校長からのパワハラ問題の傾向と対策は?【現場教師を悩ますもの】
「教師を支える会」を主宰する『現場教師の作戦参謀』こと諸富祥彦先生による連載です。教育現場の実状とともに、現場教師の悩みやつらさを解決するヒントを、実例に即しつつ語っていただきます。
目次
【今回の悩み】校長の言動がパワハラのように感じます
異動してきた校長に業務について進言したところ、「そんなことは前の校長から聞いていない!」と、ひどく怒鳴られました。他にもさまざまな仕事が事前の調整なしに下りてくるので、精神的に参っています。これはパワハラなのでしょうか。どういう対策を取ったらいいのか教えてほしいです。
(小学校教諭・学年主任・40代、教職年数:25年)
学校という特殊な環境はハラスメントが起きやすい
今、校長のパワハラ問題はとても多いです。今回は主任の先生からの相談ですが、とくに教頭先生が校長先生からパワハラを受けるという例が増えているようです。
私が相談を受ける範囲でも、人前で恥をかかせるような人格攻撃をしたり、個室に囲い込んで何時間も説教して帰してくれなかったり、そんなケースが多くあります。
例えば、これはある中学校の教頭先生から聞いた話です。この教頭先生は優しい印象の男性で、仕事の能力が特段高いというより、性格の良さを買われて出世してきたようなタイプでした。しかも、この教頭先生の奥さんが、同じ地域の別の中学校の校長職を務めていて、夫婦で管理職、ナイスカップルとして知られていました。
これが、たたき上げの校長から見れば気に入らないところだらけだったようで、日曜にわざわざ教頭先生夫妻を呼び出し、「この人はあれもできない、これもできない、無能だ」と、教頭先生のことをこき下ろし、奥さんの前で恥をかかせたそうです。これこそパワハラ、やりたい放題です。
普通は少し手前でブレーキがかかりそうなものです。しかし、校長になることでブレーキが利かなくなる人がいるのです。自分が天下を取って、何をしても許されるような錯覚を起こさせるのが「学校」という特殊な環境なのでしょう。世間の論理が働かない。だからこそハラスメントが起きやすいのです。
それはちょうど、学級担任が「学級王国」とでもいうような独特な環境のなかで感覚を麻痺させて、子どものいじめに加担するようなことが起きるのと似ています。
では、こういう時に部下の教員はどうしたらいいのか。限度の問題ですが、あまりにひどい場合はハラスメント委員会など、外部に持っていくしかないでしょう。今は社会がハラスメントに厳しいですから、教育委員会に訴えれば耳を傾けてくれるはずです。
ただ、その校長先生も異動してきたばかりでは、現場の状況もわからないでしょうし、校内に進言してくれる味方もいないでしょう。「問題を持った子どもというのは、実は本人が困っている子どもなのだ」と言われますが、それと同様に、周りから見て問題のある校長も、実はご本人自身が困っているのかもしれません。
パワハラではない可能性も。笑顔で進言してみよう
そもそも今回の相談のように、急に仕事を丸投げしたり、「聞いていない」といって怒ったりするのは、パワハラというより、その校長先生自身が、仕事の内容がきちんと頭に入っていない可能性があります。
校長のプライドの高さもあるのでしょう。人に頼ることが苦手な性格の方なのかもしれません。だから「ごめん、ちょっと教えて」と言えば済むようなことで怒鳴ってしまうのです。
こういう場合には、「校長先生、こんなふうにしたらどうですか?」と、やんわりと具体的に進言するのがいいでしょう。現場からきちんと提案を出してもらえたら、校長先生だって無視はできないはずですし、むしろそれを望んでいるかもしれません。
腫れ物に触るように接するのではなく、否定するのでもなく、これまでの現場の事情を知る者として、気楽に言ってあげたらいいのです。まずは笑顔で歩み寄って、穏やかに話しかけてみてはいかがでしょうか。
諸富祥彦●もろとみよしひこ 1963年、福岡県生まれ。筑波大学人間学類、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表を務め、長らく教師の悩みを聞いてきた。主な著書に『いい教師の条件』(SB新書)、『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』『教室に正義を!』(いずれも図書文化社)などがある。
諸富先生のワークショップや研修会情報については下記ホームページを参照してください。
https://morotomi.net/
取材・文/長尾康子