妹尾昌俊
目次
夏休み中はベルトコンベアを止める
この記事がアップされるのは7月頃だろうか。ちょっと気が早いかもしれないが、そろそろ夏休みが来るのが楽しみ、という子どもたちもいることだろう。そして、それは、先生たちもかもしれない。子どもとちがって、夏期休業中=休日ではないとはいえ、いつもよりは多少はゆとりがある。働き方改革の関連で言えば、夏休み中は、2学期以降あるいは次年度に向けて、改善策を練る一大チャンスである。
「学校はベルトコンベアみたいだ」。ある副校長から聞いた言葉だが、学校では行事や単元について、ひとつが終わったと思うと、またすぐ次のものがやってくるので、どうしても目の前のことで一杯一杯になりやすい。それに、多感な子どもたちを相手にしていて、予測不能なことも多々起きる。次々起きることに順次対応となりやすく、少し立ち止まって見つめ直したり、改善策を練ったりする機会は少ない。
ある程度は仕方ないのだが、これが、学校の多忙をさらに悪化させるという悪循環にもなっている。かつてトヨタ自動車が世界中を驚かせたことがある。それは、工場の一従業員にベルトコンベアをストップさせる権限を与えていたことだ。問題があれば、それを一番わかっている人がストップをかけて、改善を協議する。こののち、“kaizen”は世界共通語にまでなった。
教職員の参画、ボトムアップが大切な理由
さて、学校はどうだろうか。夏休み中にベルトコンベアを止めて、じっくり考え、行動に移せているだろうか。
具体的にはどうするか。校内研修などの時間を活用して、働き方改革や業務改善に向けたアイデアを出し合うワークショップを行うこともひとつだ。保護者や地域の方も教職員に交ざって、熟議するのもよい(感染症対策は講じながら)。
かなり多くの時間がかかっている業務やストレスが高いと感じることがあれば、それは改善のチャンスだ。しかも、そう感じているのはおそらくあなた一人だけではない。一人で仕事の仕方を工夫するだけでは限界もあるので、多くの関係者が集まって、しっかり議論することには意味がある。
それに、教師という職業の人の中には、自分が教えるということを日常にしているせいか、人から教わる、あるいは押しつけられると感じることを極度に嫌がる人もいる。何か学校として、あるいは教育委員会等として改善策を練るとしても、自分も参画して決めたことだという実感があるかどうかで、教師のやる気は違ってくる。
そこで、校長や教頭の役割として大事なのは、改善に向けたアイデアや今の働き方についての本音や悩みを出せる場をつくることだ。例えば、中学校や高校であれば、部活動を今の規模を維持するのか、できるのか、また、顧問をしたい人もいれば、したくない人もいること等について話し合う場を設けることが第一歩だ。「部活動ガイドラインがあるので、それを守りましょうね」などとトップダウン的に伝えるだけでは、なかなか浸透しないし、実行に移らない。