小学校の理科授業は「引き算の授業」【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#4
「小学校理科」は子どもたちに考えさせることを大切にしています。自分で問題解決ができるようにしたい。頭でわかっているけども、具体的に授業ではどうしたらいいのか? 授業をしていると、例えば日常では経験しない塩酸を使う際に最初は教えないとわからないこともありますし、1日の気温の変化など生活経験があるものは子ども自身で考えることができることもあります。どこまで子どもに考えさせたらいいのか? この判断を先生は求められます。子どもに考えさせたければ、先生は話しすぎない。しかし、子どもがわからないにもかかわらず無理に考えさせても意味がありません。
子ども主体の授業は、教師は教えすぎない「引き算の授業」の考え方が大切です。どのようなバランスで授業をするのか考えながら見てみましょう。
執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.究極の目的は、子どもたちが「自分で科学的に問題解決ができる」こと
小学校では、「科学的に問題解決できる力をつけたい」とこれまでも述べました。これから大人になって必要になる力は、何か問題があった際に自分で解決できる「問題解決能力」や、合理性や効率性を意識し、ニーズをとらえた「創造する力」と考えています。
理科の力は特にその前者の「問題解決」に関わっているといえます。「問題解決」といっても理科ですから、単に問題解決ができるということではなく、そこに「科学的に解決する」という視点が入っているといえるでしょう。 つまり、これから大人になると問題解決の場面は様々出てくると思います。その中でも、科学的に解決していく場面があります。小学校の理科ではその基礎力を身につけたいということです。
2.小学校段階では、「自分で問題解決する」基礎を身につけられるように
小学校の理科では、「自分で解決する」ことを追体験させ、「問題解決の各過程で自分はどうすればいいのか、どのように考えればよいのか」を経験させて理解させています。問題解決と聞くと、自分ですべて解決できる「自立した」問題解決まで考える方もいらっしゃいますが、それは将来の目標と考えればいいと思います。小学校段階では、自立して問題解決できる場面はほとんどなく、現実的には教師が(子どもが教師に言われるように動いていると感じない程度に)導きながら子ども自身に考えさせながら解決させていくことを大切にします。子ども自身が「どうやって解決すればいいのだろう?」「どうやったら正しい結果が出るかな?」など、考える場面をしっかりと確保し、「自分で問題解決ができること」の基礎を身につけていきます。 このように、「自分で問題解決ができること」の基礎を身につけるためには、教師は、「問題解決はこうするんだよ!」といった教え込みの授業ではなく、子どもに考えさせる時間を確保し、自分自身で判断しながら解決することを大切にした「主体的な学習ができる授業」にする必要があります。
3.小学校の理科授業は、教師の手立てを減らす「引き算の授業」
理科の授業では、自分自身で問題を解決できる力をつけるために、「主体的な学習ができる」ようにする必要があります。このことは、逆にいうと、「教師が介入する(積極的に指導する)時間をできるだけ減らしたい」ということを意味します。つまり「引き算の授業」です。何でもかんでも先回りをして教えるのではなく、子どもたちに考えさせます。間違っても「なぜ間違えたのか」を考えさせるということです。
教師が先回りして教えたり、準備したりしたら、子どもが考える機会を失ってしまいます。子ども自身で解決するということは、教師が手助けをしながらも、子ども自身にこれまでの経験を踏まえてよりよい判断をさせる機会をつくることが大切です。私たち教師は、子どもたちの考えをしっかりとコーディネートしながらも、考えさせるべきところはしっかりと考えさせる、できるだけ手を出さない、先回りしすぎて言いすぎないという、「引き算の授業」の意識が大切になるのです。
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<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。