現行学習指導要領の「三つの資質・能力」とは?①【田村学流 単元づくり・授業づくり#8】

連載
田村学流「単元づくり・授業づくり」

國學院大學人間開発学部教授

田村学
現行学習指導要領の「三つの資質・能力」とは?①【田村学流 単元づくり・授業づくり#8】

この企画では、元文部科学省視学官であり、現行学習指導要領の策定にも尽力された、國學院大學・田村学教授に、「単元づくり・授業づくり」をテーマとした連載をしていただきます。

「三つの資質・能力」に基づく評価

単元などの内容のまとまりで授業をデザインし、実施をしたら、それを適切に評価していくことが必要です。そこでここからは、どのように評価をしていけばよいかお話をしていきたいのですが、その前に評価の対象となる三つの資質・能力とはどのようなものなのか、改めて詳しく説明をしていきたいと思います。

先にご説明した通り、三つの資質・能力とは知識が関連付けられ、構造化されたものです。ただし、それぞれ、どのような知識がどのように構造化されたものかということは異なってきます。そこでそれぞれの資質・能力について、どのようなものかを説明し、具体的な学習場面に沿った例をお話ししていきたいと思います。

個別の知識が関連付けられて構造化したものが、今求められる「知識」

まず、「知識及び技能」について説明をしていきましょう。子供たちは各教科等を通じて多様な知識や技能を習得していくわけですが、それらが相互に関連付けられ、子供たちが社会に出たときにも、生きて働くものにしていくことが大切です。これまでの学校教育でも大事にされてきた、具体的な事実に関する知識や個別的な手順に関する技能は、もちろん、それ自体もとても大切です。しかし、複数の事実に関する知識や方法に関する知識が関連付けられ、統合されるようにすることで、概念化され、より活用しやすいものにすることが大切なのです。

もう少し詳しくお話をしていきましょう。知識と呼ばれるものには、「〇〇は△△である」「〇〇ならば◇◇である」という事実に関する知識があります。

例えば「日本の首都は東京である」とか、「江戸幕府の最初の征夷大将軍は徳川家康である」というものがそれです。この事実に関する知識は測定しやすく、言語化しやすい認知系の知識で、専門的には宣言的知識と呼ばれます。

この事実に関する知識が構造化されたものが、資質・能力としての「知識」なのですが、そのつながり方のタイプには大きく分けてふた通りあります。

一つめは、事実に関する知識がつながり合って概念的知識へと構造化されていくものです。二つめは、中核となる知識(中心概念)に、事実に関する知識が結び付いたりつながったりして、さらに構造化されていくものです。

【ネットワーク化】事実に関する知識がつながるタイプ
左は、知識が構造化し概念化するイメージ図。右は、中核となる知識(中心概念)に知識がつながって概念化するイメージ図。

このように事実に関する知識がつながり合って、概念的知識になっていったり、中心概念に事実に関する知識がつながって、さらに構造化されていったりする例を見てみましょう。

ある学級の子供たちが、それぞれ好きな夏野菜を育てています。「私のキュウリはもう黄色い花が咲いたよ」「僕のナスはまだ花が咲いていない」と、日々の成長を記録しながら話し合っています。

やがて子供たちのキュウリやナス、ミニトマトなどに花が咲き、キュウリやミニトマトは黄色い花、ナスは紫色の花が咲いたと話し合っていきます。

その後、それぞれの花が萎んで、実がなった後、子供たちは互いの育成記録を伝え合います。それを聞いていた子供たちが、「キュウリもミニトマトもナスも、ぜんぶ花が咲いたところに実がなるんだね」と気付き、「野菜はみんな、花が咲いたところに実がなるんじゃないかな」と話し合っていきます。

そこで一人の子が、「リンゴも花が咲いたところに実がなるってテレビで見たよ」と言うと、別の子が「私のおじいちゃん、おばあちゃんはみかんを育てているんだけど、みかんもやっぱり花が咲いたところに実がなるんだよ」と体験を話し始めます。

そこで子供たちは、「野菜だけじゃなくて、果物も同じで花が咲いたところに実がなるんだね」と、新たな気付きを話し、さらに「他の果物もそうなのか調べてみようよ」と話していきます。

このお話の前半は、キュウリ、ミニトマト、ナスという個別の野菜は、花が咲いたところに実がなったという事実に関する知識が関連付けられて、「野菜は花が咲いたところに実がなる」という概念的な知識へと構造化されていく過程です。

後半は、「花が咲いたところに実がなる」という中心概念に、リンゴやみかんといった果物の事実が結び付き、他の植物へも拡張されていく様子です。

このように個別の事実に関する知識の粒が関連付けられて塊になり、階層が高まっていく様子がイメージできると思います。このような階層が何層にも重なり、構造化した状態になったものが概念的知識であり、このような知識こそが今、求められている資質・能力としての「知識」なのです。そして、このような状態に向かっていくことこそが、「深い学び」と言えるのです。

資質・能力としての「技能」とは、方法に関する知識の集合体

先に、事実に関する知識が構造化されたものが、資質・能力としての「知識」だと説明をしました。この事実に関する知識とは異なるものに、方法に関する知識があります。例えば、箸の持ち方やシャツの着方など、繰り返し行うことによって無意識のうちにできるようになり、手順が可能になる知識のことです。この方法に関する知識も、事実に関する知識と同様に言語化できる認知系の知識であり、専門的には手続き的知識と呼ばれます。

資質・能力としての「技能」とは、この方法に関する知識の集合体だと考えられます。

例えば音楽の学習でリコーダーを吹くとき、うまく吹くにはどんなことを心がけたらよいか、子供たちから、それぞれの気付きを出してもらいます。そうすると、「指の押さえ方で音が違ってくる(しっかりと押さえる)」「低い音は『ドゥオー』とていねいに吹いたほうがきれいに出る」「お腹に力を入れたほうがうまく吹ける」などと、方法に関する知識がバラバラに出されていきます。

やがて一人ひとりがそれらを意識しながら取り組んでいくうちに、その方法に関する知識が一連のものとなってつながり、次のように整理されていきます。

1・姿勢(重心をしっかりとさせる。足を踏ん張る。お腹に力を入れる)
2・リコーダーの持ち方(左手が上)
3・穴の押さえ方(指の腹でしっかりと押さえる)
4・息の使い方(タンギング、高い音ほど『ティー』という感じで、高い音から『ティー』『トゥー』『トオー』『ドゥオー』と次第に低くなる。低い音は、お腹に力を入れてていねいに吹く)
5・吹き始めと吹き終わり(やさしく吹き始めるとよい音になる。吹き終わりは「大事なものを置く」みたいにやさしく吹くとよい)

このように、方法に関する知識は連続し、パターン化した一連の知識構造になると考えられます。方法に関する知識の粒が連続し、パターン化することはもちろん大事なのですが、体の動きと一体になって、無意識のうちに自動的に行えるようになったものが、資質・能力としての「技能」だと言えるのです。

方法に関する知識が連続し、パターン化することで構造化されるイメージ図。それが身体化され、意識しなくても自動的に行えるようになることを技能が習熟したと考える。

「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」については、次回以降、説明をしていきたいと思います。

現行学習指導要領の「三つの資質・能力」とは?②【田村学流 単元づくり・授業づくり#9】はこちらです。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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