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この夏、見ておきたい「学ぶこと」の本質を映し出す教育映画2作品

2019/7/3

新学習指導要領で標榜されている「主体的・対話的で深い学び」。茫洋としたこの教育観に、不安や心もとなさを感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここで改めて、教育の本質とは何なのか?を考えるよい機会となる映画上映イベントを紹介します。教師の力量をどう高めるか、たくさんのヒントが散りばめられたこのイベントで、夏休みの1日に「教育とはなにか」について向き合ってみてはいかがでしょうか。

2人の教育プロフェッショナルの授業を切り出す2つの映画

2019年8月3日(土)、神奈川県相模原市にて、教育実践研究家 菊池省三先生をゲストに迎え、菊池先生の講演と教育映画を上映します。映画は、菊池先生の教師生活最後の一年間を追った教育ドキュメンタリー『ニッポンの教育 挑む(第二部)』(2016年)と、教育哲学の第一人者といわれた林竹二先生の授業記録『林竹二の授業 ビーバー』(1977年)の2本です。

菊池省三先生は、『教育技術』でも長期にわたり連載執筆していただいており、ご存じの方も多いと思います。北九州で長年の小学校教員を経て、高知県いの町に教育特使として迎えられ、「いの町 菊池学園」を開校。子どもたち同士のつながりが生まれる「ほめ言葉のシャワー」や、教師と子どもたちがより深くつながっていく「成長ノート」など、独自の実践をもとに、現在も教育改革に挑み続けています。

映画1『ニッポンの教育 挑む(第二部)』

今回、上映される『ニッポンの教育 挑む(第二部)』は、2016年に制作され、伊野小学校を舞台とし、菊池先生と子どもたちの一年間を追った教育現場のドキュメンタリーです。

いの町
高知県いの町、のどかで美しい景色にも注目 ~ 『ニッポンの教育 挑む(第二部)』 より

映画の中で象徴的に描かれているのが、“気になる子”である、男の子。 登場場面では、教室で覇気を失ったかのように倒れ込み、授業に拒否反応を示していました。あの手この手を使って教師たちは、彼を席につかせようとしますが、うまくいきません。映画が進むにつれ、彼は菊池先生の授業に興味を持ちはじめ、どんどん夢中になっていきます・・・。

教室に倒れ込む気になる子
教室に倒れ込む“気になる子”  ~ 『ニッポンの教育 挑む(第二部)』 より

はたして菊池先生はどのような指導で、子どもたちを授業に夢中にさせたのでしょう。いの町の優美な自然と、菊池先生の気迫、心や表情の変化を見せる子どもたち。観る人の胸に強く響くことでしょう。

菊池省三先生のコメント

「これからの時代を生きる子どもたちに必要は力とは何か? 教師や親、私たち大人に突き詰められた問題です。この映画を明日の教育を考えるきっかけにしてもらえれば、と強く願っています。」

映画2『林竹二の授業 ビーバー』

もう1本の映画、『林竹二の授業 ビーバー』は、1977年制作の映画でありながら、古い価値観や教育概念にとらわれることなく、子どもの可能性や教育の根本を痛烈に訴えかけてくるような作品です。

『林竹二の授業 ビーバー』
林竹二先生の授業の様子 ~『林竹二の授業 ビーバー』

林竹二先生とは、東北大学卒業後、ギリシャ哲学や日本思想史、教育史を研究。後に、アメリカやヨーロッパでも学問を究め、帰国後、1969年宮城教育大学長に就任。当時、全国に吹き荒れた大学紛争のさ中での独特の大学改革や大学づくりは、大きな話題をよびました。

その後、1972年頃から全国の小・中学校で「人間について」「開国」の授業を行い、次第に教育現場との関わりを深めていきます。

林先生は、「子どもの活発な発言によって進行する授業は、子どもの主体性が尊重された授業ではない」と考えます。一見、大半の教師が支持をしそうな、積極的な授業風景を思い浮かべますが、これでは、一部の子どもだけが授業に参加し、発言ができない子どもは授業からしめ出されてしまうというのです。授業のあるべき姿は、確かな知識をもった教師が、子どもの発言をきびしく吟味にかけること。授業の中で、問題を追いかけているうちに、子どもはやがて問題に追いつめられる、そこに教師の授業を組織するはたらきがあり、子どもは日常的な自己を乗り越え、「もっと学びたい」「深めたい」という欲求が生まれ、これにより、子どもに主体的な深い学びを実現させていきます。これが林流の授業なのです。

そして、林先生は、教師という職業を著書『記録 授業 人間について』でこう表現しています。「教師という職業は、きめられた一定の事を教えて、テストをして、それを評価して終わる如き仕事ではない。子どもの持っている無限の可能性を引き出す仕事だからこそ、高度に専門的な仕事なのである。」

本作は、1977年に制作されたもので、沖縄県の久茂地小学校(2014年に閉校)の3年生に行った授業の様子がおさめられています。

授業のテーマは「人間について」。

一見、小学3年生には突拍子もなく深く難しい議題にも思えますが、ビーバーの巧妙な巣づくりなどの生態と、人間の生活を対比させながら、写真や図解などを用いて人間について考えていく授業です。

林先生による明解な解説と、子どもたちの意見に対する吟味、難しい内容も咀嚼しながら限界を越えていく子どもたちの真剣な姿、映画制作スタッフも驚いた、子どもたちの美しい表情が記録されています。

授業を受ける子どもたち
授業を受ける子どもたちのキラキラした表情 ~ 『林竹二の授業 ビーバー』 より

林先生の授業は、どれほど子どもたちの探求心をゆさぶるものなのか、授業を受けた子どもたちの感想をいくつか紹介します。(原文ママ)
「・・・(前略)先生と勉強していると40分が10分くらいにおもえた。もっといっしょに勉強したかったのです。」
「・・・(前略)林先生の授業がはじまりました。しばらくして気づいたのですが、私は林先生という人はふつうの先生にはないものをもっている先生だな、と思いました。生徒一人一人に話しかけ答えがかえってくるとこんどはそれを深くついきゅうして問いかけます。」
「・・・(前略)林先生は答えを出すと、どこまでも問いつめるので勉強がたのしくできる。」

主体的・対話的かつ、子どもが時間を忘れて夢中になる林先生の授業とは? この映画を通して、唯一無二の林先生の授業を体験してください。

教育の神髄に触れる意見交換の場を提供したい

最後に、このイベントを主催する秋葉撮影考房の秋葉清功さんに、この2本の映画を上映する意図について伺いました。「私は日頃から、学力偏重主義的な今の教育ではなく、人間的な根本こそが教育の基礎であると考えています。そして、その事を改めて考える必要があるのではないかと思います。林先生の映画では、その事に力点をおいて映像の中で授業をされています。2020年度より変更になる学習指導要領において、1977年の映像と現在の菊池先生の授業を観ることで、学ぶ根本的な事は不変であるということ、これからの教育を考える上で、少しでもヒントになるのではと祈っています。上映後は、寺子屋交流会として、菊池先生を囲みながら、参加者の意見を交換し合う時間を設けています。若手の先生もぜひご参加ください。ともにこれからの教育を盛り上げていきましょう。」

上映会イベントの詳細 (外部サイト)

取材・文/大橋友紀 出典/グループ現代資料

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