研修会授業の有効な見方は、これっ!【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話②】
全国での取材校数900に及ぶ「教育技術」担当記者が、取材時の学校現場で見聞きした、先生方の役に立つ、ちょっとしたネタを披露します。
目次
他の先生の授業は前方から見る
今回は、前回お話をした「学習阻害要因」に関連するお話をしたいと思います。
さて、我々が授業取材をお願いする場合、日常の授業に足を運ばせていただくことが比較的多いのですが、「ちょうど、研究会(あるいは研修会)用に授業を考えていたので、それを見に来られませんか?」と言っていただくこともあります。さらには、取材の授業に合わせ、校内(学年内)研修会のようなものを行われる場合もあります。
ちなみに、数えたことはありませんが、これまで、少なくとも100回くらいは研究会や研修会に足を運ぶ機会があったのではないかと思います。
そのように、研究会・研修会に足を運ぶたびに違和感を抱くのは、授業を見る先生方の立ち位置です。研究会や研修会の場では、大半の先生方が教室の後方に立ち、授業者のほうを見ておられるのです。とある自治体の有名研究校の校内研修に伺ったときだけは、一部の先生を除いて、ほとんどの先生が教室の横から子供たちのほうを見ておられました。しかし、これまで見てきた大多数の研究会・研修会では、多くの先生が後ろ側に立って授業者の姿を見ておられるのです。
よい授業であれば、参観者は子供の「学習阻害要因」にならない
とある研究会にお邪魔した際、子供の思考に沿って見事に組み立てられた授業を拝見したのですが、そこでも残念なことに資料写真を撮る先生方以外は、教室後方から授業を見ておられました。ただし、後で講評をなさる校長先生と指導主事の先生は、ずっと教室の前方から授業を見ておられたのです。そこで、研究会後、取材のお時間をいただいたときに、こうお尋ねをしたのです。
「先生方は、授業の講評をなさるために、授業を前方から見ておられましたよね。それは、学習指導要領が学び手である学習者の視点から整理されたものになったからですよね?」と。当然「そうだ」とおっしゃいます。
そこでさらに、「差しでがましいようですが」とお断りをしたうえで、次のように続けました。
「今日の授業は子供が主体的に考え、思考を深めていくすばらしいものでした。ただ先生方がほぼ全員後ろから見ておられて、子供の姿をつぶさに見ておられなかったのが、とても残念です。もっと、お二方のように、子供の姿を通して授業を見ることを教えてあげたほうがよいのではないでしょうか。
もちろん若い先生方は、自分がすべきことに精一杯で、まずベテランの先生の姿から学びたいという気持ちはあるでしょうし、その気持ちも分かります。しかし、どんなに一見すばらしく見える先生の行為も、学びの主体である子供に変容(思考の深まり)を生み出せなかったら、それはよい授業とは言えないでしょう。そうだとしたら、まず子供の姿の見えやすい位置に立つことを、教えてあげたほうがよいのではないでしょうか?」とお話しをすると、やはり同意してくださいました。
そのうえで先生方を弁護するように、指導主事の先生がこうお話しになったのです。
「おそらく、先生方は授業の邪魔になると配慮しておられるのだと思いますよ」と。
そこで前号でお話しをしたように、我々も「学習阻害要因」であると体感してきたこと。しかし、よい授業であればあるほど、すぐに関係のない他者は気にならなくなるという、多くの体験をご説明させていただきました。
こんなふうにお話しをすると、なんだか偉そうに聞こえるでしょうけれど、恥ずかしながら私自身も、取材を始めた当初から分かっていたわけではありません。駆けだしの教育記者だった頃、ある著名な先生が指導に来られた研究授業で、ずっと教室前方から子供たちにカメラを向けておられる姿を見たときは、その意味も分からず、「斎藤喜博先生を真似たパフォーマンスなのか?」と思ったほどです。
しかし自分自身が写真を撮るために、教室前方から子供たちの姿を撮りながら、時にやや後方に移動して授業者である先生の姿を撮っているうちに、「ああ、さっきの先生の指示が多すぎて、分からない顔をしている子が増えたぞ」「この課題に実感をもてていないから、今一つ子供たちが乗ってきていないな」「ああ、この問い返しで子供たちが真剣に考えだしたぞ」「課題がいいから、子供たちが身を乗りだして議論しているな」ということが、如実に見えるようになってきたのです。
そうすると、次第に子供の姿に対応する、先生の発問や指示、課題設定のよし悪しも見えてくるようになったと思っています。
昔から、優秀な先生方は「子供の姿から学ぶことが大切」と言ってこられました。それは言い換えれば、「子供の姿から先生の言動を省みる」ということでしょう。そのことは、先にも触れた通り、学習指導要領が現行に改訂されたことで、より明確になったと思います。
もし「そうだな」と思っていただけるのならば、ぜひこの機会に、研究会や研修会で授業をどの位置からどう見るかを考え直してみられてはいかがでしょうか。
授業名人が話す、よくない研究授業の見方とは?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話③】はこちらです。
執筆/矢ノ浦勝之